第一話 卒業試験は転生でテンプレでした
「マジか…」
目が覚めると知らない天井だった、とはこのことだろうとジャックはまるで他人事のように考えた。しかも、手足を動かそうにもほとんど動かすことができない。どうやら本当に転生してしまったようだ。心の中でため息を吐き、状況確認ということでジャックは周りを見渡した。とりあえず、転生早々野良犬などの食い物にされることはなさそうだ。なぜなら先程も言ったように上には天井があり、ここがどこかの部屋であることがわかる。そして、部屋の中には美女が二人いるだけだったからだ。また、一人はジャックのことを抱いておりおそらく母親であろうことが予想される。
すると、もう片方の俗に言うメイド服を着た美女が笑顔で母親らしき人にタオルを持ってきた。
「奥様、おめでとうございます‼︎」
「ありがとう、アイリ。これで私も母親ね」
「ええ、本当に…。よく頑張られました…」
「ふふ…この子は男の子のようね。アイリ、ハロルドを呼んで来て。後、お医者様のお手伝いを」
「そ、そうでした…。それでは奥様、失礼いたします」
そう言って、メイド服を着た美女は一礼してこの部屋から出て行く。
「ありがとう、ジャック。私たちの子どもとして生まれてきてくれて」
母親らしき女性は笑顔でジャックのことを見ている。この時ジャックは少しだけ罪悪感を覚えた。なぜなら、そのジャックという名前はこの女性たちからしたら一生懸命に考えた名前であるかもしれないが、実は元々ジャックであった名前を自分たちが考えたように思わされているからだ。また、ジャックは神様候補生なのであって彼女らの一般的に言う親孝行なるものをこれから先どのくらいできるかわからないからである。
ジャックがそんなことを考えていると部屋の外が騒がしくなり、いきなり扉が開かれた。
「アメリア‼︎大丈夫か⁉︎赤ちゃんは⁉︎」
「はいはい。そんなに煩くしたら赤ちゃんがかわいそうですよ。私もジャックも無事です」
そう言いながら、今現れたイケメン君はアメリアと呼ばれたジャックを抱いている女性のもとへと歩いて来た。そして俺はアメリアからイケメン君へと手渡される。
「いや、二人とも無事で本当に良かった。まだ混乱しててうまく言葉が出ないけど良く頑張ったね」
「貴方も混乱することはあるんですね。まあここは、どういたしまして、と申しておきます」
「うん。本当に…。でも、この子もおとなしいね。赤ちゃんはもっと煩いものだと思っていたよ」
「そういえば、ジャックは生まれて全く泣かないわ。大丈夫なのかしら?」
「え…?全くなのかい?それはまずいんじゃないかな?」
(おっと、これは話の雲行きが怪しくなってきたぞ?演技でもした方がいいのか?確かに俺が声出したのは最初の「マジか…」の時の「バブ…」一回だしな…)
「バブブ…?」
ジャックは少し頭を傾けながらアメリアを見た。
「あら、私たちが心配してるのがわかったのかしら?」
「そうかもね。もしそうならとても賢い子に育つぞ。とりあえず、声は出すようだし心配は無用だろう」
そこに部屋の扉がトントンとノックされた。
「旦那様、医者でございます。入ってもよろしいですか?」
「おっと。じゃあ、俺は一度退出しようかな。さっさと仕事を終わらせてまた戻ってくるよ」
「ええ。貴方もお仕事頑張ってね」
そう言って、イケメン君は手を振りながら部屋から出て行く。それを見送りながらジャックはこれからのことを考えずにはいられなかった。
(あぁ。マジでこれからどうしよう。何この卒業試験。転生してどうすんのよ?合格条件は人望を集めること、みたいなこと言ってたけどかなりアバウトだったしな…いいや、とりあえず寝よ)
決して現実逃避をしたわけではない、と言い切れないことが悲しいが、まあまだまだこれからだしなんとかなるでしょ…