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2019/3/6


 あれだけたくさんあったご飯も、既になくなり、今は食休みを兼ねた雑談タイムだ。マリーが食器を片付けている間、俺たち三人はランスの昔話に花を咲かせていた。どうやらランスは先生に育てられたらしく、幼少期のランスが如何に落ち着きがなかったかを先生が楽しそうに語っている。それを恥ずかしそうにきいているランスは少し可愛かった。


 話が一段落し、マリーも洗い物を終え、俺達の傍にやってきた。


「な、なぁ、レリア?」


 何故か緊張した様子のランスに、隣ではこれでもかというほどの満面の笑みを浮かべたマリー。対象的な二人の様子を怪しみつつも、俺は頭に疑問符を浮かべた。


「なぁに?」

「あー、その、な」

「もう、ランスったら。レリアちゃん、これ、プレゼントよ」

「あ、おい」


 ランスが後ろ手に回していた何かを、マリーが奪い取り、俺に手渡してきた。なんだろうか? 黒い布紐のようなものだ。よくよく見ると、きれいに編み込みがされており、少ないながらも装飾が施されている。


「レリアちゃんの髪も、ずいぶんと伸びたじゃない? だから――」


 俺が疑問符を浮かべていると、マリーはそう言いながら俺の後ろへと回った。

 

 確かに俺の髪は随分と伸びた。髪の長さは肩などとうに越え、もう直ぐ腰に届こうかという程だ。切るのも面倒だしと放置していたら、こんなになってしまっていた。それに、二人が俺の髪を梳いてくれるのがうれしいのもあって、なんとなく切れないでいた。


「可愛いレリアちゃんが、もっと可愛くなるおまじないよ?」


 そう言って、マリーは俺の長く伸びた髪を待ちあげ、何やら、ゴソゴソとし始めた。


「ふふ、どう? レリアちゃん、気に入ってくれた?」


 差し出された手鏡には、マリーと同じ髪型の俺が映っていた高く結ばれた髪の束は、真っ直ぐに下に降りており、その尾の付け根には先ほどの黒いリボン。ポニーテールだ。

 あの布紐は髪留めだったらしい。そう言えばマリーも毎朝布紐で髪を纏めていた。マリーの着けているものは白だけど。飾りも白色で、リボンでもないが、それでも俺とお揃いのポニーテールだ。

 お揃い。なんていい響きなのだろう。何かを共有することで絆が深まっている気がする。いや、気がするじゃなくて、確かに絆は深まっているはずだ。それならランスもポニーテールにと一瞬考えてしまったが、なんとなくヤバい気配がしたので頭を振ってその想像をかき消した。


「気に入らなかったかしら……」


 心配そうにマリーがそう言った。見ると、ランスも表情が硬くなっている。頭を振ってしまったのがいけなかったようだ。俺が、プレゼントが気に入らないと、そう見えたらしい。また、失敗した。まだ挽回はできると、大丈夫だと自分に言い聞かせつつ、自分の気持ちをちゃんと言葉にした。


「そんなことないよ! とっても嬉しい! ほら!」


 そう言って俺はすぐさま、自分の尻尾を追いかける子犬の様にクルクルと、フリフリと動き回る。さっきの行動は後ろが気になったからだと、そう思われるように。


「そう、よかったわ。レリアちゃんには黒が似合うと思ったの。やっぱり私の見立て通りね」

「おいおい、黒がいいと言ったのは俺だぞ」

「あら、いいじゃない、そんなこと」

「あのなぁ」


 よかった。二人の表情が柔らかくなった。なんとか弁解できたと判断した俺はホッと息を吐いた。

 確かに、二人の言う様に黒いリボンは俺の紅い髪とよく合っていた。ランスと同じ髪の色だ。付き合いの長いランスは何色が合うのかわかっているのだろう。うん。ランスとは髪の色がお揃いだ。そして髪型はマリーとお揃い。しかも、目の色はマリーとお揃いだし……。あ、でも目つきはランスとお揃いか。ふふふ。お揃いがいっぱいだ。怖いと思っていた目つきも、今では誇らしい。

 初めは何かわからなかったものの、髪留めとは、いいものを貰った。実用的だし、何より俺に似合っている。とはいえ、正直な話、何を貰っていてもこの二人からのプレゼントであれば喜んでもらっていただろう。二人からの贈り物というだけで俺は胸がいっぱいになるのだから。

 プレゼントとは何を貰うかではなく、誰に貰うかでその価値は大きく変わるのだと俺は思う。そして、俺にとってランスとマリーはプレゼントの価値を最も高くする二人なのだ。俺は火花を散らしている二人に向かってこう告げた。


「ありがとう!」


 飛び込んだ俺をしっかりと受け止めてくれる二人。ぎゅーっとすると、それをちゃんと返してくれる二人が、俺は大好きだ!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「マリーや、昼間は何かあったのかのう?」

