フィーナ
また更新遅れました(;_;)
急に仕事忙しくなってしまって、さらに子供の世話と・・・
オラに時間を分けてくれぇぇ!!
サントリオ王国 ナジャル地区 山村
静かな風、透き通るような清流・・・
辺り一面を覆い尽くす緑の楽園が広がるこの地、ナジャル。
そんな喉かな土地の一角にある山間の村で騒動が起こった。
森で魔物が出たと村人達が騒いでいた。
この世界では魔物は古くから存在し、たまに人々に危害をくわえている。
それ事態は珍しくないのだが、この日は違っていた。
晴天のはずの空が急に曇りだし、大きな雷鳴とともに稲妻が降り注いだのだ。
村人はきっと恐ろしい魔物の仕業に違いないと騒ぎだした。
そのころ、村に訪れていた少女フィーナ・リオス・アルフルは騒ぎのあった森の近くにある民家に訪れていた。
その家は父親がいない母子家庭で、35歳の母イーザとその一人娘の6歳になるリリーが住んでいる。
「フィーナお姉様、恐いよぅ!」
リリーはさっきの雷に怯えていた。
フィーナの足にしがみつきながら震えている。
「大丈夫、雷は高いところにしか落ちないから、この家は大丈夫だよ」
優しく微笑みながら、フィーナは震えるリリーの頭を撫でて落ち着かせた。
「ほんとー?」
フィーナを見上げたリリーの顔は泣きべそをかいていた。
「あら、リリー泣いてるの?またマシューの所のトビーに笑われちゃうよー」
泣きべそをかいているリリーを少しからかった。
リリーは泣きながら「いやー!」と言ったが、その後もよほど雷が恐ろしかったのか、その後も少しべそかいていた。
「それにしても、変な雷ね」
そう言いながら、キッチンから顔をだしたのはイーザだ。
「えぇ、こんないい天気なのに森の上だけ急に曇りだして、いきなり雷なんて・・・」
まさか・・・
フィーナは言い知れぬ不安を感じた。
突然の異常気象に凄まじい雷、これは恐ろしい魔物が現れたのではないかと・・・
「叔母様、ちょっと見に行ってきますね!」
フィーナは壁に掛けてあった弓矢と短剣を取ると、玄関に向かって駆け出した。
「えっ!?ちょっと待って、フィーナ!そんな物持って何処へ行くの!」
イーザは慌てて飛び出すフィーナを追いかけた。
「フィーナ!まさかあの森に行くつもり!?」
馬に乗ろうとしたフィーナを引き留めようとした。
「恐ろしい魔物が出たかもしれない!」
「駄目よ!危険すぎるわ!」
「大丈夫!いざとなったら『魂のカケラ』を使うわ!」
「あの力は使っちゃ駄目よ!フィリア様みたいになってしまうわ!」
「私はお母様とは違うわ!だいじょーぶ!」
そう言うと手を振りながら、彼女は馬とともに遠ざかっていった。
イーザは只、遠ざかっていく彼女を見ていることしかできなかった。
村外れにある魔物が住む森、森の入り口には村人が作った柵で覆われていた。
柵は所々補修されており、過去に魔物が突き破って出てきた跡がわかる。
森の入り口に着いたフィーナは、馬を細い木に繋ぐとその柵にある扉に近づいた。
扉を開けようとしたが、鎖で頑丈に固定されいる。
更に扉の取手には大きい南京錠で施錠されていた。
「中には入れないか・・・」
柵の高さは4m近くあるが、頑張ればよじ登って乗り越えられなくもない。
フィーナは乗ってきた馬のサイドバッグからロープを取り出した。
手慣れた手つきでロープを投げ縄結びにすると、柵の上部にある飛び出た継ぎ目を狙って投げた。
上手く継ぎ目にロープが掛かった。
ロープを数回引っ張って、安全に掛かっているのを確認すると、フィーナは準備を始めた。
短剣を腰のベルトに差し込み、柵を登る時に邪魔になる矢筒と弓を柵の向こうに放った。
白いロングの髪を後ろで束ねてポニーテールにして
気合いを入れた。
「これでよし!」
準備を終えたフィーナは助走をつけて一気にロープを伝ってよじ登ると柵をヒラリと体を返し、シュトン!と柵の上から華麗に着地した。
森を見渡すとフィーナは落雷があった方角を探した。
すると、森の西側の方にうっすらと煙が上がっているのが見えた。
「あそこ、間違いない!」
きっと落雷の跡に違いない。
フィーナは弓と矢筒を拾い、目的地へ移動した。
森には不気味な雰囲気が漂っている。
動物の鳴き声は無く、風も吹いていない。
昼間だと言うのに、おい茂った木葉のせいで太陽の光を遮断して、辺りは日暮れほどの暗さになっている。
初めて森へ入ったフィーナは少し不安になり、手を胸において気を落ち着かせた。
煙が上がっている方角に歩いていると、さっきから視線を感じていた。
まずい、魔物かもしれない・・・
鼓動が早くなり、背中に冷や汗が流れる。
立ち止まってはいけない!
