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エクストラ ゼロ  作者: at-tky
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学園での評判

とある目標を立てて小説を書きます。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

「今日もボロ負けだった」

 アリストは午前中の授業を回想して呟いた。


 ここルーエンス学園は国内から優秀な人間が集まる冒険者及び研究者養成のための学園だ。

 学費も安く、試験のハードルもそこまで高くはないため、入学の面に関して言えば、学園の門は広く開かれていると言える。

 しかしながら、卒業となると話は違ってくる。

 この学園の卒業資格は、きちんとした技術を持ったものでなければ得る事が出来ない。

 "埋もれた才能を発掘する"という基本理念は学園の創始以来揺らがず、また卒業生もそれにふさわしい成果を上げていた。

 経営資金のほとんどが学園の卒業生の援助によって成り立っているのは有名な話である。

 そんな背景もあってか、目標はそれぞれ違うにせよ、この学園の生徒は自分を磨くことに対して貪欲であった。


 そんな学生の中でも自分の魔術師としての力は抜きん出ていると、魔術科2年生のアリストは思っている。

 これは彼女の単なる自惚れなどではない。

 客観的な事実として、1年次のクラスでは誰一人として、彼女より優れた成績を残した者はいなかった。

 しかし、どれほど足掻こうが、彼女は2年次のクラスメートのウォーレンに敵わなかった。


 アリストは彼の噂を1年次から聞いていた。

 曰く、学園始まって以来の秀才であるとか。

 曰く、魔術科の魔力保有量の最低記録を更新しただとか。

 曰く、教員と只ならぬ関係にあるとかないとか。


 噂に尾ひれ背びれがついているせいで、彼と初対面の人間はその毒気を抜かれることになる。

 一言で言えば"平凡"である。強いて特徴を上げるなら黒髪に黒目が少々珍しいぐらいか。

 体から感じる魔力は極小で、魔術師ではなく一般人と変わらないレベル。

 我が強い者が多いこの学園の生徒にしては、物腰が柔らかいのが好印象か。


 平凡を売りにしたような外見のウォーレンだが、1年次の筆記試験の結果は冗談みたいなものであった。


 "魔術科の全教科 満点"


