校内事件 1
一日の日
私はいつもドジっ子で、明るくて、私には一つもない才ばかり持っている彼女の面倒を見ていた。年は大きく下に離れていて、今の私から見ると、高校生の彼女はずいぶんと可愛いものに思えた。
彼女は最近、私との会話を避けているように思えた。
なぜか私に隠し事をするようになった。昔はそんなことしなかったのに。
でも私は彼女のすべてを知っている。だって姉だもの、三人しかいない家族で、私はいつも彼女を見ている。もちろん彼女の隠し事も知っている。
背中を押してあげたい。
小さくても、私よりも、父よりも、そして誰に対しても優しかった母よりも大きな背中を私は押してあげたい。
でも、やはり自分でやらなければならないだろう。
私はそう思って、今日も小心者の可愛い妹を見つめていた。
俺が高校を入学して、彼女と出会ってから数週間後。桜の花もすっかりと葉桜に変り果て、入学式の初々しさも抜けていく今日この頃だった。この時期になると、ここ川根は静岡のどの土地よりも気温が高くなる時期となる。高原は意外と暑い所なのだ。冬は冬で、静岡では珍しい雪も頻りに降るし、梅雨は梅雨で、山の土地では降雨量も多い。ここは季節を気候で感じるには一番の土地だった。最も暑すぎるのも寒すぎるのも俺にとっては、はた迷惑だし、それに子供のときは、夏に海へ行けなかったり、海釣りも出来なかったのも残念だった。だから、夏は川で遊ぶのが小さい頃の日課。
それでも今はそんな事をしなくなった高校生。大人に一歩近づいた高校生。俺は田舎育ちながらも高校生活という一種の充実感を味わっていた。
そんな中で事件が起こったのは今日、入学式からまだ数週間後の事だった。
土曜講習という俺の通う学校特有の日課を修業するために俺達一年生は新しい講習用のテキストを買っていた。いわば教科書販売である。
学校の校舎が南校舎、中校舎、北校舎と分かれていて、中校舎が三階建てになっていて、そこが生徒の教室、南校舎が教師の職員室となって二階までしかない。南校舎には他に、事務室や、校舎の西側には保健室がある。各校舎が二本の廊下でつながっており、東側に繋がる廊下と西側に繋がる廊下の二本あり、計四本である。上から見ると、なんだろう、鳥居の形に下に一本付いたような、そんな形をしている。
今日はその中の中校舎と南校舎を繋ぐ西側の通路で教科書が販売されていた。
中校舎の一階と二階の途中の階段の踊り場から中校舎へとつながる廊下が通っている。廊下は然程広くなく、狭くなく、昼休みの時間を使って、その講習に使う教科書が販売されていたので、その廊下はすぐに一年生でいっぱいになった。
「こんなの教室でみんなの分、配ってくれればいいじゃんか」
俺の隣で、入学してすぐにできたクラスの友だちが文句を言ったので適当に相槌を打つ。自分の手を開くと、しっかりと確認した七百八十円が握られていて、掌からは主に銅の匂いがツンと鼻を突いた。
すぐに買えると思ったんだけどなぁ。財布を持ってこなかったことを俺は掌を見ながら少し後悔していた。
それでも潔く俺は教科書待ちの列の後ろについて、問題なく買うことができたので、自分の教室へ戻った。
その時に、ふと美月さんの姿が見えたので、声をかけようと思ったが、隣に友達がいる今は止めておこうかと思い至った。何故かというと、彼女は学園内での俺との接触を避けようとするのだ。
しかしそのまま通り過ぎた俺はある事が気になった。
あれ?美月さん、少し暗くない?それと…。
彼女が暗いことには変わりがないのだが、彼女は実は暗そうに見えるだけであって、静かなだけなのだ。これは最近知ったこと。
しかし、今日の彼女の気分が少し落ち着いているように見えた。今朝見かけた時はそんなではなかったように思えたけど。
俺はただ前を見て歩いていて、恐らく彼女も俺に気付いたのかと思ったが、友達とのテンションの差に広がりを見せないために、そのまま何もなしに通り過ぎた。
教室について弁当をさっさと食べてしまった。四時限目の授業が体育で、体力テストの予行練習のような授業で、持久走をさせられた。校内のコースを走らされて、それがありえないくらいに長かった。体中が痛く、へとへとでお腹も減ったし、何より運動があまり得意ではない俺にとっては憂鬱だった。
それなので俺は弁当を食べた後、授業が始まるまで机の上で寝ようとした。五時限目は数学だ、教室移動がないから、まず寝過すことはないだろう。




