第二話 親バカ
説明会です
俺は今、自分の部屋で魔法書を読んでいる。
「まあ、こんなもんかな…」
一通り読み終わり、本を閉じる。魔法自体は候補生の時から勉強していたのでこの世界でも自分の知識が通じるのかを確認していたのだ。調べてみると、この世界は魔法についてはかなり進んでいると考えられる。しかし、科学については全くと言っていい程解明されていないということがわかった。ファンタジーな小説について知ってる人はわかると思うが、チートな能力を手に入れるにあたって魔法と科学の知識を合わせる主人公は良くいる。もちろん、俺は候補生としてどちらの知識にも手をつけているので、これは俺にとっては好都合なことである。
「そろそろアイリが来るかな…」
遠くからバタバタと廊下を走って来る音が聞こえる。俺は今持っている魔法書を横においてその隣に置いてあった絵本を開く。
「ジャック様〜‼︎」
扉から涙を浮かべたアイリーンが現れた。
「いつもいつも、勝手に動かないでってお願いしてるじゃないですか〜」
そう言って俺のことを抱き上げる。
「エホンヨンデタノ」
心配してくれるのはありがたいが、残念なことに
「ウッ…そ、そんなかわいい顔しても騙されませんよ!」
俺の大根役者な演技にもコロッときそうなアイリーンに少し心配もする。
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さて、早速だが俺がいきなりこの世界に転生させられて三年が経った。特にこれといった変化は一つを除いてなかったので割愛させていただく。まあ、色々と乗り切ったとだけ伝えておこう。食べ物のこととかトイレのこととか自我のある赤ちゃんの宿命である。本当に大変だった。
さて、この三年で変わったこととは今、俺に向かって来る幼女のことである。
「兄ちゃま〜」
そう、妹のイスカが出来たことだ。金髪で背中まで伸びた髪を三つ編みにして垂らしている。目はエメラルドグリーンで輝いており、現在の身長は俺の胸辺りである。そして、その身長差をうまく利用して満面の笑みで俺に抱きついてきた。
「お父ちゃまとお母ちゃまがご飯できたから兄ちゃま呼んできてって!」
もう可愛すぎる‼︎候補生の時は勉学と修行で余り人と関わる時間がなかった俺からしたら、ある意味ここが天国でイスカが天使に見える。
「そっか。ありがとうね。じゃあ、一緒に行こうね。」
しかし、俺も神様候補生である。内心ではどう思っていようが、それは面には出さない。冷静に優しく微笑んで…
「じゃあ、お手てつないで行こっ?」
俺はイスカの下僕になってもいいかもしれない…
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俺たちが食卓に着くと既に父であるハロルドと母であるアメリアは席に座っていた。俺たちが楽しく食事をしている間に俺の家族やこの世界について軽く整理しておこう。父ハロルド・ディー・タイラーはここ、ヘプターシア王国の三大公爵の内の一つタイラー家の現当主である。金髪の短髪で目の色は紅色である。話は少し逸れるがここでヘプターシア王国についても話しておきたい。ヘプターシア王国は全部で七つの領地に分かれており、タイラー家は王都に一番近いウィセックスという領地を治めている。七つの領地はそれぞれを三大公爵と四大侯爵が治め、その一つの領地をまた細かく分けた地域を大きさなどによって伯爵や男爵が治めている。また、その地域の町や村にそれぞれ町長や村長がおり、この長が農民や商人のことを管理している。例えるなら、地球でいう会社と同じようなものだ。ヘプターシア王国は四方の内の三方を海に囲まれて、農作物、海産物ともに豊富で自然豊かな国であり、南はフランク聖国と接している。フランク聖国との関係は良好で今のところ、大した問題は起きていない。ヘプターシア王国の現国王はオリバー・ロイ・ウィリアムで、優秀な王として有名である。父ハロルドはそんなオリバー王の宰相として王国に貢献しているのである。これは噂だが、学生時代では剣の腕もかなりのものであったらしく、現将軍とも良きライバルであったというチート野郎である。母アメリアは四大侯爵の一つであるヨーク侯の二人兄妹として育ち、元は城で文官兼治療師として働いていたのをハロルドから見初められ、仲良くゴールインを果たした。ここで大事なのは政略結婚ではなく、恋愛結婚であるということだ。この国全体がそうであるとは言わないが少なくとも、この二人は恋愛結婚であり、俺とイスカにも恋愛結婚を勧めている。アメリアはハロルドに見初められるだけはあり、桃髪で肩より少し長いくらいの髪はとても綺麗で良く似合っている。目の色は青と緑が混ざったような色でとても優し気な雰囲気を醸し出している。アメリアの家族であるヨーク侯はバリバリの武官であり、アメリアの兄ロベルトは先程少し話した現ヘプターシア王国で将軍の地位に就いている。妹イスカの容姿については既に話したので割愛させていただくが、俺とは一年半の差があり、最近歩けるようになった。肝心の俺だが、容姿は黒髪の短髪であるが、光の加減や見る方向によっては紅色になるらしい(俺は確認したことがない)。目は完全に紅色で父と母の遺伝子をしっかり受け継いでいるらしくイケメンの部類に入るだろう整った顔立ちをしている。
「旦那様、そろそろ御支度の時間です。」
「おっと、そうか。家族で楽しく食事をしているといつも時間を忘れてしまう。では、そろそろ行ってこようか」
「貴方、お気をつけて」
「父ちゃま、行ってらっしゃ〜い‼︎」
と自分の思考の中で色々と整理している間にもうそんな時間か。なら、最後にこの家の主要な人物をさらっと整理しておこう。三大公爵の家なだけあって、この家はかなりデカい。もちろん、暮らしているのは俺たち家族だけでなく使用人も多い。その中でも今、ハロルドに声をかけた白髪の紳士な老人ダニエルは執事長をしており、タイラー家との付き合いも長いらしくかなり両親も信頼している。俺の専属メイドには黒髪ロングのアイリーンがなっており、俺の世話を色々としてくれている。
そんな充実した生活を送っている俺だが、一つだけ悩みがある。視線を感じたのでそちらを向くとアメリアとイスカを抱きしているハロルドの物欲しげな目線と合った。
(これって「ジャックは来てくれないの?」的な目線ですよね…)
そう、俺の悩みとは両親ともに親バカということだ。そりゃもう世間一般ではあり得ないくらいなバカさ加減なんですよ…‼︎まあ、悩みなんて言いながら俺も付き合ってあげてますけどね‼︎
俺は気づかれないようにため息を吐くと両手を広げて家族のもとへと歩いていった。
ダニエルが小さくだがクスリと笑ったのが視界の隅に映って悔しかったのでここでしっかりと伝えておく。