百四話 調査に出発
護衛という名目で、俺はシャルハムティ――シャンティと、町の中を散策していく。
けど、単純に遊ぶために歩いているわけではない。
「シャンティ。今日は、何を探すのが目的だったっけか?」
町中を歩く際は、俺は普段通りの口調で喋るという取り決めに従って、敬語はなしで尋ねた。
すると、シャンティは嬉しそうな顔の後で、得意気な顔になる。
「今日は、野菜や果物みたいな、食べ物を見て回るんです、だぜ。美味しそうなものがあったら、食べましょうね、だぜ」
頑張って口調を町人ぽくしようとしているけど、なにか間違っている感じがする。
俺はその様子に苦笑いすると、シャンティの頭に手を置いた。
「無理に口調を荒くする必要はないさ。ですます口調な人だって、町人の中にはいるんだからね」
「……そういうものでしょうか?」
少し納得しがたく思ってそうな様子だったけど、結局はシャンティも普段通りの口調になる。
「それで、ですね。食料品を見て回るのには、僕の領地で育てられそうなものがないかの調査と、そして――」
「シャンティを囮に、襲撃者を釣るんだろ?」
「――はい、その通りです!」
俺の言葉を受けて、シャンティはニコニコ顔になった。
襲われるかもしれないのに笑顔でいるのは、俺を信じているからなんだろう。
その信頼を、裏切らないようにしないといけないな。
気を引き締め直し、俺はシャンティに手を差し出す。
けど、どういう意味だろうという目で、シャンティに見返されてしまった。
「ほら、ここから先は混んでいるから。はぐれないように手を繋いでおこう」
「むぅ。僕は迷子になるほど、子供じゃないですよ」
シャンティは不満げな表情を見せたけど、俺の手を握った途端に再び笑顔に戻った。
「えへへー。こうやって手を引かれるのも、たまにはいいですね」
うきうきと、俺の手を何度も握り返してくる姿にを見て、少し不思議に思った。
「……ここ最近で、手を引いてもらったことはなかったのか?」
「うーんと小さいときに、母上にしてもらって以来ですね。使用人たちは、貴族の体に許しなく触れることは禁止なため、手を繋ぐなんてことはありません」
だから俺と手を繋げて嬉しいと言うように、満面の笑顔になる。
事情を知ると、その表情が不憫に思えてきた。
けど、シャンティは誰からも触られないことに、不満を抱いている様子はない。
なら、俺が同情するのは筋違いだなって、考え直すことにした。
「よし。じゃあ早速、買い食いに出発だな」
俺が明るく言うと、シャンティは間髪入れずに元気な返事をしてきた。
「はい――って、違います! 食べ物を見て回るのは、調査が第一の目的ですよ!」
途中で、表向きの目的を主張し始めたので、俺は意地悪い顔になる。
「でも、領地で育てるかもしれないなら、味を確かめておくのも重要だろ?」
「それは!――その通りですけど……」
「なら、買い食いは必要だな。それに、物を買ったほうが、どんな食べ物か店主が教えてくれるはずだしな」
「むぅ……。なんだか、いいように丸め込もうとしてませんか?」
そんな気はないと、シャンティの頭を撫で、手を繋ぎ直してから、食料品が並ぶ露店市場に入ったのだった。
腰痛が酷いので、今日は極端に短めです。
明日からの体調次第では、更新を何日か休むかもしれません。
お待ちしてくださる方々に、ちょっと悪い気はするので、私の他作品を紹介してお茶を濁したく思います。
自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する
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テグスの迷宮探訪録
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竜に生まれ変わっても、ニートはニートを続けるのだ!
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二次創作SS@PIXIV
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