第22話 復讐の相手
ガラガラという、車輪の回る音で目が覚めた。あたりは薄暗く、息苦しい。俺は布の張られた荷馬車に横たわっているのだと気付いた。
先ずは状況確認をしなければ。耳を澄ますと男たちの声が聞こえる。
「――かったな」
「ああ。とんだ臨時収入だぜ」
「いくらで売れると思う?」
「知らねぇよ。でも、相場よりは高いと思うぜ?」
「そうか。……相場っていくらだ?」
「俺がそんな事知るわきゃねぇだろ」
「それもそうか」
「「はははは」」
聞こえてきたのは二人の男の会話。気を失う前の男達とは別の奴らのようだ。まぁ、奴らは確実に死んだし、同じであるはずがないがな。
いつでも逃げられるよう、俺は姿勢を直すことにした。しかし、身体が動かない。目を凝らしてみてみると、縄で縛られている。俺はしばらく様子を窺うことにした。
「でもよう、ほんとにいいのか?」
「んぁ? 何がだ?」
「そりゃ、アレだよ。あんだけ欲しがってた餓鬼だぜ? 他の奴に売っちまって……」
「んなもん、バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
「ん、まぁ……」
「どうせ魔物にでも襲われたんだろうが、ガキが生き残ってくれてラッキーだったな」
「そうだな。おかげで臨時収入だ」
「あぁ、これでしばらく遊んで暮らせるだろうさ。おし、ここらで休憩といくか。これなら、夜になるまでにゃあ王都に着けるだろ」
車が止まった。どうやら休憩のようだ。
「そーれ、ごかいちょーう」
意気揚々とした声で、布が取り払われる。
「なんだ、起きてんじゃねぇか。ちょうどいい。……よっこらせっと」
男は俺を担ぎ、歩き出す、向かう先は川のようだ。大丈夫、先程の奴らの会話から、俺は何処かに売られるらしいことはわかっている。商品に手荒な真似はしないだろう。
俺は大人しく、男の肩に担がれる。
川のほとりに着くと、縄を首に巻かれ、他は解かれた。
「おら、服を脱げ」
「おい、お前、そう言う……」
「バカいえ! んなわけあるか! こんな恰好じゃ足元見られちまうだろが!」
「あぁ、なるほど」
俺は今、全身血まみれだ。奴らの返り血を頭から被っており、ちょっと気持ちが悪い。替えの服も何処から用意したのだろうか、男が手に持っていたので問題ない。俺は服を脱ぎ、血を洗い流すことにした。
先程の会話を思い出す。どうやら俺は何処かに売り飛ばされるらしい。そして、その場所は王都だ。
この国の王都。何度も聞いたことはあるが、実際に目にするのは初めて。いや、王都どころか、この川だって、何だって、森の外にある物を見るのは初めてだった。
二人と一緒に見たかったな――
叶わぬ願いが浮かび上がってくる。それもこれもあいつらのせいで! 俺はあの男達を直ぐにでも殺してしまいたい衝動に駆られる。殺すのは簡単だ。奴らに触れ、魔力を流し込むだけでいい。酷く疲れるだろうが、奴らは絶命するのだ。なんて簡単なことだろうか。
しかし、俺はそれをグッと堪えた。奴らの話では俺達を襲うように指示した依頼主がいるらしい。俺が殺した男も依頼がどうのこうのと言っていた。先ずはそいつを見つけないと。その情報が得られるまでは、奴らを生かしておこう。ここで殺してしまっては復讐が難しくなる。今は我慢だ。
俺は着替えを終え、男達の元へ戻った。
[お前らの依頼主は誰だ? 答えないと爆発するぞ?]
あの惨状を知っているはずだ。少しは怯えて話してくれるかもしれない。まぁ、可能性は低いが。たぶん俺がやったなんて思ってないだろうし。
俺は、自分が縄で縛られる前に、地面に文字を書き、男達に見せた。
「おい、お前、なんて書いてあるかわかるか?」
「わかると思うか?」
「だよな」
「だな」
こいつら、文字が読めないのか? クソッ! これじゃ聴き出せないじゃないか! いっそここで殺すか? いや、待てよ? そう言えばこいつら王都に行くと言っていたな……。
その後、俺はとりあえず大人しく縄で縛られ、荷馬車に転がされた。王都までに向かう道中、俺は奴らの会話を聞きながら、先程の閃きを整理する。
俺達の家が襲われる数日前に現れた、あの少年たち。彼らが来てから何もかもがおかしくなった。ランスが襲われ、マリーが倒れ、我が家が崩壊したのだ。何か繋がりがあるに違いない。
そして、アルと呼ばれた少年が言っていた『英雄殺し』という言葉。その言葉は俺が初めに殺したあの男も言っていた。ここから導き出される、ある推論。
アルはランスを殺したいほど憎んでいる。しかし、自分にその力はなかった。そこで、人を雇い、俺達を襲わせた。
俺を欲しがった理由は? どうせ子供には罪がないから助けたいとかそんな理由だろう。英雄に憧れるくらいだ。強ち間違ってないんじゃないか? それならマリーは? あいつらはマリーの存在を知らない。なら、マリーについて何か命令を下せるとは思えない。
すべて説明がつく。元凶はあの少年達だ。
あいつらを見つけて殺す。では、あいつらは何処にいる? 答えは王都だ。初めてあいつらにあった時、俺達は王都への道を訊かれた。なら、行先は王都だ。少なくとも、王都へ行けば何か掴めるだろう。
俺達は今、ちょうど王都へ向かっている。こいつらはそこで殺そう。それまでの道案内だ。
ははは、地獄への道案内、精々楽しむんだな。俺はお前らを許さない。俺の大切なものを奪った奴ら全員、殺すまで俺は探し続けるぞ。例え何人だろうが、探し出して、殺してやる!