「何!? 大丈夫か!?」

「ええ、私は大丈夫よ。ありがとう」


 今日のお誕生日会でずっと興奮していたレリアちゃんだったけれど、その分疲れたのか、すぐに寝てしまった。風邪を引くといけないので、レリアちゃんを寝室に運んだのだけれど、戻ってきたら、先生から先に話を切り出されてしまった。やっぱり敵わないわね。


「ということは、やはりレリアのことじゃな」

「はい、そうなんです……」


 やっぱり、先生は気づいていたみたい。未だに状況が読めていないランスはオロオロしている。なので、目で、これから話す旨を伝え、少し落ち着いてもらった。


「その、レリアちゃんが、魔法を使いたいって……」

「うーむ、そうじゃったか」

「それはっ、たしかに一大事だな……」


 ランスが一瞬叫びそうになり、すぐに声が小さくなった。この話はレリアちゃんには聞かせられない。だから、もし、レリアちゃんが起きてしまったら、この話は先送りになってしまう。ランスも、そのことを理解しているから、慌てて声を小さくしたんだと思う。


「俺は反対だ。黙っていてすまなかったが、レリアは魔力が極端に少ないんだ」

「ええ、知ってたわ。レリアちゃんが生まれたあの日、二人の話が聞こえていたの」

「そう、か……。すまなかった」

「レリアには、魔力のことは伝えてあるのかのう?」

「まだ伝えてないです」

「ふむ……」


 いつかはレリアちゃんに伝えなきゃいけない。それはわかってるんだけど、でも、もし伝えたら、レリアちゃんに恨まれそうで怖い。レリアちゃんの魔力が少ないのは、私のせいだし、レリアちゃんは魔法に憧れを持っている。魔法を見るときは、いつも目がキラキラしているんだもの。

 いつかは来るとわかっていた。けれど、先送りにしてしまっていた。見て見ぬふりをしていた。全く、母親失格だわ……。


「カラム先生は、どう思いますか? レリアちゃんが魔法を使うことに対して」

「うーむ。今までに見たことの症状じゃて、何か確信をもって言えるわけではないんじゃが、多少の使用なら問題ないはずじゃ。現に、レリアには魔力欠乏の症状が出ておらん。あれだけ魔力が少ないにもかかわらず、じゃ。それに魔臓も特に問題ないように見受けられるしのう。二人はどう思っておるんじゃ?」

「俺は反対だ。リスクが大きすぎる。レリアには言って聞かせれば魔法を使うのを諦めてくれるだろう。レリアは賢い子だ」


 私も、レリアちゃんを危険な目には合わせたくない。でも、レリアちゃんを押さえつけるような真似もしたくない。レリアちゃんが魔法を使いたいっていうなら、私はレリアちゃんを応援したい。かつての私のような生活を送ってほしくない。


「私は、レリアちゃんが望むなら、魔法を使って欲しい、と、思います」

「マリー。レリアが魔法を使えば、間違いなく魔力欠乏になる。それだけ、あの子の魔力は少ないんだ。マリーだって、わかっているだろう?」

「それは、わかってる。私だって、レリアちゃんには危険な目にはあってほしくない。でも、それでも、あの子には、自由でいて欲しいの。あの頃の私みたいになってほしくないの」

「あの頃の君と今のレリアは状況が違うだろ?」

「同じよ。あの子も私も、魔力に異常があるのよ。決定的な異常が」

「ふむ。二人共、すこし落ち着くんじゃ。あまり興奮すると、レリアが起きてしまうぞい?」

「「……」」


 先生の言葉に、私たちは押し黙った。

 私たちが黙ったのを見て、先生は再び口を開いた。


「意見が割れておるようじゃが、儂の意見を言おうかのう。儂はマリーの意見に賛成じゃ」

「先生っ」

「まぁ、落ち着け、ランスよ。先にも言ったが、今までレリアを観察してきたが、レリアは魔力が極端に少ないにもかかわらず、平然としておる。これはとても素晴らしいことじゃ。初めて見る症例故、断言はできんが、おそらくレリアは、少ない魔力でも活動できる体質を持っておるようじゃ」


 先生の言葉に、少しだけ安堵する。レリアちゃんの魔力量は、生きていく上では、支障のないものなのだと感じたからだ。私は、先生の言葉の続きに再度耳を傾けた。


「少ない魔力量でも活動できる体質をもつ者は少ないながらも、症例がある。初代国王クロスもそうだったと聞く。つまり、レリアが魔力欠乏症を引き起こす可能性は低いということじゃ」

