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第四話 子ども親睦会

俺が親睦会となる別室に着くと、既に子どもたちは幾つかのグループに分かれ、それぞれで楽しんでいた。やはりというべきか、アルフレッド王子とオリビア姫を中心としたグループが一番人が多く、俺も一応改めて挨拶だけでもしておくかと思っていると


「これはこれは、宰相の御子息様は随分と遅いご登場だな」


そう言って緑髪で目がつり上がり、少し小太りないかにもいじめっ子というような男の子が周りに何人か侍らせて俺に近付いてきた。確か、挨拶回りの時に確認したがタイラー家と対立している三大公爵家の一つエディンバラ家の御子息アントニー殿だった気がする。


「それとも、元々ここにいたが背が低くて俺の視界に入らなかったのかな?」


その言葉に周りの取り巻きたちが冷笑する。俺はどの世界でもこういうお約束ごとはあるんだなと思いながらとりあえず挨拶を行った。


「はじめまして。私の名前はジャックと申します。エディンバラ家御子息アントニー殿であっていますか?これから仲良くしていけたらと思います」


アントニーは俺から名前を当てられたので一瞬たじろいだ様子を見せたが、すぐに取り繕う。


「ふん。誰があんな狸の子どもなんかと仲良くするか。それにお前たちタイラー家は最近陛下に気に入られた成り上がりにすぎない。古くからこの国の名家であるエディンバラ家の俺に向かって仲良くしたいなどと甚だしい‼︎」

「いえ、たしかに父上は飄々としているところはありますが、決して自分のためだけに陛下に取り入ってるわけではありません。それに陛下が先程申していた通り、今日は無礼講。家格などは関係ないかと」

「俺に向かって物申すというのか‼︎では、お前はこの部屋にいる全員が対等だとでもいうのか?」

「はい。それともアントニー殿は陛下の言葉に刃向かうおつもりですか?」


俺の言葉にアントニーは暫く顔を赤めて俺のことを睨んでいたが、舌打ちをすると取り巻きたちを連れて俺のもとから去っていった。


うーん…あれが選民主義か。俺には受け入れられない考え方だな。


「ビックリしたわ。貴方、アントニーを退けるなんてまだまだ幼いのになかなかやるのね」


俺がアントニーや選民主義について考えていると、アントニーが去っていった方向とは別の方向から声をかけられた。振り返ってみると金髪紅眼の活発そうな女の子が俺に近付いてきた。彼女は貴族間での権力争いに未だ中立を保っているクラレンス侯爵家の長女キャサリン嬢だ。俺に対して面白いおもちゃを見つけた子どものような視線を向けてくる。


「はじめまして、キャサリン嬢。お見苦しいところをお見せしました」

「あら、私の名前も覚えていてくれているなんて嬉しいわ、ジャック君。ついでに、先程の貴方の言葉を示す為にもそんな畏まった話し方はやめてくれると嬉しいのだけど」

「いえ、自分は年下ですし、そういうわけにも…」

「レディーに対して年齢の話をするのはマナー違反よ、ジャック君。罰として普段通りのタメ口で話すことを命じます」


そう言って、ふふんと笑うキャサリン嬢。これは…何としても譲らないつもりなのだろう。まあ、俺としてもそちらの方が楽だから今回はのるけど…


「なら、お言葉に甘えさせていただきます。正直、丁寧な話し方だと普段使わないからか疲れるんだよね」

「そうそう。そちらの方がジャック君らしいわ。ついでに私のことはお姉様と呼んでくれてもいいのよ?」


そう言って茶目っ気に笑うキャサリン嬢。俺の中での印象はかなりフランクな姉御肌で定着し始めている。


「さすがにそれは…では、次会う機会までに考えておきますね」

「まあ、しょうがないわね」


肩をすくめるキャサリン嬢に俺も笑う。それから暫くキャサリン嬢とおしゃべりを楽しんだ。お互いに意気投合し、気が付けばそれなりに時間が過ぎてしまっており、他のご令嬢から呼ばれたキャサリン嬢は去っていった。俺もその後はウィセックス領内の伯爵家御子息ご令嬢などと挨拶を交わした。ふと、アルフレッド王子とオリビア姫のことが気になり、彼らがいた方向を見てみた。二人は未だ周りにいるたくさんの御子息ご令嬢に笑顔を見せておしゃべりをしている。オリビア姫もこのような場に慣れてきたようだ。しかし、二人とも少し疲れも出てきているようで所々で表情に翳りが見え始めていた。俺はマリー様によろしくと言われたことを思い出し、また唯一同年のアルフレッド王子と唯一年下のオリビア姫を嫌いになれないところがあったので、ここはお節介を一つやいてみるかなと二人の話がひと段落したのを見計らい、二人の元へと向かった。


