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あるナイトの物語

作者: akito
掲載日:2014/08/12

僕は観察する。


僕のいる駅前大通りの交差点。

今日もたくさんの人が行きかっていた。


人、人、人、人……。


行きつく先はひとそれぞれ、目的はばらばら。


でも眺めているとわかってくることもある。


結構な頻度で、渡る人々は同じ顔ぶれであること。



ほぼ、同時刻に交差点を渡る、会社員とか学生とか。

たまには初めて見る顔もあるけれど、たいていは交差点でお馴染みの人に関係する人だったり。


広いようで狭い、交差点の人、模様。



その中で僕は見つけた、一人の少女を。






初めて見た彼女は、彼女の面差しとよく似た女性と歩いていた。

時期は新緑が芽吹き出した春。


しわひとつない真新しいチャコールグレイのブレザー、膝下までの長さのプリーツスカート。

白いシャツにえんじ色のリボン。

肩まで切りそろえた黒髪が初々しく愛らしい。



僕はじっと、彼女が交差点を渡りきり、人に紛れて小さくなっていくのを目で追っていた。




それからも、彼女はほぼ、決まった時間に交差点に現れた。



朝の午前7時10分頃。

夕方、午後5時すぎ。


彼女が現れる時間が近づくにつれ、僕の心はさわさわする。


そして彼女の姿を認めた時、僕の心は最高潮に高揚した。



ふと、意識せずに観測してた交差点を僕は離れていた。


一定の距離、およそ20歩下がった距離を保ちながら、彼女の後を歩く。




そうして気が付いたことがある。


彼女の後をついて歩いているのは、僕だけではなかった。


彼女と、2歩半ほど離れた後ろに、背の高い男が歩いていた。


男はじっと彼女を見つめながら歩いている。

それなのに彼女は、男に気を留める様子はない。


淡々と歩みを進めていた。



女も壁に阻まれたようだ。

ほんの数秒、足が絡むように勢いが止まった。

けれど、再び彼女に向かい突進を開始する。



背の高い男が鬼のような形相でこちらに振り向く。

手を付きだし、あと数歩のところで彼女に届きそうだった女を押した。


その途端、女はまるでゴムまりが跳ねるようにすぽーんと空を飛んで行った。



女が飛んで行ったあと、男は周囲を注意深く見渡した。

彼女に害を与える者には容赦しないという体で。


男は彼女のガーディアン、ナイトなんだ、と僕は思った。



男と僕の目がった。

男は目を細め、じろりと睨みを効かせた視線を僕にしたが、正面に向き直った。

そして何事もなかったように、静かに彼女の隣を歩く。



僕もまた、一定の距離を保ちながら、彼らの後をついていく。


彼らが、彼女の自宅に帰るまで、何度も何度も僕はついていった。




何で僕は彼女の後をついていくのだろう。

彼女にはすでに強力なナイトがいる。


僕の入り込む隙間なんてないのに。




それでも僕は追い続けていた。


街路樹の葉が青々と茂り、彼女の着ている服が、長袖から半袖に変わっていっても、変わらず彼女の後ろをついていった。



そうしているうちに、僕と彼女を隔てている壁が弱くなっているのに気付いた。


僕は少しずつ、彼女との距離を詰める。



ナイトの男は彼女の傍にいるけれど、どこか元気をなくしている。


そしてナイトの男とは別の、違う男が彼女と並んで歩いていた。



この男は彼女にとって、元々いるナイトの男とは別格だったようだ。


年は彼女と同じくらいだろうか。

まだ大人になりきっていない、あどけなさが残っている。

彼女と手をつないだり、腕を組んだり、頭、頬、肩、背、腰に手を触れたりする。

彼女も同じように男に触れたりする。



ナイトの男は、彼を突き飛ばすことはしない。

光のない目を彼に向けるだけだった。


ここで僕は気づく。

彼女は初めからナイトを見ていない。


ナイトは彼女に触れることをしない。

というよりも触れることのできる体を持っていない。


僕はどうだ?

