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第32話「この子誰の子」

 あーん、レッドを助けたら「おかあさん」なんて言い出しました。

 もう、わたし、すっかりピンチです。

 お店から、出て行かないといけないのかな?

 コンちゃん助けてくれないかなぁ~

 神さまは、助けてくれるもんですよ。


「いただきま~す」

 新登場のレッド、手を合わせて食べ始めます。

 お箸もちゃんと使えるみたい。

 わたしや店長さん、ミコちゃんがじっと見守ります。

 こぼしたりしないように、ゆっくりしっかり食べるレッド。

 本当におりこうさんですね。

「店長さん店長さん」

「なに、ポンちゃん」

「レッドは何者なんでしょうね?」

「うん? なに?」

「捨てられたって言ってたし……」

「ペットじゃなかったのかな」

「ペット……」

「前の日現れた赤いしっぽのキツネがレッドだったんだよね」

「たぶん、きっと」

 レッドは小さいから、椅子に電話帳を積んだ上に座っています。

 結構高い椅子って思うけど、バランス良く座っているよ。

 さすがキツネさんってところでしょうか。

 ミコちゃんがニコニコしながら、

「ポンちゃん身に覚えはないの?」

「ミコちゃんこわい事言いますね、わたしがなんでキツネの子を産むんですかっ!」

「だって……ポンちゃんに懐いているし……」

「わたしが祠の掃除の時に助けたからだよ」

「そうなの」

 コンちゃんが澄ました顔でお箸を動かしながら、

「ウソじゃ、その子はポンの子じゃ、その証拠に『おかあさん』と呼んでおる」

「コンちゃんモウっ!」

「エロポンめ、キツネの雄と交わるとは……」

 そこまで言って、店長さんのゲンコツがコンちゃんに炸裂。

 コンちゃんが頭を押さえて震えていると店長さんが、

「どっちにしても、これ以上増えてもらってもなぁ~」

 言っているうちに、レッドのご飯茶碗が空になります。

 ミコちゃんが二杯目をよそいで渡すと、ニコニコしながら食べ始めました。

 店長さんがわたしを見て、

「やっぱりポンちゃんが出て行くしか」

「えー! なんでー!」

「その一、ポンちゃんが拾ってきたから」

「えー!」

「その二、ポンちゃんパクパク食べるから」

「そ、そんなに食べてませんっ!」

 わたし、ご飯茶碗空になってたんだけど、出すの我慢我慢。

 でも、みんなの視線がわたしのご飯茶碗に注がれます。

「わ、わたしがご飯我慢したら、置いてくれますかっ!」

 店長さん笑ってますよ。

 もう、本気なのかどーなのか、わかんなくなっちゃいました。


 お店が暇……なのは、普段はのんびりしていていいかな~って思うんです。

 でも、今日はお客さん、たくさん来てほしかった。

 観光バスが来るのを切望、それもすぐ。

「さて、じゃ、始めようか」

 店長さん、コンちゃんのテーブルに着きます。

 ほかにはレッドもいますね。

「店長、話し合う必要なんてないのじゃ」

 コンちゃんいつもの位置でうんざりした顔で言います。

「ポンの子供なんじゃから、ポンに責任を取らせればよいのじゃ」

「コンちゃんのバカー」

「本当の事じゃから、責任を取るのじゃ」

 って、話している間、わたしのしっぽをレッドが握って離しません。

「ちょ、レッド、なんでわたしのしっぽを握るのーっ!」

「おかあさんだから」

「お母さんじゃなーいっ!」

「ぜったいはなさない」

「モウっ!」

 店長さんが助け船。

「ねぇ、レッド、なんでポンちゃんのしっぽを握るの?」

「うん、おかあさんだから」

「どうして?」

「はなしたら、いなくなっちゃうから」

「……」

「はなしたら、すてられちゃうから」

「まぁ、今は放してくれないと困るんだけど」

 店長さんが言ったら、ようやく放してくれました。

「さて、レッドの事なんだけど、誰が責任取ったもんだか」

「て、店長さん、どーしても責任取らせたいみたいですね」

「だってこれ以上居候が増えても困るし……」

 コンちゃんが手を上げます。

「わらわはポンが責任を取るべきじゃと思うんじゃが」

「コンちゃん、その事なんだけど、俺はそー思わないんだ」

「え……なんでじゃ?」

「レッドはキツネなんだから、コンちゃんが責任を取るってのもありと思うんだ」

「なんじゃと~!」

「でも、レッドはポンちゃんをお母さんって言ってるから、ポンちゃんの責任ってのもありな気がするんだ」

「て、店長さんはどっちの味方なんですかっ!」

 わたしの抗議なんか耳に入らないみたいに店長さんはレッドに、

「ね、レッドは前はペットだったんだよね?」

「は~い、ペットでした」

「この辺に、いつ頃から捨てられてたのかな?」

 レッド、ちょっと考えてから、

「いっしゅうかんくらいですね」

「一週間か~」

 会議中にカウベルが鳴ってお客さん。

 これで会議終了って思ったら、お客さんはシロちゃんです。

「巡回であります……ついでにパンをいただきたいであります」

 って、シロちゃんとレッドの目が合いました。

 途端にシロちゃんから油汗が面白いように流れ出します。

「そ、その子は……しっぽがあるでありますっ!」

 店長さんが鋭い眼光を発します。

「シロちゃん……この間交番にダンボールがあるとか言ってなかったっけ?」

「そ、そんな事、言ってないであります」

 言いながらも、シロちゃん滝のような汗。

 愛想笑いもどこか引きつってます。

 わたしもよーく思い出してから、

