第34話「ザ・西部劇パート3」
「しょうぶだ!」
「来ましたね、弱虫仔キツネ!」
レッドvsシロちゃんの紅白対決です。
またしても西部劇の様相になってしまいました。
シロちゃん六連銀弾鉄砲だけど、レッドは丸腰です…大丈夫かなぁ~
今日は朝から忙しいです。
なんでも学校給食に届くはずだったデザートが来なくなったとかで、パン屋さんに緊急オーダーが飛び込んで来たんですね。
わたしと店長さんですぐに対応しますよ。
店長さんお手製のどら焼きを袋に詰めて完了です。
って、詰めながら、ちょっと思いました。
袋詰めなら、お店に並べる時もたまにやるんです。
パンは好きなのを取って来てレジで袋にまとめるんだけど、クッキーなんかは袋詰めで売ってるの。
クッキーは計って袋に入れて、最後にテープで封をするんです。
だから、どら焼きもテープで封をするかと思ったら違ったの。
なんと今回は輪ゴムで袋を閉めるんです。
「店長さん、いつも袋はテープですよ」
「ああ、ポンちゃん、いいとこ気付いたね」
「毎日やってるもん」
「学校給食の時は輪ゴムなんだ……お店に並んでいるのを持って行く時はそのままになっちゃうけどね」
「なんでです?」
わたしが首を傾げていると、店長さん輪ゴムを指に掛けてから、
「えいっ!」
「!!」
店長さんの指に掛かっていた輪ゴムが飛んで、テーブルでぼんやりしているコンちゃんに命中。
コンちゃんキョロキョロしてます。
「うわ、店長さん、飛んでいっちゃいましたよ」
「うん、輪ゴムだといろいろ遊べるし、学校の工作なんかでも使うからね」
「へぇ~、だから輪ゴムをわざわざ使ってるんですね」
わたしもマネしてやってみましょう。
指にうまく引っ掛けて、コンちゃんに狙いを定めて、
「それ、発射~」
「コンちゃん」
わたしの発射と店長さんの声、同時です。
輪ゴムが着弾のタイミングにあわせて、コンちゃんこっちを振り向きますよ。
いや、すごい、眉間にドンピシャリ。
もう、わたしが撃ったのバレバレ。
「ポン、おぬし、やりおったなっ!」
わーん、店長さんなんでコンちゃん呼ぶんですか~
って、店長さん笑ってます。
わざとやってますね、まったくモウ!
学校の配達完了。
お店に戻っていると、途中でばったりレッドに会いました。
一人でなにやってるんでしょう。
「レッド、どうしたんです?」
「あ、ポン姉~」
「カラスに襲われますよ」
「それはかわした~」
「なにやってんです?」
「おとこをあげます」
「なんですか、それ……」
「コン姉にいわれたから~」
コンちゃんレッドの面倒みるのが嫌になって、適当な事言ってますね。
こう、レッドがあちこち歩き回るのはいいのやら……
って、最近わたしも配達なんかで出歩いているからいいかなぁ~
「危ないから、帰ろうよ」
「ポン姉がいうなら~」
って、レッド、わたしのしっぽをつかまえて着いて来ます。
しっぽをつかまないで、わたしの手を握って欲しいもんです。
しばらく歩いていると、シロちゃんの交番の前を通りました。
「こんにちはであります」
「シロちゃんこんにちは~」
わたし、普通に挨拶するけど、レッドはわたしの後ろに隠れちゃいます。
「どうしたの、レッド」
「このイヌのひとはこわいんです、けいさつのイヌです」
「そんなに隠れなくったって」
「ぼくのダンボールをすてちゃいました」
ああ、以前そんな話をしていましたね。
「さっきをかんじます」
「もう、今はそんな事ないと思うよ~」
わたし、シロちゃんに目で合図。
シロちゃん、今は別に殺気なんて感じはないです。
しゃがんでレッドの視線と同じ高さになると、
「もう、交番に居座らないなら、敵ではないであります」
「ほんとう?」
「本当であります」
「じゃあ、こんにちは~」
レッド、シロちゃんに抱っこされてます。
「ふーん、レッド、シロちゃんがお気に入り?」
「ふけいさん、かっこいいから~」
む、子供なのに制服フェチでしょうか?
もしかしたら、お店の制服も好きなのかもしれませんね。
って、わたし、二人をほったらかしにして帰って来たんだけど、それがとんでもない事に!
