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第17話 疑念

~~~工事中~~~

差し替えまだです。

 翌朝、俺は何とかドレスに着替え、エマニュエル達を見送った。エマニュエルはいつもと同じように、初めて会った時の微笑みを浮かべていた。



 エマニュエル達が去った後、俺は何事も無かったかのように過ごす事などできるはずもなく、重い日常を過ごしていた。

 二人は変わらず接してくれたが、元に戻るにはそれなりの時間が必要だった。


 


 気持ちの整理がつき始めた頃、俺とランスは樹を切りに来ていた。もうすぐ本格的な冬になる。そうなると薪の消費量が急上昇するのだ。

 使いたい時に使えないのではいけない。そのために、俺達は多くの薪を作りに来たのだった。




……カッ……カッ……カッ


 適当な太さの樹に刃を入れるランス。俺はランスが倒した樹の枝を切り落とす作業だ。


 二人して黙々と作業に没頭する。俺は鉈を使っていたが、刃の部分が金属なのと、打ち込む相手に魔力が宿っていないからだろう、鉈が折れる事は無かった。


「おーい。おーーーい」


 作業に没頭していると、こちらに呼びかける声が聞こえた。声のした方を見ると、少年少女、合わせて三人の若者がこちらに走ってくるのが見える。


「あぁ、よかった、人が居て……。すいません、王都へはどちらへ行ったらよいでしょうか」


 先程、叫んでいたと思われる少年が一人、そう質問した。他の二人よりも足が速いようで、一人だけ先に着いたのだ。


「王都か? それならあっちだぞ」


 そう言って東の方を指すランス。遅れて、二人も到着した。


「はぁ、はぁ、はぁ……。あの、王都、へ、は」

「それならもう俺が訊いた。あっちだってさ」

「そう、か。ふぅ……、ありがとうご、ざ、ぃ――」


 遅れてやって来た方の少年が御礼を言うため、頭を上げた途端、彼の目の色が警戒のそれへと変わった。


「あんた、名前は?」

「俺か? 俺はランスだ。で、こっちが――」

「うぉりゃあああ」


 ランスが名乗った途端、いきなり斬りかかってくる少年。フリュベールの物よりも幾分か小さい両手剣をランスに向かって振り下ろしてきた。


「おっと」


 ランスはそれを難なく避け、俺を庇う様にして前に立った。いきなりどうした? こんな子供が斬りかかってくるなんて……、今までそんな事なったぞ?


「おいおい、アル。いきなりどうした?」

「それはこっちのセリフだ! コイツの名前を聞いただろ!」

「名前って……。いや、でも……。ランスなんて何処にでもありそうな名前じゃないか」

「コイツの目。俺は覚えてる。あの日、兜の隙間から見たあの目だ。間違いない」

「……本当、なのか?」


 少年達のやり取りを黙って見つめるランス。後ろからなのでその表情は見えないが、何時でも対処できるよう身構えてはいた。


 もう一人の少年も片手剣を抜く。


 二人の少年は警戒するように武器を構え、ランスへと向けていた。それを見た少女はオロオロとするばかりだ。


「いったいどうした? いきなり剣を向けるなんて、どうかしてるぜ?」


 少し呆れ気味に言うランスだったが、警戒は解いていない。幸い、先程まで木を切り倒していたので、斧を手に持っている。俺も枝を切り落とせる程度の鉈を持っているため、丸腰という訳ではない。



「お前、英雄殺しだろ! 恍けたって無駄だ! 俺はお前を覚えてるんだからな!」


 初めて聞いた『英雄殺し』という単語。ランスが英雄殺し? どういう事なんだ? 冒険家時代に何かやらかしていたのか?

 ランスへの疑問が頭の中に浮かんで来る。しかし、俺はそれを揉み消した。今はそんなことを気にしている場合ではない。この状況をなんとかしないと。


「シルヴァンさんの仇!」


 そう叫び、アルと呼ばれた少年が再び斬りかかってきた。一方、もう一人の少年は空いている片手に魔力を集中させている。

 少女の方も、止めてくれればいいものを、狼狽するばかりで動かない。


 ランスは両手剣を斧で受け止め、それを弾く。弾かれた両手剣は少年の手を離れ、誰もいない方へと飛んで行った。剣を弾かれた少年はランスに蹴られ、尻餅をつく。


 しかし、もう一人の少年の魔法がもうすぐ完成してしまう。少年の剣を弾くため、隙ができてしまったランスは、きっとあの魔法を避けられないだろう。


 俺は咄嗟に手に持っていた鉈を少年の方へ投げた。


「チッ。……はあ!」


 俺の投げた鉈に気付いた少年は、魔力でできた水の塊を鉈へとぶつける。よかった。これでランスは大丈夫だ。


 すぐさまランスは魔法を放った少年に近寄り、武器を落とさせ、無力化した。


「おい、危ないぞ! 今は娘がいるんだ。だから死ぬわけにはいかない。諦めろ」


 低く、脅すようにそう告げるランス。ランスが本気で怒った所なんて初めて見たかもしれない。

 

「クソッ、覚えてろよ! 何時かぶっ殺してやる!」


 そう、言い残して走り去った少年。ランスに解放され、その後を追う少年。取り残された少女は、ワタワタとした後、二人を追いかけようとした。

 しかし、数歩走ったところで少女は振り返り、こちらにペコリとお辞儀をすると、再び森の奥へと走って行った。


 残された俺たちの間に重い空気が漂う。


 英雄殺し? いったいなんなんだ? 響きから言って良い雰囲気ではないが……。それに、アルと呼ばれた少年は仇とも言っていた。シルヴァン、彼が英雄なのだろうか。それをランスが殺した? 何故? 先程揉み消した疑問が再び浮かんでくる。



 一人悶々としている俺に、ランスは振り向き、こう告げた。


「さっきはありがとな。助かった。でも、次からはあんな危ない真似しちゃだめだぞ? 当たったら怪我じゃ済まないかもしれないからな」


 俺はそれに頷いて答えた。襲ってきた相手の事を心配するこの男が英雄殺し? 何かの間違いじゃないのか? そもそも、英雄殺しってなんだ? ランスに訊いてもいいのか? 



 答えの出ない疑問に悪戦苦闘する俺であった。


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