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第38話 飴

更新遅れました。申し訳ないです。

 特に進展のないまま、三日が過ぎた。

 俺は事件を解決しようと息巻いたものの、特に行動を起こせないでいた。というのも、こんな事件がある街だ、一人外へ出歩くわけにもいかない。まぁ、俺は大丈夫だとは思うのだが、アリゼ達が心配するのだ。

 そして、そのアリゼ達だが、いつも忙しそうにしていてとてもおでかけを頼めるような状態にない。


 ということで、俺はこの数日を屋敷に引き籠って過しているという訳だ。


 今日も今日とて屋敷の中をぶらぶらとする。お爺ちゃんに挨拶をし、それからは何の目的もなく、フラフラ、フラフラと屋敷を彷徨うのである。


「ごめんください」


 どうやら、今日も来たようだ。訪問者は宿屋の主人、セレスタンだ。遊びに来いと言っておきながら、毎日のように遊びに来ているのである。店の方は大丈夫なのかと疑問なのだが、客いないらしいしな。大丈夫なのだろう。


「おぉ、お嬢ちゃん。おはよう」


 あぁ、おはよう。俺は軽く挨拶を済ませ、再び屋敷の徘徊を始めた。


 このセレスタン、屋敷に来ては俺の後ろをついてくるのだ。ニコニコしながら俺の行動をじっと見ているので、俺としては恥ずかしいのだが、どうも、やめてくれと言い出せずにいる。セレスタンの目を見ていると、どうしてもその一言が出てこないのだ。まぁ、元々声は出ないんだけどな。


「なぁ、お嬢ちゃん」


 たまに声を掛けて来るのだが、俺はその返答ができない。それを知ってか知らずか、セレスタンは、唯、一方的に話してくる。


「昨日な、久しぶりに客が来たんだ」


 おいおい、こんなとこに遊びに来てていいのか? 久しぶりの客なんだから相手しないといけないんじゃ……。


「それでな、その客が菓子をくれたんだが、食べるか?」


 菓子か。この世界にはそう言った嗜好品もあるんだな。高い物のようだし、俺が貰ってもいいのか? いや、待てよ。ここでセレスタンについて行けば、その後、街に調査に行けるんじゃないか? セレスタンは俺の後をついて来そうだし、それならアリゼ達を心配させるようなこともないだろう。



 俺は早速、アリゼに遊びに行くと伝えることにした。





「本当にいいの? セレスタンさん」

「はい、任せてください。今度こそ守ってみせます」

「……そう。それじゃあ、お願いしましょうかしら」

「はい!」

「レリアちゃん、あんまり迷惑かけないようにね。あなたなら大丈夫だと思うけど」


 俺は頷いて返事をした。宿で適当に菓子を食べたら、調査を始めよう。先ずは、居なくなった人の家を回るべきかな。んー、だとすると、居なくなった人がだれなのかを知る必要があるな。そこはセレスタンに訊けばいいだろう。

 

 俺達は紙とインクとペンを手に、セレスタンの宿へ向かった。



 宿は相変わらずガランとしていて、活気がない。宿屋兼酒場だったのだろうか、大広間とたくさんの机と椅子があったが、そこは既に使われなくなって随分と立つのだろう。そんな雰囲気の場所だった。


そこにある、比較的きれいない机と椅子に腰かける。厨房の出入り口に近い隅の席だ。そこだけは埃を被っていなかった。


「またせたな」


 奥へ入って行ったセレスタンが戻ってきた。その手には紙袋を持っており、おそらくそれが客から貰った菓子なのだろう。さっさとそれを食べて街へと繰り出そうか。


「こういうのは食べたことあるかい?」


 そう言って手渡された紙袋。中を覗くと、色とりどりの丸い何かが入っていた。匂いは無臭に近いだろうか。ほのかに果実の匂いがするが、薄すぎるし、いろいろ混ざっていて、何の果実なのかいまいちわからない。


 一つつまみ、口に放り込んだ。


 口に入れた瞬間、果実の匂いが口いっぱいに広がり、それに合わせ、舌に甘みがじわじわと侵食してくる。唾液がそれを溶かし、どんどんと甘みを増していき、痺れる様な甘みを脳に伝えた。


 形状、臭い、味から言ってこれは飴だろう。前の世界の飴ほど完成されておらず、匂いと甘さとがバラバラではあるが、久しぶりの嗜好品に俺の心は躍った。


 俺は袋に手を突っ込み、次々と口に飴を放り込んでいく。


 ガリッ、ボリ、ボリ、ボリ


 放り込んだ飴をすぐさま噛み砕き、次を放り込む。次々と変化する味は俺を楽しませてくれた。飴はやはり噛んでしまいたくなるな。勿体ない気もするが、こういう食べ方が好きなのだ。それに、量は結構あるみたいだし、こういう楽しみ方をしても問題ないだろう。


「そんなにおいしいのか?」

 

 そう言いながら手を伸ばしてくるセレスタン。何だ、食べていないのか。てっきり、もう食べた後だと。

 俺は袋の口をセレスタンに向けてやった。


「ほう、こいつは……」


 そう言いながら、俺を見習ってガリガリと飴をかみ砕くセレスタン。もっと味わって食べればいいのに。食べたことないんだろ?


「お嬢ちゃん、気に入ってくれてるとこ悪いんだが、全部は食べないで置いてくれるか?」


 ふむ、後でこっそり食べるつもりだろうか。しかし、セレスタンはもう一個食べたんだから十分だろう。悪いが、お前の分はない。


「いや、他に食べさせたい子がいるんだ。俺が食べるわけじゃないぞ?」


 おや? 顔に出てしまっていたのだろうか。まぁ、セレスタンが食べるんじゃないのなら、少しは残しておかないとな。


 袋の中身は既に半分ほどになっており、俺は最後に一つだけ口に放り込み、噛まずに味わって食べた。選んだのは緑色の飴、匂いは嗅いだことのない物だった。



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