レッド、血まみれになって帰ってきました。
もちろん血まみれっていっても、ペイント弾なんですけどね。
「レッド、どーしたんですっ!」
「や、やられちゃった」
「さっきはシロちゃんと仲良しだったのに!」
「なかよしだよ」
「やられてるじゃないですか」
「これは……これは……」
「これは?」
わたしとレッドのやりとりに、コンちゃんもやってきました。
血まみれレッドを見てため息をつくと、
「なんじゃ、レッド、漢を上げるのではなかったのかの」
「コン姉~、やられちゃった」
「なさけない……あの警察の犬にやられたのであろう」
「そう~」
「おぬしは本当に漢なのかの?」
「おとこのこです」
「やられておるではないか」
「だって~」
「なにが『だって~』じゃ」
「てっぽうないもん」
「言い訳じゃ、ふん」
コンちゃん助け船出さないんだ。
わたし、てっきり銀玉鉄砲出してくれるって思ったんだけど。
「ポン姉~、ぶきだして~」
「むう……わたしそんなの出来ないよ」
「が~ん」
「ミコちゃんに聞いてみたら?」
レッド、早速行っちゃいました。
でも、すぐに帰って来て、
「ミコ姉も、ぶきはだせないって~」
「そう……」
コンちゃんうんざりした顔で、
「これ、レッド、おぬし、そーやってすぐ人に頼る」
「コン姉……」
「自分の力でなんとかするのが漢というものじゃ」
おお、コンちゃんがすごい立派に見えます。
いつもテーブルでぼんやりしているだけなのに。
こーゆーのを「不良の人助け」って言うんですね。
ああ、レッド、トテトテと行っちゃいました。
「コンちゃん助けてあげたら?」
コンちゃんわたしが言うのを聞かないで行っちゃいました。
レッドを追いましょう。
って、すぐに発見です。
パン工房の店長さんのズボンを揺すってます。
「てんちょー」
「あ、レッド、なに?」
「シロちゃんにまけた~」
「ああ、血まみれ……拭いたら?」
店長さんがレッドを拭いています。
髪をクシャクシャにされながらレッドが、
「ぶきがほしい~」
「武器ねぇ……」
あ、店長さん助け船出すんでしょうか?
って、出したのは輪ゴムですよ。
「店長さん店長さん」
「なに、ポンちゃん」
「輪ゴムは……レッドには無理ですよ」
わたし、朝やったみたいにして輪ゴムを飛ばします。
指と指で引っ掛けて飛ばすんです。
レッド、それを見てびっくり。
すぐに真似するんだけど……うまく指に引っ掛けられないみたい。
ともかく、レッドにはまだ無理みたいですね。
「ほら、店長さん、レッドにはまだ難しいんですよ」
「ああ、指でやるのは無理みたいだね」
店長さん、ちょっと考えてから割り箸を出します。
「店長さん、割り箸をどーするんです?」
「割り箸と輪ゴムで銃を作るの」
店長さんとレッド、早速作り始めます。
って、そしたらパン工房の外から、コンちゃんミコちゃんが見ていますよ。
コンちゃんが唇に指を立てて手招きしてます。
なにかな?
「これ、ポン、おぬしなにをやっておるのじゃ」
「いや、なにも……」
「レッドを助けてはいかんではないか!」
「え……なんで?」
「おぬしが助けては、レッドはなんでも人をあてにするではないか」
「あー、でも、助けてるのは店長さん」
「おぬしが連れて行ったのではないかの」
「レッドが勝手に行ったんですよ、コンちゃん達が助けないから」
「店長はなにをやっておるのじゃ」
「なにか作ってるみたいですよ」
「……」
「レッドが自分で得物を作るなら、いいんじゃないですか?」
これにはコンちゃん達もなにも言えませんでした。
「しょうぶだ!」
「来ましたね、弱虫仔キツネ!」
さて、リターンマッチです。
交番の前に対峙するレッドとシロちゃん。
「こんかいは、まけませぬ」
「キツネ狩りであります!」
実況はわたくし、ポンちゃん。
観客は……物影からコンちゃん・ミコちゃんが見守ってますよ。
ああ、シロちゃんもう銃を抜いてますね。
って、レッドは丸腰なの。
作ってたのは、結局出来なかったんですかね?
