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第三話 社交界デビュー

カンッ。カンッ。


俺は今、剣での稽古をしている。相手は父ハロルドが冒険者ギルドから週一で雇ったモレラさんというAランク冒険者だ。この世界では冒険者なる職業があり、S〜Gランクまである。何故Aランクという優秀なモレラさんがガキな俺の指導をしてくれているかというと、ちょうどモレラさんが年をとって体力の衰えを感じているところに父上が声をかけたそうだ。父上も昔は冒険者をやっていた時期があり、冒険者の知り合いも多いということもあったのだろう。そんなモレラさんとの稽古も終わりに近づいてきた時だった。


「ジャック様、旦那様からの伝言で稽古が終わり次第書斎に来てくれ、とのことです」


執事長のダニエルから声をかけられた。俺は「わかった」と返事をして、またモレラさんとの稽古に集中した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして今、俺は父上の書斎の前にいる。


「父上、ジャックです」


部屋の中から「入りさない」と声がしたのを確認して俺は書斎の扉を開けた。父上は自分の机で仕事をしていたが、俺の姿を認めると俺を近くのソファーに案内して自らも俺と対面する位置に座った。


「それで父上。何か用ですか?」

「いや、そんなに大したことではないよ。ジャック、お前も5歳になった。そろそろ同年代の友達がいてもいい頃だろう。ちょうど来週に王城で王家主催のパーティーが催されるから、それに参加してもらおうと思っている。一般的には社交界にデビューするのは7、8歳とされているが、ジャックはどこか大人びているところがあるから大丈夫だろう」


そう言って父上は笑った。俺は父上を見ながら疑問に思ったことを父上に尋ねた。


「しかし、俺がそのパーティーに参加したとして同年代の人たちと会話する時間はあるのでしょうか?そのようなパーティーでは挨拶まわりなどであまりそのような時間はないと聞いたことがある気がしますが…」

「そんな心配はしなくていいよ。まあ、それについてはその時のお楽しみってね」


そう言ってウインクをする父上を見て俺は何か企んでるな、とため息を吐いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうこうする内にパーティー当日となった。


「それじゃあ、行ってきます」

「気をつけてね。緊張なんてしなくていいのよ。まあ、ジャックなら大丈夫だと思うけど」

「兄様、いってらっしゃい。兄様にくっつく女狐は叩き潰してきていいからね」


うん。ブラコンな妹に育ってくれて兄様嬉しいよ!だって兄様もイスカのことが大好きだからね‼︎だから今回は最後の一言は物騒だから聞こえなかったことにしておこう…


俺と父上は馬車に乗り、王城へと出発した。今日よ俺の服装は上下を黒で統一し、所々に金、銀様々な星などのコーデを施したものである。王城へは15分程で着いた。言い忘れていたが俺たちタイラー家は基本、王都にある邸に住んでいる。父上はウィセックスと王都を行き来しているが、俺とイスカと母上は少なくとも俺が生まれてから数度しかウィセックスへは行っていない。


俺たちが会場の中に入ると既にかなりの人々がいた。俺は父上に連れられ、様々な人々と挨拶を交わした。その後、ひと段落したしたので軽食を取りながら休憩をしているといきなり正面奥以外の光が消え、奥から数人の男女が現れた。


「あのお方たちが王族だよ」


父上が俺に耳打ちして教えてくれた。その間に王族の人たちの中央にいた優しいオーラのあるダンディーな男性が数歩前に出る。おそらくあの人が現国王オリバー王なのだろう。


「今日は王家主催のこのパーティーに良く集まってくれた。今回のパーティーは国内の貴族または大商人しか参加していない無礼講だ。だから、気楽に楽しんでくれればいいと思う。また、これは毎年のことだが、このパーティーは子どもたちの社交界デビューの場でもある。後で別室を子どもたち用に解放するので、そこで子どもたちなりに親交を深めてくれればと思う。今年は五歳になった私の子どもである長男のアルフレッドと四歳の妹のオリビアも参加することになっている。父としては自分の子どもにたくさん友達が出来ることは嬉しい。なので、どんどん話しかけて欲しいと思う」