フィーナは少し早く歩き出す。
はや歩きはやがて、駆け足に変わった。
そして、視線を送っていた主も「獲物」を追い始めた。
「来た!オーグル!!」
視線の主は姿を現した。
オーグルと呼ばれるこの魔物は、森に住む魔物で一番凶暴な魔物である。
身長は4メートル近くあり、額の真ん中に角が生えている。
下顎から突き出るよう牙が2本生えており、いかにも怪物という緑色の肌をしている。
そして、特徴的な体は筋肉の塊と言っていいだろう。
凶悪な形相をしており、眼は赤く鈍い光を放っていた。
フィーナはその姿を確認すると狭い獣道にそれた。
オーグルは密集した木々に阻まれ身動きがとれないでいた。
幸いオーグルに知能は無く、ただ獲物を捉えることしか頭にない。
「ヴオオオォォォ!」
オーグルは木々に阻まれ、そのもどかしさで雄叫びをあげた。
フィーナは少しホッとしたが、次の瞬間驚愕した。
オーグルはその怪力で木をなぎ倒したのだ。
そのなぎ倒した木を掴むと、彼女めがけて投げつけてきた。
ドシュ!
太い木が槍のようにフィーナの足元に突き刺さった。
彼女はその衝撃で転倒してしまった。
「危なかった!」
気持ちを切り替え、体制を立て直して片膝をついた。
フィーナは矢筒から矢を取り出すと弓を構えて、オーグルの頭部に狙いをつけた。
シュッ!と放たれた矢は、オーグルの右肩に突き刺さった。
狙いが甘かった・・・
オーグルは悲鳴一つあげない。
オーグルの強靭な肉体には矢など通用しない。
狙うは目である。
精神を集中させ、弓を引いた。
その弓から放たれた矢は、まるで吸い込まれるように頭部に向かって飛翔した。
「ウガァァァ!!」
オーグルは悲痛な悲鳴をあげた。
フィーナの放った矢は、見事右目に命中していた。
怪物は目を抑え、刺さった矢を引き抜いた。
残った左目だけは遠近感がとれないのか、フィーナの位置をうまく認識できないでいる。
その隙に彼女は身を隠した。
獲物を見失ったオーグルは、「ウォォ」と低く唸ると退散していった。
それを確認したフィーナは、ほっと胸をなで下ろした。
気が付くと全身が冷や汗でビッショリになっていた。
「は、初めて魔物と戦った・・・」
彼女は震えながら笑っていた。
初の戦いで勝利したこと、魔物の恐怖、どちらに対しての震えなのかわからなかった。
(とにかく急ごう!)
