騎士の悲劇
騎士に大切な事は面子だ。
それが俺、カルナウフ・カールの持論だ。
この国の騎士隊長として召抱えられ、特にそう思う事が多くなった。
俺は今、魔王を退治するという大義のもと動く勇者を追っていた。
国王曰く、姫をかどわかしたというのが理由らしい。
実際、視界に捉えた一行には見覚えのある女性が混ざっている。
しかし、しかしだ。あのじゃじゃ馬の事だ。
誘拐されたんじゃなく、させたのが真実だろう。
「止まれ!」
馬上から呼び掛ける。
「いーやーだー!」
叫んでいるのは我らがじゃじゃ馬姫だが…はぁ。
個人的には通しても問題は無い。どう生きるかは身分に関係なく、個人の自由意思だ。と、平民出の俺は思っている。
まぁしかしだ。
おとなしく通しては、他の騎士に示しがつかん。ついでに他国がどうのと政治的な思惑もあるらしい。
そんな訳で俺は下馬すると剣を抜いた。
取り決めとして、一対一の決闘。勇者が勝てば、ここを通す。負ければ、姫様はここに残ってもらう。
その旨を伝え、誰が戦うのか問いかけた。
しばらく待つと壮年の剣士が進み出た…?
「やったろうじゃん、カール!」
「い!?なんでそんなにやる気なんですかね?」
「あたしの人生懸かってんだよ!他人に任せられるか!」
理屈は分かるのだが、そこで俺が剣を交えるのはどうなんだろうか?
などと思考していたら、あちらさん、勝手に斬りかかってきた。
「危な!」
姫の剣はレイピア。強度に劣るが、身軽な動きで行動できる。
俺のような全身鎧の相手にはダメージを与えれない、などとしたり顔で語る阿呆が時々いるが、真っ赤な嘘だ。
まず全身鎧とは言っても、動きの確保の為に臀部付近の装甲は無い。
機動性を活かして後ろからケツを狙われたらヤバい。
ついでにある程度の技量があるなら関節部の隙間を狙うなどの細かい技も可能だろう。
そして、もう一つヤバいことがある。
姫様の剣の師範はカルナウフ・カール。つまり俺。
最近ではこちらの手の内を読まれて三本に二本は取られてしまう。
とにもかくにも。
撃ち合いは無理だろう。
俺が剣を合わせようとすれば、すぐに引き、次の一撃を構える。
速度差で負けている。
一撃当てればいいのだが、なかなかに難しい。
というか兜邪魔。視界が狭いのを知ってちょろちょろ動き回ってやがる。
が、ここで兜を脱げばしめたもの。
無防備な顔面に集中攻撃だろう。
じっさいこの手で二回負けている。
「うわっ!ぺ!」
最悪だよこの姫様!砂投げてきやがった!
兜の中が地獄だよ!
視界が!
「ぎゃぁぁぁぁああああ!」
後ろから目いっぱいの力でケツを蹴ってきやがった!
ヒールがぁぁぁ!
「~♪」
鼻歌を歌いながら、痙攣する騎士隊長を踏みつける姫に、その場にいる全員がドン引きしていた。