「あ、言ってますよ、ぜったい、この間警察の仕事とか保健所の仕事って言い合ったもん」

「そんなの知らないであります」

 店長さんレッドを抱きかかえてから、

「ね、レッド、あのお姉ちゃん、知ってる?」

「しっています、こうばんのおねえさん、ふけいさん」

「レッドは頭良さそうなんだけど……なんで警察の人に助けてもらわなかったの?」

「ふけいさんは……ぼくのダンボールをすてた」

「……」

「ぼくのけはいに、てっぽうかまえます」

「……」

「みのきけんをかんじました」

 わたしと店長さん、もう冷たい目でシロちゃん見つめます。

 シロちゃんプイと顔を横に向けて、

「黙秘権であります」

「あー、警察が黙秘権とかいいのかな~」

「捜査の上の秘密ってヤツです」

「えー、それって職権乱用じゃないのかな~」

「知らないものは知らないのであります」

 むー、わたしの追及くらいじゃ、シロちゃんを追い詰める事できません。

 店長さん、レッドをシロちゃんの腕に抱かせると、

「迷子は警察で預かるのが仕事だろ~」

「そ、そんな~」

 シロちゃん今にも泣き出しそう。

 でも、これで一件落着……って思ったらレッド、シロちゃんの腕から飛び降りてわたしのしっぽにしがみつき。

「おかあさん」

「ちょ、レッド、警察のお姉さんの方がいいよ、ミニスカポリスだし」

「や、こっちがいい」

「わたし、タヌキだし」

「こっちがいいの、こっちがすき」

 今度はみんなの視線がわたしに刺さります。

 もう、なんだかわたしが責任取って丸くおさめちゃえって空気が出来上がりつつありますよ。

 わたし、レッドと一緒に野良になっちゃうの!

「はーい、お茶が入りましたよ」

 ミコちゃんがお茶を持ってやってきました。

 とりあえず、一時休戦。

 ミコちゃんみんなの前にティーカップを置いてから、最後にレッドを抱えます。

 わたしも解放されました。

 ミコちゃんとレッドがおしゃべりしている間に店長さんに詰め寄ります。

「店長さん、わたしが嫌いなんですかっ!」

「……」

「店長さん、わたしの恩返し、不満なんですかっ!」

「……」

「コンちゃんはなにもしませんよ」

 あ、コンちゃんの髪がうねってます。

「シロちゃんはたかりに来るばっかりです」

 あ、シロちゃん銃を構えてます、すでに引き金に指がかかってますよ。

「うん、ポンちゃんの言う通りだね、確かに」

「店長、わらわはお稲荷さまなのじゃぞ、神じゃぞ神!」

「本官は無料でパトロールしているであります!」

 二人とも都合のいい事言ってます。

 店長さん考え込んだまま、難しい顔。

 沈黙に耐えられなくなって、聞いちゃいます。

「ね、店長さん」

「なに、ポンちゃん」

「本気で誰か追い出そう……って思ってます?」

「ポンちゃんは、確かに働き者」

「でしょ」

「コンちゃんは、店番くらいならできるかな」

「むー!」

「シロちゃんは、まぁ、悪い警官じゃなさそう、たかりに来るけど」

「ぬー!」

 どうも、ぜったい追い出すってところまではないようです。

「レッド一人くらい、いたらダメなんです?」

 店長さん、ミコちゃんと話しているレッドを見ます。

「なんだか際限なく居候が増えていくみたいで、ちょっとこわい……」

 店長さん、シロちゃんを見て、

「俺、思うんだけど、やっぱり警察のシロちゃんが預かる方が……」

「う……捨てられたペットの処理は保健所の仕事」

「……」

「本官、後日レッドを保健所に連れて行くであります」

「!」

「店長さんのせいであります」

 苦し紛れですが、シロちゃんは預かる気サラサラみたい。

「じゃ、ポンちゃんお母さんだから引き取って……」

「店長さん、怒りますよ!」

 わたしもシロちゃん見習って意味不明な強気です。

「それなら同じキツネのコンちゃんに……」

「店長、今一度死ぬ思いをするかの?」

 コンちゃん必殺心臓マッサージの準備です。

 店長さん黙っちゃいました。

 そこにレッドがトテトテやって来ます。

 店長さんの服を引っ張って、

「てんちょー、てんちょー」

「なに、レッド?」

 レッド、差し出された店長さんの手をしっかとにぎって、

「いまからおとうさん」

「!!」

「おとうさん、だいすき、パンおいしいもん」

 レッド、店長さんにギューっと抱きついてます。

「あ、店長さんがお父さんなら、責任取って預かるしかないですね」

 わたし、しれっと言います。

 すぐにシロちゃんも、

「店長さんがお父さんでありましたか、一件落着であります」

 もう、これ以上からまれたくないって感じで退場。

 コンちゃんがうんざりした顔で、

「そうじゃった、店長が小さい事言わずに預かれば済む話じゃった」

 レッドはニコニコ顔で、

「おとうさ~ん」

 店長さん、困った顔をしていたけど、その顔がハッとします。

 すぐにミコちゃんの方を見てにらんでますよ。

 そういえば、ミコちゃん子供が欲しいとか言ってました。

 レッドの「おとうさん」は、ミコちゃんの入れ知恵だったとか!

「おほほ……」

 ミコちゃんは微笑んでいるだけです。

 むむむ、さすが、ここ一番でミコちゃんの策略成功。

 これでレッドも家族の仲間入りです。


「ねぇねぇ、ポン姉~」

「なになに、レッド?」

「ぼく、コン姉とけっこんした~い」

「コンちゃん女狐ですよ、いいんですか?」

「コン姉きれいだもん、すきすき~」


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