フィーナは深呼吸して立ち上がると、目的地に向け移動を始めた。
彼女は駆け足で道を急いだ。
目的地までもうしばらくという所で、またオーグルの唸り声が聞こえた。
「ヴオオオォォー!!」
唸り声は落雷の地点からだった。
フィーナは急ぎ、落雷の地点に向かった。
「ああ!人が・・・」
人が四人、開けた草原で倒れていた。
それを森の木の陰から、さっきより巨大なオーグルが狙っていた。
「どうにかして助けないと!」
しかし、今の彼女になす術は無い。
弓だけで倒せるような相手ではないし、自分は魔物狩りのプロでも無い。
さっき初めて魔物と戦ったばかりだ。
かといって逃げるわけにはいかない・・・
彼女は覚悟を決めた。
彼女は両手を胸に当てると、小声で呟き始めた。
呪文のような言葉をいくつか唱えると、胸の中心が青白く光り始めた。
彼女は少し顔を顰めた。
その行為は痛みと苦しみが伴うものだった。
そして、その手の平には青く光り輝く小さな球体が宙を浮いていた。
″魂のカケラ″
それは、フィーナだけが使える魔法。
自分の魂を削り、その欠片を物や生物に命を吹き込む最大の魔法だ。
フィーナは近くにある大きな岩に体を向けると、その『魂のカケラ』を差し出し、唱えた。
「我が魂、汝に捧げる!生命を受けし精霊となりて我に従え!」
そう唱えると、その青く輝く球体はフィーナの手を離れ、岩に吸い込まれていった。
すると、岩が唸りを上げてみるみる形を変えていく。
魂のカケラを授かったゴツゴツした岩は巨大な人の形に変形し、岩の巨人に姿を変えた。
ゴーレムを召喚したフィーナはその場に膝をついて胸を押さえた。
初めて魔法を使った彼女は体力をかなり消耗していた。
動悸、息切れが激しく、今にも気絶しそうだ。
「ハァ、ハァ、我、汝に命ずる!ゴーレムよ、悪しき者から、あの人達を救い出せ!」
命令を受けたゴーレムはオーグルの方に振り向くと
、全速力で走り出した。
彼女も気を保ちながら、ゆっくりと立ち上がってゴーレムの後を追う。
ゴーレムの力は凄ましかった。
あの巨大なオーグルと対等かそれ以上の戦闘能力で戦っている。
フィーナは自分が召喚した者に身震いした。
「凄い・・・」
ゴーレムとオーグルは熾烈な戦いを繰り広げていると、倒れている4人の内の1人が叫んだ。
「くそおぉぉ!」
その声に気をとられたオーグルは隙を見せた。
(今だ!)
心の中で叫ぶと、それに同調するようにゴーレムは
右拳を怪物の頭部に打ち込んだ!
オーグルの頭部はゴーレムの一撃でひしゃげてしまった。
頭が無くなった胴体の首からは、天高く紫色のオーグルの血が吹き出した。
首を失ったオーグルは膝から崩れ落ちるように地面に倒れた。
ゴツゴツしたゴーレムの拳からオーグルの血が生々しく滴り落ちている。
フィーナはあまりの光景に口を押さえた。
ゴーレムは仕事を終えると倒れている人間に近づいた。
「やめて!ゴーレム、その人達は敵じゃない!」
ゴーレムはその一言で動きを止めた。
「その人達は無事!?」
ゴーレムは黙ったまま立ち止まっている。
倒れている男たちを見下ろしていた。
フィーナは倒れている1人に駆け寄った。
「誰だ・・・」
途切れそうな声で話しかけてきた彼は意識を失った。
慌て安否を確認したが、彼は気を失っただけだった。
他の4人の状態も確認したが大丈夫のようだ。
しかし、何故この人達はこんな所で倒れているのか・・・
その上、見たこともない斑模様の服に、謎の素材でできた鎧と兜を身に付けている。
傍らには鉄できた筒のような物が落ちていた。
「これ、なんだろう?」
手にとってみると、その鉄の筒はズッシリと重くて妙な形をしている。
筒の中を覗いてみたが暗くて良くわからない。
突起部分を押してみると、箱のような部品が落ちた
「こ、壊しちゃった!」
フィーナは焦った。
勝手に人の物を触って壊してしまった。
慌てて部品を拾い、元の部分に差し込むがうまく入らない。
なんとか差し込んだがこれで正しいのか・・・
無作法に弄るフィーナだった。
それが一撃で人間を殺傷できる武器「銃」とは知らず・・・
