第31話「赤毛のレッド登場です」
お供え物をめぐってカラスとレッドのバトル。
仔キツネのレッドはカラスにやられちゃいます。
かわいそうっ!
わたし、救援に向かいます。
そして、自分の首、しめちゃいます、トホホ…
祠のお掃除完了です。
一度周囲を確認。
そう、ここの祠のお供え物を狙うカラスがいるんです。
いつもお掃除の間じゅう、わたしの後ろ、間合いをとって見守っているの。
今日も二羽のカラスが並んでわたしを見上げています。
しっぽをつついたらお供えナシって言いたいところですが、まぁ、最近はお行儀良く待っているのでよしとしましょう。
で、お供え物をセットして退避。
店長さんが笑いながら、
「カラス、気になるの?」
「子供の頃、追っ掛けられた事があるんです」
店長さんと一緒にお店に戻ろう…したら、なんだかカラスの鳴き声がすごいです。
びっくりして振り向いたら、小さいなにかと戦ってるみたい。
「ててて店長さん、なんだかすごい事になってます」
「う、うん、そうだね」
店長さんもカラスとなにかの戦いにびっくりしているみたい。
なにか……最初はよくわからなかったんです。
祠の影に隠れていて、よく見えなかったからなんですが、ちらちらと赤いなにかが見え隠れ……赤い……赤い毛のキツネさんです。仔キツネさん。
赤毛の仔キツネ、お供え物のアンパンをくわえてます。
でも、まだ子供だから、このままじゃカラスの朝ごはんになっちゃうよ。
「て、店長さん助けてあげましょう!」
「えー」
「なにが『えー』ですか!」
「だ、だって、また居候が増えるかも」
「でも、店先でカラスに食べられちゃったら、祟りがあるかもしれませんよ」
「もう充分すぎるくらい、うちには取り憑いていると思うけど」
「いいから、助けるんですっ!」
わたし、猛然とダッシュ。
とりあえずカラスを追い払います。
もう人間になったから、カラスなんてへっちゃらなの。
カラスが行っちゃって、ポツンとわたしと仔キツネだけ。
「ほら、早く行かないと、カラスの朝ごはんになっちゃいますよ」
仔キツネはじっとわたしを見上げて、そしてトテトテ歩きながらわたしを一周。
さっきはわたしの顔を見ていたけど、今はわたしのしっぽをガン見です。
それからコクリと挨拶して、茂みの中に行っちゃいました。
む、背後からカラスの羽音。
空襲警報が心の中でカンカン鳴ってます。
でも、振り向いたら店長さんがいました。
おかげでカラス警報は止みましたよ。
「よかったね、ポンちゃん」
「ふふふ、かわいらしい仔キツネさんでした、助けてよかったです」
「じゃなくてさ」
「?」
「爆発して人間になってたら……」
「は?」
「ポンちゃん出て行ってもらうからね」
「えー!」
次の日の朝。
祠掃除は大変でした。
先日アンパンを仔キツネに持っていかれたカラスさん。
そして昨日はパンが完売だったから、今日のお供えはないわけです。
そーなると、不満が爆発してわたしのしっぽをつついてくるの。
わ、わたしのしっぽをつついても、出ない物は出ないんです!
コンちゃん助けてくれればいいのに、花壇に水やり、それもわたしの悲劇を見てニヤニヤしてるんです。
「コンちゃんひどーい」
「なにがじゃ」
「助けてくれるのが、神さまの仕事ですよ」
「おぬしがここでは先輩ゆえ、わらわが手助けするまでもなかろうと」
「ウソばっかり」
そう、お供え物がない時は、その日はナシかと言うと、本当はそうではありません。
お店に並べるヤツから一つ出すんです。
開店して、ちょっとしてから、祠にお供え物をセット。
いつもと時間が違うから、カラスさんも待っていたりしません。
きっとどこかで朝ごはんしてるんでしょう。
何事もなく、お店の一日が始まって、また、ゆっくりとした時間が流れ……
……って思っていたら、遅ればせでやってきたカラスがギャーギャー鳴いています。
わたし、また仔キツネって思ってスクランブル。
打ち出の小槌を持って行くのがいいか、それともアンパンを持って行くのとどっちがいいか迷いましたが、そんなの一瞬です。
選んだのは「アンパン」。
「お、ポン、なにをアンパンを持っておる」
「また、カラスとなにかが戦ってるんです」
「うむ、さっきからギャーギャー言っておるのう」
「昨日仔キツネがいたから、今日もそうかもしれません」
「そうかの……ふーん」
「なんですか、コンちゃん、『ふーん』って」
「売り物のアンパンを勝手に持っていってよいものかのう」
「いいんです」
コンちゃん助けてくれる事なさそだし、仔キツネがやられちゃうと困るから急ぎましょう。
「コラー!」
わたし、大声で突撃。
でも、今日はカラスさんも引きません、きっとお腹空いてるんでしょう。
そこでアンパンをシュート!
