プロローグ
テンプレ異世界転生ものです。
よろしくお願いします。
いまの俺は、くさくさと苛立っていた。
それは、背の順なら一番前という生来の小ささからか、学校で別クラスの数人に喧嘩を吹っかけられ。相手してやったら教師を呼ばれ。結果、なぜか俺が悪いことになったからだ。
たしかに、噛み付きやら金的やらの、あくどい手は使った。それはあの教師の指摘通りに、悪い行いだったと思う。
だけど、殴ろうとしても相手の顔に手が届かない、背の小ささをカバーするには仕方のないことだろう。
あと、俺の方には目立った怪我がないのも理由にあったっけか。
でも、こっちは一人だったのだ。明らかに、正当防衛が成立するはずで。せめて両成敗が落としどころだった筈なのに……。
いや、他人を下に見ることでしか自分を保てないような、小さいやつらのことを考えるのは止めよう。
ストレスは成長に悪影響があるらしいしな。
イライラしているのは、カルシウムを始めとするビタミンが体に足りていないせいだ、きっと。
家に帰ったら、ニボシの粉末を入れた牛乳を飲もう。
それに、思い悩むならば、もっと建設的なことについて考えるべきだろう。
たとえば、政治経済についてだとか。世界情勢についてとか。来期のテレビ番組や、新作ゲームや漫画とか。
もしくは、いま目の前で殺されかかっている、女性のこととかだ。
「え? いまなんて……」
自分が思ったのかを理解しようと、目の前をちゃんと見る。
そこには、スマホで談笑している女性。その背後に、逆手に握ったナイフを振り上げる帽子とマスク姿の人物。
「やめろーー!」
思わず俺はそう大声を発しながら走り、ナイフを持ったヤツに体当たりを食らわせた。
しかし、悲しいかな。相手は百八十はあろうという成人の男で、俺は度々小学生と間違われるような小さなガキだ。少しよろめかせることしか出来なかった。
それでも、マスク男が攻撃の手を止め、スマホ女性が迷惑そうな顔で後ろを見る効果はあった。
「きゃああああああああああーー!」
『なに、なに。どうしたの!?』
女性の悲鳴に、彼女が握るスマホからも焦った声が聞こえてくる。
俺は男に跳びかかり服を掴みながら、再度大声を上げた。
「人殺しだ! 逃げて! あと警察呼んで!!」
「あわわわー!」
スマホ女性は大慌てで逃げ始めた。こんなときでも、手に確りとスマホを握っているのが、やけに印象的だ。
でも、俺の大声はきっとスマホで喋っていた相手にも伝わっただろうし、この付近の住民も聞いたはずだ。
あとはどうにかして、この男をこの場に止めておけば、警察がやってきて逮捕してくれる。
背が小さくたって、やってやれるってところを見せてやる!
「くそっ。チャンスだったのに、このガキのせいで!」
「危なッ!?」
ナイフが掠った!
ああ、くそ。そうだ、ナイフ持っていたんだった。
こうなったら、背中によじ登って――これで簡単にはナイフで刺されない。
「下りろ、この。あの女は、殺してやらなくちゃ駄目なやつなんだ!」
「下りられるか! 背から下りたらナイフで殺すつもりだろ!」
背中に必死に張り付いて、振りまわらされるナイフに当たらないようにする。
このとき、初めて俺は自分の背の小ささに感謝した。きっと大きかったら、手や足にナイフが付き立っていただろうから。
それから、多分十分も経たないうちに自転車に乗った警察が二人やってきた。
彼らは自転車を飛び降りると、俺ごとナイフ男を地面に押し付ける。
何がなにやらと俺が息苦しく思っていると、何時の間にやら警察官は二人がかりで男だけを拘束していた。
俺は、それを路上にぽつんと座って見ていることに、遅まきながら気がつく。
それから少し遅れて、パトカーが何台もやってきた。その中の一台に、ナイフ男は後部座席に押し込められ連れてかれた。
自転車できた警察官は、なにやら偉そうな警察官にあれこれ聞かれている。
地面に座る俺の方には、美人の婦警さんがきた。
「お手柄ね。小さいヒーロー君」
「小さいは、余計ですよ」
そう言葉に出して、なんだか身体が震えてきた。
怖さを、いまさら実感したのだろう。
だからか、やけに寒い。
「ねえ、震えているけど――怪我してるじゃない! 大丈夫!?」
怪我しているって?
身体を見てみる。
足とわき腹から血が出てる。
足の血は、酷く出てる。
ナイフが刺さっていたらしい。
そう気付くと、痛みと寒気が増す。
目の前が暗くなる。
血が足りないのかな。
帰って、ニボシ粉末入りの牛乳飲まないと――