そう言って一度、笑顔をつくるとオリバー王は元の位置へと戻り、会場はオリバー王の言葉に拍手を送っている。俺は隠していたことはこれかと父上のことを睨んだが、それを見た父上がいたずらっ子のように見返してきたので、ため息を吐くしかなかった。


王家の方々の紹介が終わると父ハロルドは俺を連れて王家の方々への挨拶へと向かった。俺はその途中で彼らを観察してみた。オリバー王の隣に立っている深海のような青髪の女性がオリバー王の妻であるマリー妃であろう。おっとりとした雰囲気を持ちながらどこかしっかりとした信念を抱いているような顔立ちをしている。この国は一夫多妻制なので側妃がいることは別段おかしいことではないが、珍しいことにオリバー王には側妃はいない。ここからも二人の仲の良さが伺える。そしてその隣には二人の子どもが寄り添うように立っていた。おそらくこの二人がアルフレッド王子とオリビア姫であると思われる。王子は金髪碧眼で目にはしっかりとした光が見える。また肩に力が入っていて緊張していることが伺えるがそれでも恥をかかないようにと頑張っているのだろう。対して隣の紫色の髪のオリビア姫は気弱そうで、この場の雰囲気にのまれたのかアルフレッド王子の腕の裾に両手で掴んでいるような


「やあ、オリバー。息子共々ご招待感謝するよ」

「おっ、ハルか。今日は楽しんでいってくれ。マリーも君が来るのを楽しみにしていたよ。そちらが君が自慢するジャック君かな?」

「お初にお目にかかります、国王様。タイラー公爵家当主ハロルドの息子ジャック・ディー・タイラーと申します。以後、お見知りおきを」

「しっかりしているんだね。ほら、アルとリビアも挨拶しなさい」

「タイラー公、アルフレッドといいます。よろしくお願いいたします」

「あの、オ、オリビアです…」

「二人ともよろしくね」


こんな感じでお互いに挨拶を交わした後、アルフレッド王子とオリビア姫は親睦会の会場である別室へと移動した。何故俺だけがここに残っているかというとオリバー王から呼び止められたからだ。


「話を聞くにジャック君は色々と勉強している神童だそうじゃないか。アルとリビアはやっと礼儀作法を学び始めたばかりだから、今日参加した理由の一つにその練習の一環ということもあるんだよ。それに比べたらジャック君は先程の自己紹介もしっかりと様になっている」

「いえ、将来この国のためと考えると自分もまだまだです。なので、これからも驕らずにしっかりと精進していきたいと思います」

「うんうん。良い心がけだね。妹のイスカちゃんも明るくて良い子だと聞いているしタイラー家は将来安泰かな?」

「本当に。自分の子どもか疑いたくなるくらいに二人ともしっかりしているよ」

「父上はもっとしっかりしてください。早く子離れもしてほしいものです」


俺の一言に父上は顔をしかめ、オリバー王は声を出して笑った。


「あははは。ハル、君は家に帰ると本当に立場が弱いね。奥さんだけではなく、子どもにも尻に敷かれているんじゃないの?」

「あら、貴方もそうじゃないの?」


突然、他の貴族の相手をしていたマリー妃がちょうどキリが良かったのか、こちらの話に入ってきた。


「おっと、ジャック君。君もそろそろ親睦会の方に行ったほうがいいんじゃないかな?」

「あらあら、明らかにわかりやすい話題転換ですこと。ジャック君、今日は時間がないみたいだから挨拶だけにしておくわ。はじめまして、マリーよ。アルとリビアのことよろしくね?」

「こちらこそ、マリー様。二人とは良い友達になれたらと思っています」

「ハハハ。オリバー、お前も俺とたいして変わらないじゃないか。ジャック、行ってきなさい」

「はい。では、これで失礼します。父上、オリバー国王様、マリー様」


そう言って、俺は近くにいた給仕に案内され、別室へと移動した。

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