最強を求める乱入者(前半)
お気に入り登録が増えていて、びっくりした件。
調子に乗ってコスモのシーンを増やしていたら、コスモが常識人でアリストがアホの子になっていた件。
※今回は話が長くなったので、前半と後半に分けます。
アリストは幸い後遺症もなく次の日には学園に戻れる事が出来た。
教室ではアリエッタから盛大な説教を受け、コスモからは泣きつかれながら説教を受けるといった良く分からない状況を繰り広げた。
アリストは意識が飛んでいる間に治療を行ったのがウォーレンだということもコスモから聞いていた。
「本当に頭が下がる思いだ」と口に出してみたもののアリストはどこか上の空だった。
昨日の戦いが頭から離れなかったのだ。周到に用意を重ねた戦い運び、そして切ったとっておきの切り札。
初めて通った一撃。……その続きを彼女は知りたかった。
とは言ったものの彼女は昨日の技術が大きな欠点を抱えている事に気づいていた。
結果から明らかな通り、非常に燃費が悪い事。
その上、おそらくこの技術は魔術師にとっては禁じ手に近いものなのだろう。
彼女は自分以外にこれを戦闘技術として行使している者を見たことがなかった。
誰も習う者がいないということは、全てを一から構築していくという事。
それは途方もない道のりであることは想像に難くなかった。
アリストが昨日行ったものは正確に言えば魔術ですらない。
単なる"魔力"の放出である。
魔術師が一番最初に魔力を知覚するために、よくこれが用いられる事がある。
昨日はその出力を限界まで上げて放出したのだ。
単なる魔力は放出するだけでは物理的な圧力は当然得られない。
それを注ぎ込む魔力の量で、無理やり圧力に変えた。
この手が魔術師に嫌われ使われていないのは、もっと少量の魔力でもっと大きな効果を得る事が出来る"魔術"が存在するからだ。
では、わざわざアリストがこの手を選んだのは何故か。
それは何よりも出が早い攻撃手段だからだ。
魔術を構築するといった余計なステップを踏まずに、ただ思いを込めるだけで良い。
日々、ウォーレンと対峙していてアリストが思ったのは、彼とは戦闘速度が違うというものだった。
身体の動きもあるが、何より彼のその動きを支えている魔術が全て"無詠唱"で行われている。
傍から見ると本当に魔術師かと疑ってしまうぐらい詠唱をしない。
アリストには彼のようにどんな魔術ですら無詠唱でやってのける腕はなかった。
だから、発想を変えたのだ。無詠唱よりなお早い魔力放出へと。
「たのもぉ!」
戦闘形式の実践演習はこの日はなく、座学のみで午前の授業を終える。
昼下がりの教室は昨日の一件もあり比較的静かな時間が流れていた。
その雰囲気をぶち壊す声と共に教室の扉が乱暴にガンッと開かれる。
咄嗟に戦闘態勢に入ってしまうウォーレンの他は皆、あっけに取られて声の主に目をやる。
茶色の髪をツンツンと逆立てた大柄な一人の男子生徒が立っていた。
彼は背に1.5mはあろうかという大剣を背負い、獰猛な目つきでクラス中を眺めている。
目が合ってしまった不運な女子生徒等は小さく悲鳴を上げている。
「うちのクラスに何か用かね?」
先に話を切り出したのは、頼れるクラスの委員長アリスト。
が、話を切り出す前から大方の予想はついていた。
魔術科と戦士科でのトラブルといった事ではないだろう。
あの目はもっと純粋に何かを探している目だ。
「ウォーレンってやつに用があるんだけどよ……」
そう言ってつかつかと教室へ侵入する。
その足は迷う事無くウォーレンの元へ。
「こいつで間違いないよなぁ!」
ウォーレンは抵抗する素振りも見せずに腕を取られる。
抵抗しなかったのは彼に今のところは敵意がなく、また教室内で騒ぎを起こされるよりも大人しく外まで連れていかれた方が"話"が早そうだったからだ。
クラス中に睨みを効かせた男はその何人かが首を縦に振るのを見ると、窓際までウォーレンを連れて行く。
「ちぃっとばかし借りてくぜっ!」
そう言い放つと、何でもないようにウォーレンを窓の外へ……放り投げた。
続いて自身も窓の外へ身を躍らせる。
教室から小さくない悲鳴が上がった。
ここは3Fの教室。冷静に風の魔法を制御する事が出来ればこの高さも問題ないが、普通に落ちれば打ちどころによっては大事となる。
「コスモ、私も行ってくるぞ!」