 この結果に自信を喪失した生徒は少なくない。アリストもその一人だった。

 筆記よりも実技が得意な彼女だが、少なくとも得意教科の"魔術制御"に関しては、筆記だとしても一番を取るつもりであった。

 しかし、結果は勝負以前の完膚なきまでの敗北。


 アリストの人生において当然ながら彼女よりも実力のある魔術師は周りにいた。

 ――彼女の両親であったり、幼い頃から両親の代わりに師事をしている家庭教師であったり、その仲間内の魔術師であったり。

 しかし、アリストが彼らに追いつけないと思ったことはただの一度もなかった。

 アリストに足りないのは経験を含む年月であり、それは時間が……これからの人生が解消してくれると思っていたからだ。


 ……だからだろうか。


 "同年代"の人間にどのような形であろうが、魔術で負けた事が彼女の心に"何か"を残した。


*************************************


 アリストの名誉挽回の機会はすぐにやってきた。

 2年次のクラス分けは1年次の成績によって決まるため、アリストとウォーレンは同じSクラスに振り分けられた。

 魔力の少ないウォーレンのSクラス入りに対して一部の教師から反論があったが、学園長の「面白そうだし、筆記トップだから問題なし」の一言で決着がついたのは余談だ。

 そして、2年次の初めての実技実習でアリストはウォーレンの実力を知ることになる。


「そもそも、全く攻撃が当たらない時点で勝負になってない……」

 彼の戦い方はまるで魔術師に喧嘩を売るようなスタイルだった。

 攻撃魔術は使わない。防御魔術もほとんど使わない。補助魔術を自身にかけて、持っている杖で相手を殴る。

 彼が戦闘中に行なっているのはこれだけだ。だが、効果は非常に高い。

 戦闘中の彼はまるで名の通った棒術師のような動きを見せる。

 近接戦に脆い魔術師では、懐に潜り込まれた瞬間に勝負が決してしまう。

 詠唱時間が短い魔法で迎撃を行おうとすれば躱され、かといって少しでも複雑な魔術を詠唱しようとすれば容赦の無い攻撃が浴びせられる。

 単純が故に強い。おそらく、一対一の対魔術師戦で取りうる戦術としては最高峰のものではないかとアリストは思っていた。

 もちろん、棒術を主体としたものだからと言って、それは単なる戦士科の人間が真似を出来るものではない。

 相手がどのような魔術を使い、どの間合いが弱点となるのか把握する……言わば魔術師的な知識の要素も必要となるからだ。

 そういった意味では既にウォーレンはこの歳にして、対魔術師への戦闘技術を確立しているといって良かった。


 では、なぜ彼のようなスタイルが流行らないか。

 それは、近接戦闘を行いながら、魔術の行使をするのが非常に困難であるからである。

 その理由から、魔術師は戦力としては前衛とセットとなる事が前提となっている。

 殴り殴られする中で魔術を行使しようというウォーレンの考え方が異端であった。


 学園での魔術科の実技実習では、戦いの開始線がかなり離れている。

 その距離を使って魔術を撃ち合い、攻防を行うというのが実習の内容。

 相手の魔術を潜り抜けて、相手を殴ることは授業の想定外だった。

 だからと言って、彼の行為が反則であるということはない。

 ある程度の距離が用意された時点で、攻撃魔術を行使する者が圧倒的に有利だからだ。

 教師にとって、それを掻い潜って相手を直接攻撃する技術を賞賛することはあっても、反則とする理由はない。


 他の生徒は彼のことをやっかみ半分で、ろくに魔術の使えない奴と叩くが、アリストはそうは思わない。

 正直、どれだけの時間を費やせば、あれ程の動きが出来るのか、彼女には見当がつかなかった。

 一度、アリストはウォーレンに疑問を投げかけたことがある。

 「攻撃魔術を使う気はないのか?」と。

 返ってきたのは冴えない返事だった。


 「聡明な委員長なら聞くまでも無いでしょう。単に魔力が足らないのです」 と。

 そうウォーレンの魔力値は圧倒的に低い。魔術科の中では群を抜いて低い。

 使用魔力が多い攻撃魔法に、彼のスペックが追い付いていないのだ。

 アリストは続けてウォーレンがこの科にいる意味について尋ねようとしたが、失礼に当たると思いなんとか喉の奥で留めた。

 その表情を見たウォーレンが言った。


「私には魔術ぐらいしか取り柄がありませんので、ここが私の居場所で問題ないのです」

 そう言い切った彼は分厚い本に手をかけ読書を再開した。


 アリストは魔術師の家系に生まれ、魔術師としての英才教育を受けてきた。

 学園を卒業した後は国に仕えるだろうというところまで、自分の将来が予想出来ていた。

(この場所は、私自身の意志で立っている場所なのだろうか)


 ――それからだ。アリストが何かにつけてウォーレンについて考えるようになったのは。


「ちょっと、アリスト聞いてんの?」

 気づくとアリストの目の前でピンクの髪の毛を垂らした少女、コスモが首をかしげていた。

 可愛らしい仕草の割りにはその表情は少し歪んでいる。

 もっともいたる所に存在する彼女の信者から言わせれば、そんな表情も"良い"のだろうが。


「悪い、考え事を……」

 アリストは最近の口癖とも言える言葉を吐き出す。

 口に出してすぐに後悔するが、出てしまったものはしょうが無い。

 これからコスモとの決着の付かない論争がまた始まるのだ。

 もちろん、アリストには勝ちを譲る気はない。


「どうせ、またウォーレンのこと考えてたんでしょ? あぁ、ウォーレンの隙のない立ち振る舞い……美しい、とかなんとか。馬鹿じゃないの? あんた現実見なさい。あいつ、たいした魔術使えないんだから。入試で攻撃魔術を使うように言われたら、よりにもよって基礎の基礎の魔術使ったらしいわよ。そこらのガキでも使えるような。とにかくあんたは目を覚ましなさい」

 一気にまくし立てる親友のコスモを見ながら、アリストは思った。

(これさえ無ければ、見た目も良いし、引く手数多なんだが)


「まぁ、落ち着けコスモ。君の言っていることもあながち間違いではないが、やはりウォーレンが凄いことには変わりはない。君の言葉を借りれば、魔力のほとんどない魔術師がこの魔術科でトップの実力を持っていることになる。筆記試験も知っているとおもうが、やはりトップの成績だ」

 話しているうちについつい言葉に熱が入ってしまうのは、やはりある種の尊敬の念からくるものであろうと、アリストは自分では思っていた。


 二人の論争は次の授業の開始まで続けられた。

 そんな二人を遠巻きに見ていた男子クラスメートは皆共通して思っていた。

 魔術の才能豊かな美女二人の話の話題があの冴えないウォーレンとはどうにも納得いかないと。

 別の講義を取っているウォーレンは幸か不幸かこの場にはいなかった。

 本人の預かり知らぬところで、今日もその評判を下げるウォーレンであった。

主人公視点が混ざってくるのは3章からとなります。

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