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第25話 的中

「し、知っていますわ」


 少女の言葉に耳を疑ってしまう。駄目元で訊いたのだが、的中してしまったようだ。


[何処にいる?]

「そ、それは……、言えませんわ」


 は? ならもう用済みだな。二人仲良くあの世に行ってくれ。俺は一歩足を踏み出した。

 

「ひっ! あ、あの、い、言いますわ、言いますから……」


 どっちなんだよ、ハッキリしてくれ。俺は少女の立場を明確にするためにギロリと睨み、メイドの手を掴む。


「イネスには手を出さないで!」


 べっとりと付いた血がメイドの手を汚していく。


「そ、その前に、私の頼みを叶えたら、教えますわ」


 願い? こっちに何かを要求できる立場か? まぁ、でも、他に手掛かりはないわけだし、聞くだけ聞いてみるか。


 俺は先を促すように顎を振った。


「え、えぇ、何処から話すべきかしら……。そうですわ! そんな恰好では何ですし、一度身体を洗いませんこと? 今、水を汲んできますわ」


 その場を立ち去ろうとする少女。ちょっと待て、何も言わずに何処かへ行かれたら、こっちが困る。俺は少女の手を取ろうとした。


「ひっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 少女は俺が手に触れた瞬間、しゃがみ込み、ごめんなさいを繰り返し始めた。あぁ、使い物にならねぇ。まぁ、でも、こいつのいうことも一理ある。このままの格好で外へは出られないのは確かだ。


 俺はメイドの手を引き、路地の奥の方を指す。とりあえず、ここから移動だ。話はそれからにしよう。


 メイドも俺の意図がわかったのか、泣いている少女を抱き上げ、俺に従った。


 おっとその前に、忘れるところだった。俺が気絶させた男。気絶しただけで、死んではいないのだ。目撃者を残すところだったな。あ、いや? 目撃はしてないか。まぁでも、俺の顔見てるし、生かして置いても碌なことにはならないだろ。ふぅ、危ない危ない。


 俺は気持ちよさそうに伸びている男の頭に手を置き、魔力を流した。


 グシャ







 場所を移動したため、周りに死体は転がっていない。ここなら落ち着いて話せるだろう。


[メイドの方はアルについて知らないのか?]

「はい、申し訳ありませんが、私は何も」

「イネスに危害を加えたら、私、何もしゃべりませんわよ!」


 ある程度落ち着いてきた少女が噛みついてくるが、それは言動だけ。今も、メイドにしがみ付き、涙目で震えている。


 メイドの方は何も知らない、と。それなら生かして置くこともないのだが、知っている方の少女がこれじゃあな。まぁ、とりあえずは身体に付いた血を如何にかしないと。


 俺も興奮が収まって来たのか、少し冷静になることができた。先ずは水を用意するため、メイドに指示を出す。


[お前だけで水を汲んで来い。子供はここに残して行け]

「……わかりました」


 少しの葛藤を見せた後、メイドは俺の指示に頷いた。最悪、メイドの方は逃げても問題ない。情報を知っているのは少女の方だけだし。


「いや、イネス、行かないで」


 メイドの返答を聞いた少女は絶望の表情を浮かべ、メイドへ行かないでと懇願した。そりゃ、まぁ、先程のあの惨状を見れば、俺と二人きりになりたくはないよな……。少女の方の精神はまだ不安定だし、これで壊れてしまったら、いろいろ面倒だ。本当に殺すしかなくなる。


「……申し訳ありません、動けなくなりました」


 少女の言葉を耳にした途端、メイドはその動きを止め、俺に行けないと言う。仕方ないか、二人を引き離すのは止めておいてやろう。


[何処か身体を洗えるところは?]

「噴水か、川くらいしか……」


 そんなところで血を流したら、街中大騒ぎになるだろう。街の中にある噴水、乃至、川が真っ赤に染まるんだぞ? そんな真似できない。


「それなら、私の家に来ればいいですわ。頼みとも関係ありますし。イネス、参りますわよ」

「……畏まりました」


 どうやら、少女の家に向かう事になったらしい。主導権を握っているのは俺のはずなのだが。これだから子供は……。周りの意見なんか聞きはしない。自分が信じた物しか認めないんだからな。


 俺は二人の後を黙って付いて行った。




 辿り着いたのは大きな屋敷。しかし、そこは大きさばかりの建物だった。壁には蔦が這い、ひび割れ、屋根は崩れ落ちてしまっている場所もある。そして、柵は錆びつき、庭は荒れ放題だ。


「ここですわ」


 先程のチンピラがこの少女を元、侯爵家だと言っていたのを思い出す。そう言う事か。俺は一人納得した。


 ソロリ、ソロリと扉を開け、中を確認する少女。自分の家だろ? 何をそんなに慎重になっているんだ? まさか、他人の家じゃないよな? まぁ、お前らが逃げなくて、俺が血を洗い流せるなら、それで問題はないのだが。


 音を立てないよう、慎重に屋敷に入る。階段を上り、壁沿いを張りつくように進んだ。それはさながらスパイ映画の様で、ちょっとだけ楽しかったりする。



 そう言えば、二人とかくれんぼをしたことがあったな。俺は、何てことはない樹の根本にできた穴に隠れていたんだが、二人は一向に見つけてくれなかった。最終的には寂しくなって、自分で外へ出ていったっけ。

 例え、自分が鬼になっても、魔力のオーラで直ぐに二人を見つけてしまうんだから。二人と遊ぶのは楽しかったが、かくれんぼだけは嫌だったな。



 思い出に浸っていると、少女がこちらをじっと見ていた。


 どうした?――


「な、何でもないですわ」


 その時、不思議なことに、乾いたはずの血が、頬の部分だけ濡れていた。


今日の更新はここまでです。お疲れ様でした……。

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