「アルフレッド王子、オリビア姫。先程ぶりです」

「これはジャック殿、楽しんでいるかい?」

「先程ぶりです、ジャック様。先程は緊張のあまりお見苦しいところをお見せしました」

「いえ、大したことではないですよ。最初は誰でも緊張します。俺も楽しませていただいています、アルフレッド王子」


俺は挨拶を済ませると周りにいる子どもたちには聞かれないように二人に数歩近づいた。


「二人に少しお話ししたいことがありまして。席を外しませんか?

「…わかった。リビアもいいか?」

「はい」

アルフレッド王子は少し考えた後、俺の誘いに応じた。俺たち三人は部屋から出て、夜風にあたった。護衛には少し離れた位置で待機してもらっている。


「それで、話とは?」

「ないですよ」

「え?」

「だから、特に話したいことなんてないですよ」


俺の言葉に目を点にして固まるアルフレッド王子とオリビア姫。俺はそんな二人を見てクスリと笑った。


「なんだか、お二人がお疲れな様子でしたから。俺も始めてのこういう場に疲れていたので俺のサボりに二人に付き合ってもらっただけですよ」


俺がそう言うと、オリビア姫も肩の力を抜いて淡く笑った。


「気をつかわせてしまったみたいですね。たしかに、少し疲れていたので助かりました。ありがとうございます」

「俺は暫くここにいますが二人はどうします?」

「折角だから、もう少しここにいよう。ところでジャック殿は何故このようなことをした?俺とリビアが君に会ったのは先程が初めてで、特にこれといった面識もなかったはずだが…」


アルフレッド王子が真面目な顔で俺に聞いてくる。そんな大した理由じゃないんだけどな…


「人にお節介やくのに理由なんていりますか?まあ、敢えて言うならマリー様に頼まれたからですかね」

「お母様に頼まれた?」

「ええ、あの後マリー様に二人をよろしく頼むと言われたんですよ」

「お母様ったら…」

「そうだ。こんなことになるのも何かの縁。二人とも俺と友達になってくれませんか?」

「友達、か。そう言えばジャック殿はアントニー殿やキャサリン嬢ともそのようなことを話していたな」

「聞かれていたのなら話は早いです。まあ、アントニー殿とはうまくいけませんでしたが…」

「面白いことを言う奴がいると思って振り向いたら君がいたから興味を惹かれてね。それより、俺とリビアは王族。それでも友達になれると君は思うのか?」

「先程も聞いたと思いますが、そんなことは関係ありません。本人同士が相手をどう思うのか、です」

「王族をそんなこと、で済ますか。お前みたいな奴は始めてだよ。リビアはどう思う?」

「私もジャック様の言葉には驚いています。ただ、このようなことを言われたのは初めてで家族以外で仲良くしたいと思ったのも初めてです。出来れば、私も友達になりたいと思っています」

「なら、決まりだね。俺のことはジャックでいいよ。よろしくね」

「俺のことはアルでいいよ

「私のこともリビアと。よろしくお願いいたします、ジャック様」

「さて、そろそろ戻った方がいいかな?」

「そうだな。他の御子息ご令嬢たちが俺たちのことを気にしだしている」

「アル、なんか口調変わってない?」

「それを言うならジャックもだろう。これが俺の素なんだ」

「ふふっ。お兄様がこの口調で話すのは家族以外では初めてなんですよ?」

「そっか。なら、光栄に思わないとね。じゃあ、戻ろうか」


そう言って俺たち三人は会場へと戻った。その後もアルとリビアと話しながら、時々キャサリン嬢が話に入ってきたりとなかなか充実した親睦会になったと思う。

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