第24話 二回目の復讐劇
「随分探したぜ、ガキ」
「心配させるなよな」
目の前に二人の男。俺の殺害目標の二人だった。
随分探したとは、面白いことを言う。お前らたいして俺を探してないだろう? だって、俺はお前らが泊まった宿の目と鼻の先で寝ていたんだからな。もし、昨日、宿に着いて直ぐ、俺を探し始めていたら、昨晩の内に俺は二人に見つかっていたはずだ。しかし、俺は見つからなかった。大方、俺の事を確認せずに宿に入ったか、夜に探すのが面倒で、翌朝からにしたんだろう。まったく、不用心すぎるぜ。
それに、奴らは、今、息だって上がっていない。必死に町中を探したにしては、随分体力があるんだな? どうせ、宿を出て、直ぐに俺を見つけたんだろう?
それと、もう一人の男。お前が心配しているのは俺ではなく、金の方だな。残念だが、その心配は無意味だ。お前達は金を手に入れる事は無いからな。
しかし、こっちとしてはここで俺を見つけてくれたことをありがたく思う。俺の思惑通りに動いてくれたんだからな。
人目に付かない路地裏。絶好の殺害ポジションだ。こいつらを殺しても、死体が発見される頃には俺はここを離れている。
「おい! そこのアンタたち! 一体なんなんだ!?」
「……こりゃぁ、平和じゃねぇな。ま、俺達にゃ関係ねぇけどよ」
「お、おい!」
「安心しな。俺達はなーんも見てねぇし、なーんも聞いてねぇ。このガキを捕まえに来ただけだ。な?」
「そうだな。ここには餓鬼しかいなかった」
「そ、そうか。話が早くて助かるぜ!」
「あぁ、お互いな」
最期の話は終わりか? 全く、話が長いな。さて、ようやく地獄へ、お二人様ご案内だ。
俺は諦めたようにゆっくりと二人に向かって歩いて行く。背中を丸め、両手をダラリと下げ、トボトボと。
「ったく、もう逃げるんじゃねえぞ?」
俺は男達の手を取り、挟まれるようにして歩き出す。もちろん、魔力を流しながら。
「ぐっ、くっ……ぁああああ」
「お、おい、どうし、うっ、うぅぅうああああ」
二人の腕が破裂した。肉片が辺りに飛び散り、ビタビタと音を立てながら壁に張りつく。
血の吹き出る肩を抑えながら、何が起こったのか全く理解できていない二人の男。似たような光景、見たことがあるだろう?
俺はニヤリと口元を歪め、二人の男を見据える。あぁ、その苦しむ様。恐怖に引き攣る顔。心が晴れていくようだ。
奴らが醜くなればなるほどに、俺の悦びは増していく。幸い、破裂させた部分は腕のみ。余力はあるし、愉しむ場所もたくさんある。次はどうしてやろうか。
「クソッ! クソッ、クソ、クソォォオ」
「来るな、来るな来るな来るなあああ」
あぁ煩い。その舌、引き抜いてしまおうか。いや、喉を無くしてしまった方がいいのか? 丁度二つあることだし、両方試してみればいいか。
先ずは腰を抜かしてない方の男から。表に出られたらまずい。俺は肩を抑えながら走って逃げる男の背中を追った。ヨロヨロと走る男は俺でも簡単に追いつける。それに、道にはいろんなものが転がっているから、そんな走り方じゃ直ぐにでも躓いてしまうだろう。
走る男の脚に掴み掛り、魔力を流し込む。
グシャ……ドサッ
片脚を失った男は前のめりに倒れ、それでも前に進もうともがいていた。
「やめろ……、やめてくれ……」
既に声は掠れ、目は虚ろだ。血を流し過ぎたのだろう。つまらない。
俺は男の持っていた縄を男の残った脚に縛り付け、ズルズルと引き摺り、道を引き返した。こんな奴、魔力を使う価値もない。片腕だけで逃げるさまを見ていた方がよっぽどか面白いだろう。
俺は縄の端を適当なところに結び付け、その男を放置した。
さて、もう一人の方だな。腰を抜かしてはいるものの、まだ、元気そうだな。
「バケモンがああ、来るなああああ」
相変わらず煩い。俺は男の口に手を突っ込み、その舌を掴む。ヌルヌルと湿った感触が気持ち悪い。こんなもの、早く無くしてしまおう。
ビシャァ
魔力を入れ過ぎたのか、舌だけでなく、下顎までもが無くなってしまった。ふむ、調節が難しいな。
「あががあああぁあ」
下顎が無くなったというのに、未だに叫び声を上げる男。全く何を言っているかわからないが、まだ煩いので舌を無くす作戦は失敗だな。
今度はその煩い喉を掴む。叫ぶたびに震える喉が手を擦るので擽ったい。声を上げて笑いたくなったため、それに従い、俺は口を開けて笑いながら、男の喉に慎重に魔力を注いだ。
ブシュッ
注意深く注いだ甲斐あって、今度は男の喉だけを破裂させることに成功する。血の流れる喉はボコボコと音を立てているが、先程よりも静かだ。煩い時は喉を破裂させた方がいいらしい。
次第に、ボコボコという音も弱くなり、そして、それも終わった。絶命したようだ。あとはここから離れるだけだな。アルの情報を探さないと。
振り返り、気付く。目撃者約四名の存在を。
メイドを取り押さえていた男は、メイドの上に座り込み、その下には大きな湖ができていた。人の上で漏らしたのかよ。メイドも災難だな。
一方、その下のメイドは眼を見開き、自身が濡れている事も気にならないのか、固まっていた。まぁ、上に人が乗ってるし、仕方ないか。でも、上の奴、放心状態だぞ? 簡単に抜けられると思うが。
もう一つの団体へ目を向けると、少女から手を離し、ナイフを構える男が立っていた。脚は震え、その目、鼻、口からは液体が流れ出し、その顔は酷いことになっている。
「うああああ」
ナイフを手に、それを振り下ろしてくる男。変な液体もまき散らしてくるし、汚いな。殺すか。まぁ、正当防衛だし、それに、現場を見られてる。問題ないだろう。
ナイフを避け、男の勢いを利用した投げ飛ばしを食らわす。そして、男の手からナイフを奪い、その胸に、ナイフを突き下ろした。
肉を割く感触が俺の手に伝わる。ナイフから、ドクドクとした心臓の鼓動が聞こえた気がした。ナイフを引き抜き、血が流れる出るのを眺める。
「た、助け――」
這う様にして漏らした男が逃げ出したので、思わず手に持っていたナイフを投げてしまった。ナイフは男の背中に突き刺さり、男は動かなくなった。さて、あと二人は……。
少女の方は隅の方でピチャピチャと音を立てながら胃の中の物を出していた。刺激がきつすぎたか? まぁ、直ぐに楽にしてやるよ。
俺は少女の方へと歩き出す。
「おやめください! どうか、どうかお嬢様だけは!」
俺の進路に、先程まで寝転がっていたメイドが立ちはだかった。だが、安心しろ。二人仲良くあの世行きだ。
「やめなさい、イネス」
「っ! 畏まり、ました」
少女の呟きで、俺に道を開けるメイド。本当の従者なら、ここは命令に背いてまで主人を守るものだろう。先程の懇願とのギャップに違和感を覚えた。まぁ、でも、そんな事気にしてもしょうがないか。
ここでふと思いつく。そのまま殺すのはもったいないなと。さっきの二人にも訊けば良かった。まぁ、反射的に殺してしまったところはあるし、仕方がないといえば仕方がないのだが。
俺は血で濡れた指で、近くの壁に文字を綴る。
[アルを知っているか?]