僕も体を持っていない。


見えない壁に阻まれる者、ナイトに攻撃される者は体を持たない。


そうか、僕はそういう者だったのか。いわゆる霊、魂だけの。




しかし、新しく現れた男は、数週間すぎれば、彼女の隣に見られなくなった。


その代りに別の男が彼女の傍にいた。

今度の男は、スーツを着た年上の男。

彼女と親しげな様子を見せていた。


けれど、しばらくすると見かけなくなり、また別の男が現れ……。



彼女と親しげにする男は、何度も変わった。



彼女の服が長袖から半袖、それから長袖に変わった頃には、僕は彼女から一歩下がったところまで、近づけるようになった。

近づけるようになったのは当然、僕だけではない。

僕以外で壁に阻まれた人たちも、同じように一歩離れたところで彼女を取り巻いている。


ナイトの男は変わらずにいる。


彼女の傍にいる者の中で見るからに彼女に害意を持っている者、黒い澱みを纏わせた者を両手で押し攻撃している。


けれど彼は以前のような力はなかった。

押された者を、2-3歩彼女から離れさせるだけだ。


ナイトの力がかなり弱まってしまっていた。


無理もない。


守るべき彼女の方も様相が変わっているのだ。


今は彼女に親しげにふるまう男は隣にはいない。


ここ数日、ナイトや僕たちを引き連れて歩いているだけだ。




春先、初めて出会ったころの彼女の初々しさは見られない。

肌は青白くかさかさ、目の下にどんよりとした隈が出ている。


今の彼女自身は魅力を感じない。


むしろ、少し不快にすら思えてしまう。



けれど……



彼女は時折、お腹を押さえる仕草をした。




彼女のお腹にあるもの。


今、以前の彼女にあった魅力がここにある。


小さく儚く、けれどとても美しい光。




愛しき、愛しき、愛しき、愛しき。


愛しき、愛すべき者。




僕は理解した。


このお腹にある者こそ、僕の真の彼女なのだ。


僕の守るべき者、愛おしい唯一の存在。







けれど、彼女、いやこの女は愛おしい彼女に害を与えた。



白い建物、小さな病院だった。


そこで僕の愛おしい彼女は害された。



ナイトの僕は何もできなかった。


ナイトたる僕は、身のある者を愛おしい彼女から遠ざけることはできなかった。


機械が彼女を掴む。

体が引きちぎられていく、小さな儚い彼女。

僕に聞こえる声で泣き叫んだ。


痛ましすぎる。

でも目をそらすな。


僕はここにいる、ここにいるよ。


君の痛みを僕が変わってあげたら。



僕が、僕が、僕が、僕が。


僕にもっと力があれば……。








僕は再び、前々からついてきていた彼女の後ろを歩いている。


「彼女」というと、僕の愛おしい本物の彼女と混同するので、元の彼女ことは、以下「女」と呼ぶことにする。


僕は女から二歩後ろを歩いている。

女と僕の間に、愛おしい僕の彼女がちんまり浮かんでいる。


僕の彼女、僕の君は、女の腰に小さな手を伸ばして触れている。



女はお守りを下げていた。

そのお守りは、愛おしい君の心を慰めるものだったようだ。


(ママはわたしを思ってくれてる)


君の思念が僕に伝わる。


あんなに酷いことをされたのに、君はもうなかったように女を慕っているのだね。


女のナイトは、僕たちを攻撃しない。

僕は君を守るために、害意を持って近づく者を、たとえ目当てが女の方であっても、攻撃しているからだろう。

いや、ナイトには脅威を全く感じない。


そこにただいるだけの者になっている。





でも僕は忘れてはいない。

女が君にしたしうちを。


体のない僕ができる、仕返し。

厄災を彼女に返そう。



自分で言うのもなんだけれど、ここのところの僕は力をつけたと思う。


じわじわと時間もかかるけれど、その方が逆にいいよね。

僕を阻む者はいないから、いつでも可能だよ。


ああ、ごめん、今はしないよ?

そうだね、確かに女は後悔の気持ちでいっぱいのようだね。


今は君に免じて、何もしない。



けれど、女が君を忘れたら、君を悲しませるようなことをしたら……。



容赦はしない。



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― 新着の感想 ―
 霊に絡まれやすい親子と、母から子へと矛先が切り替わっても、まっすぐなようでストーカーじみた執着を見せる一部の霊に関するお話、興味深かったです。
[良い点] 守るべきものを見つける意味。 怖いながらも何だか綺麗で、繊細で透き通った…まるで水晶のような印象を受けました。 [一言] 守る霊も悪意ある霊も、本当は誰にでも憑いているのかもしれませんね。…
[良い点] 発想がとても面白い。 テーマもその発想からきたものなのか、難解ではあるとしても理解できた上、身につまされるものがある。 そして、物語のその後について色々と想像できる余地があるところもいい。…
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