「武器がなくても、容赦しません!」
「ちゃんすは、いちど、あればいい」
「格好つけても負ければ泣くだけです」
ああっ!
シロちゃん二連射。
レッドよけます。
むー、レッドは的としては小さいから、当たりませんね。
ちょこまか逃げまくりです。
「コラまてー!」
追っ掛けてさらに二連射。
「逃げるなー!」
さらに二連射。
シロちゃんの銃は六連発だから、ここで打ち止め。
って、ポケットから新たな弾を出して詰めようとしています。
「けいさつのいぬは……」
「?」
「じゅうがなければ、なにもできぬ」
「!」
あ、すご、シロちゃんが本気で怒ってます。
獣の目になってますよ。
レッドもさすがにびっくりしたのか、トテトテ逃げています。
交番の建物の角の所に逃げ込みました。
顔だけ出してシロちゃんを見ています。
シロちゃんはダッシュでつかみかかりです。
「タイホー!」
出た、シロちゃんお得意の「タイホ」です。
でも、今回は銃はなし。
シロちゃんの手がレッドに迫ります。
ああ、つかまったらフルボッコ!
って、レッドも交番の影から出てきました。
「えっ!」
わたしもシロちゃんも、ついついびっくりして声。
レッドは自分の身長くらいある輪ゴム銃を構えてます。
あれ、きっとあそこに隠していたんですね。
飛び掛ったシロちゃん、ノーガード。
レッドの輪ゴム銃、狙いを定めて発射。
太めの輪ゴムがシロちゃんの目と目の間にヒットしました。
大金★なダメージ!
なんとレッドの勝利です。
「う、うえっ、うう……」
あー、もう、うっとおしい。
負けたシロちゃん、わたしのしっぽを握って着いて来ます。
目と目の間には輪ゴムの形で赤くなってるよ。
さっきから涙もポロポロこぼれています。
いつもは調子がいいのに、負けるとこんな。
「ぼく、かちました」
勝ったレッドはコンちゃんに抱っこ……ご褒美ですね。
でも、さっきから難しい顔をしていたミコちゃんがこわい顔で、
「レッド!」
「ふえ、なに、ミコ姉」
「人に向けて、輪ゴム銃撃ったらダメでしょっ!」
「えー! しょうぶなのにー!」
「人を傷つけちゃダメ」
「おとこをあげるためなのにー!」
ミコちゃん怒ってますが、レッドはわからないみたい。
って、コンちゃんが、
「真の漢とは、思いやりがあるものじゃ」
「えー!」
「警察の犬とはいえ、女子を撃つのはいかがなものかの」
「そんなー! どうしろとー!」
「あーゆー時は負けてやるのじゃ」
「がーん、しらなかったー!」
「おぬしはまだ、漢としての器がなってないのじゃ」
「そんなー、どうしたら、いいの?」
あ、今度はミコちゃんがなにかレッドの耳元で囁いています。
すぐにレッド、コンちゃんの抱っこから飛び降りてシロちゃんのところへ、
「シロちゃ~ん」
「う、うえっ……なんですか……」
「ごめんね~、いたかった?」
「本官、死ぬかと思いました」
「ごめ~ん」
シロちゃんレッドを抱きかかえます。
一瞬、そんなシロちゃんの目に殺気。
それより先に、レッドの手が出ます。
「いたいの、とんでけ~」
「!!」
輪ゴムの痕をレッドに撫で撫でされるシロちゃん。
そんなシロちゃんの目から、またボロボロ涙が滝みたいです。
「って、なんでシロちゃん着いてきてるんですか!」
わたしが家に帰り着くまでシロちゃんしっぽを放してくれませんでした。
もう、すっかり涙は乾いていて、
「本官は慰謝料を請求するであります」
「え……」
「これからは、ここに住むであります」
「え……」
「本官も家族になれば、公務執行妨害は取り下げるであります、家族ゆえ」
「もしかして、最初からそれ、狙ってませんでしたか!」
さっきまで泣いていたのに、シロちゃんニコニコ笑ってばかりです。
「ほら、レッド以外は女の子ばっかりです、花園です、店長さんひゅーひゅー!」
「じゃ、俺、コンちゃんと仲良くしちゃおうかな~」
「なんでわたしじゃないんですかーっ!」
むー、店長さん、こーゆー時はわたしを一番に言うべきです。
このまま居候が増えたら、競争相手が増えちゃう…の…かな…うう…