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第23話 王都での出会い

胸糞展開アリです

 辺りが暗くなり始めた頃、俺達は王都に着いた。検問も難なくクリアし、王都の中に入ることができた俺は、逃げる準備をする。こんな人目に付く場所で人間二人も爆発させたら今後の活動に支障が出る。先ずはここから離れ、情報収集をしながら機会を窺おう。



 既に俺の縄は解けていた。解き方は簡単だ。縄に触れ、魔力を流し込むだけで、後は勝手に縄が崩壊してくれる。そう、文字通り崩壊だ。まるで、砂の城が崩れるかのようにサラサラと縄が崩壊していく。人を爆発させるほど疲れはしないし、便利な力である。


 俺は荷馬車から顔をだし、周りに人が居ないことを確認し、飛び降りた。受け身を取り、そのまま路地裏へと消える。毎日の訓練の賜物だ。受け身は基本らしいく、ランスとの訓練の中に組み込まれていたのだ。


 路地裏から奴らの様子を窺う。見つからないように跡をつけ、奴らが泊まる宿を確認して、直ぐにその場を離れた。きっと今頃俺を大慌てで探していることだろう。



 その日は路地裏に転がっていた箱を被り、一夜を過ごした。




 復讐することに何の意味がある?――


――意味なんてない。俺がしたいからするのだ。


 二人はそれで喜ぶのか?――


――喜ばないだろうな。


 では、なぜ復讐をする?――


――俺がしたいからだ。


 二人はそれを望むのか?――


――望まないだろうな


 では、なぜ復讐を――――




 頬を突かれる感触。ぷにぷにぷにぷに……


 ああ! うるさい!――


「やっと起きましたわ」


 手を払いつつ起き上がると、目の前にはピンク色の縦ロールを両サイドに携えた少女がしゃがんでいた。


「どうしてこんなところで寝てますの?」


 大きな瞳をパチクリさせながらそう質問してくるこの少女。顎を手に乗せ、膝に肘をついている。推定年齢は十歳程度。こんな幼い少女がどうして路地裏なんかに?


「言葉がわからないのかしら? ど・う・し・て――」


 あぁ、わかったわかった。どうして寝ているんだ、だったか? 俺は地面に文字を書いた。


[家がないからですが?]


 じっと俺の文字を見つめる少女。こいつも文字が読めなかったりするのか? コイツの服装はとても平民が着ている様なものではないと思ったのだが、王都ではこれが普通だったりするのだろうか。


「浮浪児の癖に文字が書けるなんて生意気ですわね」


 どうやら文字は読めるらしい。しかし、めんどくさい奴に捕まったものだ。さっさとここを離れるのが吉か? いや、しかし……。


「お嬢さま。来ました」

「わかったわ。イネス、下がりなさい」


 ペコリと頭を下げ、俺を抱えて物陰へと身を隠すメイド服の女。この少女の付き人か何かだろう。メイド服とかお嬢さまとか見る物すべてが新鮮だったが、独りで味わうこの新鮮さは何処か物悲しい。俺は無意識に、白い髪飾りに手を伸ばしていた。


 路地裏の向こうへ視線を向けると、三人組の男が歩いてくるのが見える。しかし、何故俺まで隠れなければならないんだ。関係ないだろ。早くあいつら殺しに行きたいんだが。


「おう、今日も一人でご苦労様なこった」

「誰のせいでそうなってると思ってるんですの?」

「あぁ? そんな口利いて良いとおもってんのか?」

「うるさいですわ。平民の癖に!」


 どうやら、チンピラに絡まれている様子の先程の少女。このメイドは助けに入らなくていいのか? 一応付き人だろ? 威勢よくチンピラに突っ掛っている様に見えるが、声が震えている。やはり怖いのだろう。


「おいおい、お前も平民だろ?」

「私はカリエール男爵家長女のエリザベートですわ! 平民と一緒にしないで下さいます?」

「はっ、元、男爵家、だろ? ったく、今月の分、持って来てんだろうな?」

「えぇ、これでいいですわね」

「これだけか?」

「仕方ないでしょ。これが限界だったんですわ。お父様に見つからずにこれだけ持ってくるのにどれほど苦労したか……」


 見ると、宝石のちりばめられた装飾品がチンピラの手の中に合った。ふむ、定期的に何か金になる物を渡す契約でもしているんだろう。


「おいおい、あんま舐めてっと、あの事バラしちまうぜ?」

「っ!」

「まぁ、いいや。んじゃ、今日も頼むわ」

「……わかり、ましたわ」

「へへ。御貴族様の御奉仕だぜ? 身に余る光栄だなぁ」


 金と身体か。まぁ、御愁傷様、だな。しかし、そんな事より、長い。奴らが逃げちまう。早く殺しに行きたいんだが。


「おいおい、あの餓鬼はお前の連れか?」


 路地裏から飛び出した俺を見たチンピラ共が少女を問い質した。悪いな、お前らに付き合ってる暇はないんだ。俺は勝手にするから、お前らも勝手にやってくれ。


「し、知りませんわ。浮浪児でしょう?」

「そうか。まぁ、いいや。見られちまったもんはしょうがねぇ。おい!」


 俺がその場を出ていこうとすると、進路を塞がれた。だから、俺は構ってる暇ないんだって。そっちはそっちで勝手にやってくれ。


「おいおい、逃げんじゃねぇぜ? 俺らとイイコトしようぜ」


 このロリコン共が、虫唾が走る。あんまりしつこいと、ヤッちまうぞ? 尚も進路を塞ぎ続けるチンピラをギロリと睨むことで威嚇した。


「おーおー、怖いねぇ。そんな子にはお仕置きが必要だなぁ」


 ニタニタと笑うその顔は吐き気がするし、その言動は鳥肌が立つ。俺は思わず手を出してしまった。


「何しやがる!」


 戦闘訓練を積んでいない者の動きは酷く鈍くて単調だ。覆いかぶさるように飛びかかってくる男の懐に入り、その顎に向かって拳を振り上げる。次に来た男の攻撃を避け、その顔面を蹴り飛ばした。

 アッパーを入れた男の方は上手く脳が揺れたのだろう。綺麗に伸びているが、蹴りを入れた方の男は鼻を押さえ、血をポタポタと垂らすだけで大したダメージはなさそうだ。


「お、おい! こいつがどうなってもいいのか!?」


 戦闘に参加しなかった男が少女を抱え、その首にナイフを当てている。


「た、たすけて」


 絞り出すようにして発したその声は、確かに助けを求めていた。少女は口を歪め、両目にいっぱいの涙を溜めて助けを求めている。


 うん、まぁ、いいよ? そいつがどうなっても。俺には関係ないし。この道通してくれたら、俺としては問題ないわけだが。


「エリザベート様!」


 先程のメイドが物陰から飛び出し、少女を救出しようと試みる。しかし、鼻血を垂らしていた男に取り押さえられてしまった。


「くっ!」

「へへ。ねーちゃん、久しぶりだな。何処行ってたんだ? 会いたかったぜぇ」


 捕まるくらいなら最初から出て来るなよ、面倒臭い。胸糞悪い声を聞きながらそんなことを思う。まぁ、そのおかげで進路は空いたわけだから、一応お礼はしておこう。


 俺は彼らに微笑んでから、意気揚々と路地裏から飛び出した。


4月12日 侯爵→男爵 に変更。

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