「だけど先生。それはあくまで、可能性が低いって話だろう?」

「たしかにそうじゃ。じゃが、レリアが魔法を使った方が良い理由は他にもある。むしろ、ここからが本題じゃな」


 本題という言葉に、私たちは息を呑んだ。喉がカラカラしてくる。けれど、今はそんなことにかまっている暇はない。レリアちゃんの一生に関わる話なんだから。


「レリアの魔力は少ない。これはよいな」

「何度も言われなくてもわかってる」

「うむ。つまり、魔力の底が尽きやすいということじゃな。それは、レリアの体質を考慮しても危険なことじゃ。魔力が空になればしばらくは昏睡状態に陥るじゃろう。魔力欠乏の症状じゃな」

「ああ。だから、レリアは魔法を使うべきじゃないんだ」

「まぁ、そう、結論を急ぐでない。時に、ランスよ。子供の好奇心とは恐ろしいものじゃよな? お主も知っておるはずじゃ」

「それは、そうだが。レリアなら大丈夫だろう」

「いや、レリアも例外なく子供じゃ。少し大人びてはおるものの、好奇心は強い。儂の話を聞くときのレリアの目を見ればわかるじゃろう」

「だけど、レリアは利口だ。言って聞かせれば――」

「そうじゃな。レリアは聡い。こちらの言いたいことをすぐに汲んでくれる。じゃが、まだ子供じゃ。いつ好奇心で魔法を使おうとするかわからん。その時に、そばに誰もいなかったら? いや、むしろ、魔法の行使を禁止していたら、隠れてやろうとするじゃろう。誰もいない可能性のほうが高いじゃろうて、だが、訓練という名目であれば、あの子の性格じゃ。逐一こちらに相談してくるじゃろう。すぐに危険を察知できる」

「だけど、なぁ」

「他にもレリアが魔法を、いや、魔力操作の訓練をしたほうがよい理由はあるぞい」

「それは……?」

「お主らは精霊教を知っておるな?」

「ああ。精霊様がこの世界を作ったーって言うあれだろ?」

「そうじゃ。この国で広く信仰されておる宗教じゃ」

「それがレリアの魔力とどう関係するんだ?」

「うむ。精霊教ではのう、魔力は精霊から授けられた力であるとされておるんじゃ。そして、それは広く浸透している」

「ああ、わかってる。そのせいでマリーは……」

「ここまで言えばわかるじゃろう。魔力の少ないレリアは精霊教の下位の存在、或いは敵と認識されるかもしれんのじゃ」

「それは……。だが、それなら俺達が守ってやればいい。魔法を使えないことだって、隠しておけば問題ないだろう?」

「いや、そうもいかんじゃろうて。ランスよ。お主もヒトの子じゃ。寿命には逆らえん。いつまでもレリアを守ってやることは出来んのじゃ」

「それは……」

「それに、いつまでもレリアをこの森に留めておくつもりか? レリアが外の世界に興味を持った時、お主はレリアの足枷になるつもりなのか?」

「……」

「レリアが外に出れば、こんな国じゃ。魔法を使わなければならん機会は何れ訪れてしまうじゃろう。その時、お主が側に居てやれるとも限らん。じゃからこそ、レリアには魔法の訓練が必要なのじゃ。危険が伴うとは言えのう」


 ランスのこの顔を見るのは何度目だろう。昔はよくしていたこの顔。選択を迫られて、でも、選択できなくて、そんな自分が嫌で。唇をぎゅっと噛み締めて、血がにじんでも、それでも止めずに。目だって瞬き一つせず、きっとカラカラになってしまっているのに。


「少し話を変えるかのう。魔石については言っておるかのう?」

「はい。魔石は魔力の変換と補助を行うものです。この杖についている風の魔石なら、例えば、光の魔力を風の魔力に変換したり、或いは風の魔力を増幅させたり、ですね」

「そうじゃ。では、魔力の少ないレリアに魔石を与えれば、どうなるじゃろうのう」

「確かに、それなら魔力の少ないレリアちゃんでも安全に魔法を使えるかもしれないですね」

「そうじゃ。とは言え、問題が一つある。レリアの属性じゃ。レリアの属性に合わせた魔石を用意しなければ、補助は難しい」

「そうですね。間違った属性の魔石を使えば、魔力の増幅ではなく変換が行われてしまいますもんね……」

「そうじゃ。魔力の変換効率は魔石の等級にもよるが、決して良いとは言えぬ。間違った魔石を使えば、逆に魔法の行使が難しくなるんじゃ。だからこそ、一度は魔法を自力で使ってもらわんといかんのじゃ。魔道具で調べることも出来んかったしのう」

「ねぇ、ランス?」

「……わかった。そうだな。そうだ。今回の魔法訓練はレリアにとっては必要なことだな」

「ごめんなさい、ランス」

「いや。悪かった。レリアの意思を押し潰そうとしていたのは俺だ。俺の方こそすまん」

「うむ。話はまとまった様じゃな」


 その後、私たちは明け方まで訓練内容について話し合った。




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