カラスはそれにつられて行っちゃいました。
「ふう……」
わたしが一息ついて祠を見ると……
あー、やっぱり、赤いしっぽがヒラヒラしてます。
「もう、ここのアンパンはカラスが狙っているから、注意し……」
祠から見えていたのは赤いしっぽ。
隠れていた体が、祠の影から出てきます。
わたしの予想では、昨日の赤毛の仔キツネのはずでした。
でも、そこに現れたのは男の子、人間の格好をした男の子。
「う……わ……」
男の子はアンパンを大事そうに持って出て来ると、昨日もそうしたように、わたしを一周し、さらに後ろに回りました。
ひゃっ!
しっぽをつかまれました。
「ななな、なにをするんですかっ!」
「しっぽ!」
「は、放してくださいっ!」
「や!」
「『や!』じゃないでしょ!」
「ぜったい、や!」
赤いしっぽの男の子。
右手にアンパン。
左手にわたしのしっぽ。
「お母さんの所に帰ってくださいっ!」
「きょうからタヌキさんがおかあさん」
「は?」
「おかあさん」
しっぽを握るのが強くなりました。
わたし、怒った顔でにらみます。
でも、男の子も引きません。
痛いくらいにしっぽをにぎってきます。
「わたしはタヌキで、あなたのお母さんじゃありませんっ!」
「いまからおかあさん」
「えー!」
なんだか子供相手じゃ、話が通じない感じです。
ヘルプって思ってお店を見たら、コンちゃんばかりか店長さんも見ています。
コンちゃんは笑っているんだけど……
店長さん明らかに怒ってます……
「いたーい!」
声に目を戻したら、カラスが男の子のしっぽをつついています。
もう、怒られるのわかっているけど、男の子を抱えて帰還。
ドアを入る時、視線がすごく痛かったですよ。
店長さんへの字口です。
「ポンちゃん、ついにやっちゃったね」
「うう……」
コンちゃんすごく嬉しそう。
「あーあ、ついにポンも出て行くのかのう」
「うう……」
男の子はあいからわらず、わたしのしっぽつかんでいます。
いつの間にかアンパンは食べちゃってて、両手でしっかりがっしり。
嫌なんだけど……なんだかもう、どーでもいい気分です、しっぽの方は。
店長さんしゃがみこんでから、
「名前は?」
男の子、しっぽをにぎったままトテトテ出てくると、
「こんにちは~」
「こんにちは……名前は?」
「レッド」
「レッド……」
「けのいろが、あかいからレッド」
「ふーん……どこから来たの?」
「すてられちゃったの」
今の言葉に、わたし達「ずーん」って感じ。
レッド、またわたしの後ろに隠れてしまいます。
もう、わたし、出て行かないといけないから、隠れても無駄ですよ。
「アンパンごちそうさまでした」
「……」
「おいしかったです」
「……」
店長さんとコンちゃん、じっとレッドを見てから、黙り込んじゃいました。
二人して、目でなにか意見交換しているようです。
「店長さん、どーしました?」
「いや、レッドなかなか良い子みたいだな~って」
「じゃ、わたし、出て行かないでいい?」
「それはそれ、これはこれ」
「むー!」
コンちゃん一度引っ込んで、わたしのワンピなんか持って出てきました。
そーゆー所は抜け目がないんですね。
「さて、ポンは出て行くか、さらばじゃ」
「コンちゃん本気で追い出すつもり?」
「だってほら……」
コンちゃんしゃがみこんでレッドに、
「これ、レッドとやら、このタヌキは母親なんじゃろう?」
「うん、きょうからおかあさん」
コンちゃん立ち上がって店長さんの腕にしがみつくと、
「ほれ、店長、レッドはああ言っておる」
「?」
「あのエロポン、よそで子供をこさえておったのじゃ」
「!」
「タヌキのくせに、キツネの仔を産むとは淫らなヤツじゃ」
「なんでそーなるんですかっ! わたしなにもやってなーいっ!」
途端にわたしとコンちゃんに店長さんのゲンコツです。
店長さん腕組みして渋い顔。
「ともかく、しょうがないから今日はいいけど……」
ゴクリ……
「ポンちゃんの行き先を考えておかないとね」
わーん、わたし、どーなっちゃうんでしょう?
「ポンちゃん身に覚えはないの?」
「ミコちゃんこわい事言いますね、わたしがなんでキツネの子を産むんですかっ!」
「ウソじゃ、その子はポンの子じゃ、その証拠に『おかあさん』と呼んでおる」
「コンちゃんモウっ!」
「エロポンめ、キツネの雄と交わるとは…」