「これは、武器なのかな・・・」
何か危険な感じがしたフィーナは、そっと銃を置いた。
それよりも、今はこの魔物が徘徊する森を脱出することが先決だ。
だが、気を失っている人間を置いていくわけにはいかない。
フィーナはゴーレムに4人の搬送を命じた。
ゴーレムは4人と銃や荷物をを抱え上げると、フィーナもゴーレムの肩に乗った。
幸い帰りの道中はゴーレムの存在もあり、魔物は襲っては来なかった。
森の出口に近くと、イーザが心配して村人を連れて
待っていた。
「フィーナ様!ご無事で!」
村人達が駆け寄ってきた。
「そこの巨人!止まれ!」
村に駐在している守備兵がゴーレムに槍で威嚇した。
守備兵が警戒しながらゴーレムに近くと、フィーナは手を振って危険がないことを示した。
「大丈夫、安心して!この巨人は私が召喚したの」
笑顔でそう答えると、イーザが血相抱えて駆け寄ってきた。
「フィーナ!まさか、『魂のカケラ』を使ったの!?」
イーザの言葉で村人達がざわめいた。
「お嬢様!あの力は使ってはなりませぬ!フィリア様と同じような・・・」
人々は、力を使ったフィーナを気遣った。
村人達もフィーナの持つ能力は周知の事実だった。
過去にフィーナの母、フィリアはこの力を使い命を落としたのだ。
それ以来、この力は父より厳しく使用を禁じられていた。
彼女の叔母であるイーザは、そのことを一番心配していた。
「体は大丈夫!? どこも悪くない?」
イーザは彼女の肩を掴むと、体に異常がないか確かめた。
「叔母様、大丈夫ですって」
心配症なイーザに苦笑いしながら言った。
「それより、この人達をお願い!」
自分のことより、助けた4人の男達を
ゴーレムは4人の男達を下ろすと、村人が覗きこんできた。
「フィーナ様、この者達は一体・・・」
村人達がざわめき始めた。
見かけない服装、変わった鎧と兜、そして妙な鉄の筒など奇妙な出で立ちに人々は怪訝な表情を浮かべていた。
「森で倒れていたの。何故かは知らないけど、放ってはおけなくて・・・」
フィーナは彼「リョウ」の顔をじっと見つめながら言った。
村人はそね奇妙な出で立ちに魔の者ではないかと騒ぎだしたが、フィーナは彼等からは魔物のような邪悪な気は感じないから大丈夫だと説得した。
「まぁ、フィーナが言うのなら・・・」
イーザは彼女が持つ能力を信頼していた。
村人達もイーザの魔の者の気配を感じる能力や魔力に以前から助けられている。
「わかったわ!フィーナ・・・彼等を助けましょう
」
イーザは腰に手を当て、微笑んだ。
「ありがとう、叔母様!」
フィーナは微笑み返し、ほっと胸を撫で下ろした。
「とにかく、私の家に運びましょう!男達は手伝って頂戴!」
イーザは村人に指示を出すと、村人は慌ただしく動きだした。
4人はイーザの家に運ばれた。
広間にハンク、ジョー、キースが寝かされた。
リョウは少しうなされていて、熱も酷かったため、この家の元主人の部屋に移された。
「ここならベッドもあるし、安静に出来ると思うわ」
「ありがとう、叔母様。迷惑かけてしまってごめんなさい」
フィーナは礼を言うと、イーザは「いいのよ」と苦笑いした。
「まったく、あなたはバカが付くほど優しいんだから」
フィーナは苦笑いしながら、頭を掻いた。
「困った人を助けるのがナジャル人の伝統ですから・・・」
そう言った彼女は、少し寂しげな顔をした。
イーザは彼女の寂しげな顔に気づき、背中をさすってあげた。
「そうね、偉大なフィリア様の教えだものね!」
イーザは微笑み、彼女を元気づけた。
「さぁ、やることが山ほどあるわ!手伝ってもらうわよ」
「はい!」
フィーナは元気よく返事すると、二人は部屋を出て行った。
この時、フィーナはこの4人の人間を助けたことにより、混乱に巻き込まれるとは思ってもいなかった・・・
その後、部屋に戻ったフィーナは意識を取り戻した彼と対面することになる。
中二病全開の回ですw
次回は彼等が行き着いた異世界の地、ナジャルの説明回になりそうです。
銃撃戦はまだ先になりそう・・・
もう少しお付き合いくださいm(_ _)m
次回「ナジャル」乞うご期待!