第27話「からすの子」
みなさん、1話を覚えてますか?
わたし、店長さんからアンパンもらって復活&恩返ししたんですよ。
その、瀕死の時にわたしを狙っていたのが「からす」です。
からす、こわいんです、空から襲ってきます。
お供え物も持って行っちゃうし~
雨が降る?
雪が降る?
朝の祠掃除をしていたら、コンちゃんが花壇に水やりしています。
「こ、コンちゃんどーしちゃったの!」
「うむ……花に水をやっておるのじゃ」
「こ、この花壇、きれいにしたのってコンちゃん?」
「そうじゃが……」
「な、なんで?」
「なんで……なにを言うておるのじゃ、おぬしは?」
「こ、コンちゃんが花壇なんて……」
「わらわが花に水をやるのがそんなにめずらしいかの」
「だ、だっていっつも面倒くさがってるのに」
「むー、わらわだって、こんな事やる気はなかったんじゃ」
「店長さんに……言われたんだ」
「そうじゃ、花に水やりくらいできるだろうとあやつは言いおった」
コンちゃん水をやると、とっとと引っ込んじゃいました。
むー、雨とか雪が降りませんように。
もしかしたら計算ハズレの皆既日食が見れるかもしれません。
皆既日食は見てみたいかも……
お店をやっている時間、暇な事が多いから、ぼんやり過ごしているわけです。
「お客さんが来ないですね~」
「そ、そうだね……」
あう、店長さんが隣に立ってました。
店長さんに「お客がいない」「お客が来ない」は禁句なの。
「でも、まだ午前中ですから」
「ポンちゃんフォローしなくていいよ」
「店長さん……」
「お店が危機になったら、ポンちゃん非常食になってもらうから」
もう、店長さんに肘鉄です。
店長さん笑いながら、
「まぁ、うちにはコンちゃんもいるから、多分大丈夫だろ」
そのコンちゃん、定位置でスヤスヤ寝息を立てていますよ。
「あ!」
わたし、びっくりして声をあげちゃいました。
窓の外に黒い影。
影の正体はカラスです。
ひらりと飛んで来たカラスは祠に一直線。
そしてお供え物のアンパンをくわえて飛んで行っちゃいました。
「店長さん店長さん!」
「?」
「お供え物、カラスに持って行かれちゃいましたよ」
「ああ、祠のお供え物ね」
「今、カラスが飛んで来て、持って行きました!」
「そうだね、お供え物はこの辺のカラスやタヌキが持っていってるんじゃないかな」
「そ、そうなんですか!」
「ポンちゃんまさか神さまが食べてるとか、思ってなかったよね?」
う……ちょっと思ってました。
でも、よくよく考えると祠の主はコンちゃん。
コンちゃん家で普通にごはんを食べてるから、本当はお供え物はいらないのかもしれません。
「店長さん、カラスがお供え持って行くから、ご利益ないのでは!」
「いや、コンちゃん家にいるから、多分それは……」
「カラスが持って行っちゃうんですよ」
「ポンちゃんカラスが持って行くのが気にいらないんだね?」
「う……」
店長さんジト目です。
「だ、だって~」
「なにがだって?」
「カラスはタヌキを食べちゃうんですよ、わたし、もっと小さい頃、追っ掛けられたんですから!」
ああ、店長さん笑ってますよ。
本当にカラスはこわいんだから!
朝、祠の掃除をしていたら、しっぽに痛みが走ります!
振り向いたら、カラスがわたしのしっぽつついていますよ。
「キャー!」
わたし、ダッシュで花に水やりしているコンちゃんの所まで逃げました。
「なんじゃポン」
「カラスが襲ってきました」
「カラス?」
「そーです!」
わたしが振り向くと、カラスが間合いを取って、地面からわたしを見つめています。
あの目は獲物を狙う目にちがいないの。
「コンちゃん助けてっ!」
「えさが欲しいだけじゃろう……えさをやればよいではないか」
「えさ……お供え物?」
わたしがアンパン投げたら、カラスくわえて飛んで行っちゃいました。
「ねぇ、コンちゃん」
「なんじゃ、ポン」
「お供え物、持って行かれて悔しくないの?」
「まぁ、いなり寿しでないから、わらわはよいかのう」
コンちゃんは悔しくないみたいだけど、わたしは悔しいの!
むー、カラス……わたしのしっぽつつきました。
仕返ししないと、気がすみません。
祠掃除をやっていたら、なにか物音が聞こえます。
よーく祠の回りを見たら、なんだか黒い毛むくじゃらがいました。
目が合いましたよ。
わたしと毛むくじゃら、にらみ合い。
この目には覚えが……なんでしたっけ。
「ポン、どうしたのじゃ?」
いつの間にかコンちゃん後ろから一緒になって見ていました。
思い出しました!