次に窓の外へと身を踊らせたのはアリスト。
風の魔術行使は難なく行われ、彼女の身を加速させ二人を追いかける。
「ちょっとあんた病み上がりなのよ!」
躊躇いがちに追いかけるのはコスモ。彼女も窓から飛び降りようとしているが、若干腰が引けている。
詠唱を行い、重力緩和の魔術が自身にかかったのを確認すると、恐る恐る窓から飛び降りた。
残されたクラスメートはただ唖然とするばかりだった。
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コスモが追いついた時にはウォーレンと侵入者の男、アリストの三者の間で既に話はまとまっていた。
いきなり投げられたウォーレンだが、ざっと見たところ幸いな事にどこにも怪我が無いようだった。
いや、幸いではない。それが彼の持つ実力なのだ。
昨日のアリエッタの話でもないが、どんな時でも冷静だからこそ咄嗟の出来事にも対処が出来るのだろう。
魔力至上主義のコスモも、その考えを少しずつ改めていた。
「で、結局なんなの? あの礼儀知らずのツンツン頭は?」
どうやら特定の場所へ向かっているらしい。コスモは何故だか自分の予想が外れている事を祈った。
前を歩くツンツン頭とウォーレンの間にはどこかしらピリピリとした空気が流れている。
「あぁ、なんでも最近ウォーレンの噂ばかりで面白くないとか何とかで、どっちが最強かを決めるんだそうだ!」
碌でも無い内容なのにどこか嬉しそうに語るアリストにコスモはため息を付く。
クールな印象とは裏腹にアリストは熱血な所がある。
それでいて、頭が良く割りと発言も正論を得ているため、クラスではあっさりと委員長の座に収まっている。
「それを止めるのがあんたの仕事でしょ!」と声を上げる気力もなく、なし崩しにコスモは後ろを付いて行く。 「あんたを治すためにウォーレンだって倒れてんのよ!」とも言い出すことはなかった。
この中で昨日ウォーレンが倒れたのを知っているのはコスモだけだ。
危険なようであればそれを引き合いに出してでも止めれば良いと、コスモは考えていた。
「ツンツン頭は"あの"ギルベル・クラストだそうだ」
その名前はコスモも聞いたことがあった。学園では、ウォーレンに負けず劣らずのビッグ・ネームだ。
強いやつであれば誰彼構わず喧嘩を吹っかけるという碌でもない噂が広まっている。
戦士科の同学年では彼を抑えられる者はおらず、3・4年生にも勝負を挑んでいるらしい。
一番新しい噂は、単身で5年生のSクラスに乗り込み、暴れまわったというもの。
結果はギルベルの敗退で終わった事件だが、数の利があるにも関わらず、彼を抑えきる事は出来なかったと各所で話題を呼んだ。
と、そこまで回想してコスモはようやく声を上げた。
「って、なんでそんな奴相手に決闘紛いの事、引き受けさせてんのよ! あんた、委員長でしょ? 止めなさいよ!」
肩で息をしながらコスモは力の限り抗議した。
前を歩く二人は意にも介さず歩みを止めることはない。
コスモの剣幕に多少押されるもののアリストは反論を返す。
「いや、それぐらいであれば相手にとって不足はないんじゃないかと。ほら、本人も割りと乗り気でこうウキウキしてるだろ?」
アリストが指差すウォーレンを見たが、いつも通り平和ぼけした柔和な顔にしかコスモには見えない。
何も始まっていないのに何故だかどっと疲れが出て、コスモはその口を閉ざした。
(ウキウキしているように見えるんでしょうか。……見えるんでしょうね)
アリストの言った言葉はあながち的外れな言葉ではなかった。
ウォーレンは噂話には疎く、ギルベルの名前は先程初めて知った。
しかし、そんな話など聞かなくても隣を歩くだけで、その実力の高さを肌で感じていた。
(楽しくなりそうだぜ!)
同じ事をまたギルベルも感じていた。
実は彼はウォーレンの外見的な容姿などの情報は得ずに単身でクラスへと乗り込んで行った。
分からなければクラスでまとめて暴れれば良いと思っていた。
……クラスを見渡した瞬間にあっさりと本命は分かった。
いつでも反応できるような態勢で、ギルベルの事を伺っていたからだ。
後ろでごちゃごちゃと女が喚いているが、ギルベルには届いてなかった。
ただ、隣のウォーレンと――早く戦いたかった。
実はアクセス数とか、お気に入り数とか気にちゃうタイプです。