「コンちゃん、あれ、きっとカラスの雛だよ」
「ふむ……ポンはよくわかるのう」
「だってあの目つきは……襲われた経験があるからわかるんです」
「ふむ、そうか」
「雛のくせに、たいした眼力です」
「ふむ……ではポン、日ごろの恨みを晴らせばよいではないか」
「!!」
「今ならポンでもやっつけられるぞ」
そう言われるとそうかも。
こんな雛なら簡単にやっつけられます。
それに、雛のくせに目つきが悪すぎ。
とりあえず、捕まえちゃいましょう。
手を伸ばしたら噛み付いてきました。
でも、雛のくちばしなんかへっちゃらです。
簡単に捕まえちゃいました。
「ふてぶてしい目つきだけど、震えてます」
やっぱり一人で不安なんですね。
よーく周囲を見回すと、微妙な間合いで二羽のカラスがこっちを見てます。
わたし小声で、
『ねぇ、コンちゃんコンちゃん』
『なんじゃポン』
『あそこのカラスは親かな?』
『ふむ、そんなところじゃろう』
『どうしたらいいかな?』
「そんなの簡単じゃ」
「?」
「ポン、食ってしまうのじゃ」
「え……」
「カラスは宿敵なのであろう、この雛ならポンでも負けまい」
「そ、そうかもしれないけど……なんでわたしが食べるんです?」
「野生のタヌキは食うではないか」
「あー!」
「なにが『あー!』じゃ、なにが」
「わたしは野良で、千代ちゃんからえさを貰っていたから、これ食べれません」
「へたれタヌキが」
「なんだっていいんです」
雛、震えながらわたしをにらんでいます。
「巣に返してあげましょう、それがいいです」
「そんなもんかのう」
「だって……お店は食べ物屋さんだから飼えないでしょう」
「おぬしだってタヌキではないか」
「今は人間なんです、しっぽあるけど」
コンちゃん笑ってます。
まったくモウ。
「コンちゃん、巣はどこにあるのかな?」
あ、コンちゃん、わたしの持っていたお供えのアンパンを投げました。
間合いを取っていた親カラスがくわえて飛んでいきます。
巣は駐車場の隅の木でした。すごい近所。
「はわわ、こんな所に巣があったんですね」
「おぬし、本当にへたれじゃのう、敵の居場所もわからんとは」
「コンちゃん、この子を巣に返してあげましょう」
「おぬしが行けばよいではないか」
コンちゃんやる気ゼロですね。
むー!
わたしが行くしかないようです。
はしごをかかえて行きますよ。
あー、巣から二羽の雛のがじっと見てます。
「コンちゃんっ!」
「なんじゃ」
「せめて親カラスが襲ってこないようにしてっ!」
「わらわがおれば、連中おそれ多くて近寄って来ん」
よーし、行きますよ。
ささっと上って巣に返すだけ。
ああ、巣の中の雛が噛み付きます。
って、頭をつつかれました。
親も襲ってきました。
な、なんで?
雛を戻して下を見たら、もうコンちゃんいません。
それどころか、お店のドアの所でニヤニヤしながらわたしを見てます。
お店に帰るまで、親カラスの攻撃受けまくりでした。
もう、髪も制服もぼろぼろ。
「コンちゃんの裏切り者~っ!」
「ちっ! やられてしまえばわらわがここで一番だったものを」
そ、そんな事考えてたんですか!
カラスの雛はもう大人になったみたいです。
大人といっても、まだ毛並みもモサモサした感じでしょうか。
朝の祠掃除をやっていると、微妙な間合いでじっとわたしをにらんでいます。
わたしが帰ったら、お供えのアンパンを持って行っちゃう感じ。
「ふむ……あれが例の雛と?」
コンちゃん感心したように言います。
「そうですよ、わたしがあの時助けたから、襲ってこないんです」
と、一羽が飛んで来て、わたしの頭に乗ってバサバサ羽ばたいています。
「おお、ポンの頭に乗ったぞ」
「ま、まさか、あの時助けた雛でしょうか?」
「うむ、おぬしに友情を感じて、懐いておるのかも知らん」
「そ、そうなんでしょうか! もしかしたら手乗りとかできるかな?」
と、他の二羽もわたしの頭に乗ってきました。
懐いてくれるのは嬉しいけど、頭に三羽も乗られたら重たいです。
それに爪も刺さって痛いですよ。
三羽はわたしの頭でバサバサやってます。
「こ、コンちゃん、一体なんでしょう?」
「うむ、もしかしたら、なにか訴えたいのかも知らん」
「コンちゃんの術でカラスの言葉とかわからないの?」
「そうじゃ、わらわの術でそれ、出来るぞ」
コンちゃん三羽のカラスに術をかけました。
カラスの声が聞こえてきます。
「タヌキトッタゾ、タヌキトッタゾ」
む、カラス達、わたしをえさとして巣に持ち帰るつもりだったみたいです。
コンちゃんうずくまって笑ってる。
わたしは泣きたい心境ですよ。
「そんな事があったんですよ」
「ふーん、そうなんだ」
お客さんがいない時、店長さんと祠を見ながら、雛を助けた事を話しました。
「助けたのに、攻撃したり、えさと思うのはないと思うんですよ」
「そ、そうだね」
「カラスって鳥はまったく~」
「でも、よかったじゃん」
「え? なにが?」
店長さん笑ってます。
なにかな?
「むー、よかった……雛を助けた事ですよね?」
「まぁ、雛を助けたのは、いいかもしれない……でも」
「でも?」
「カラスの雛が人間になって恩返しに来なくてよかったね」
「!!」
「もしもそんな事になっていたら……」
店長さんの目が、わたしをにらんでます。
「ポンちゃんには出て行ってもらうしか」
「えー!」
「今度またなにか動物連れてきたら、ポンちゃん出て行ってもらうから」
「なんでー!」
「だっていっつも連れて来るのポンちゃんじゃん」
「そんなー!」
「女性客が増えたんじゃないですか?」
「まぁ、前から女のお客さんが多いような気はするけど」
「神社にお参りに来る人が増えたから、こっちに寄る人も増えたはずです」
「え……なんで神社に来る人が増えたの?」
「ヌシのおかげです、白ナマズは美肌になれるそーです」