君色サマー
15分短編です
趣味、特技、得意教科、得意料理etc…。これと言って、特筆して“デキる”何かがあるわけじゃない自分が、心底つまらない生き物の様で、大嫌いだった。
別に、友達が居ないわけじゃない。学校に行けば、話をする子もいるし、移動教室に一緒に行く子もいる。帰りはみんな部活で私は帰宅部だから、基本的には一人。
一人になるとちょっとホッとしてしまう自分が嫌だ。みんなと喋っていると楽しいし、嫌なことをされているわけじゃない。いじめを受けているわけでもない。本当に特筆する何かがあるわけじゃないんだけど、何か一つでもいいから、見つけたい。趣味でも特技でも、何でも良い。
ぼんやりそんなことを考えていると、帰りのバスを降り過ごしてしまった。でもなんだか、家に帰りたくない。いや、帰るけどね?お腹すくし。夕飯までには帰るけど、今日はなんとなく、気になるバス停まで行ってみたくなった。
街並みがどんどん変わっていく。普段見慣れた商店街を通り抜けて、見知らぬ街でバスが終点を迎えた。
定期圏内を出てしまったから余分にお金を払わなくてはいけなくなった。でもまぁ、今日はそれでよい。必要経費だ。
終点は地元の大きな駅だった。
なぁんだと思いつつ、普段見ないサイズ感の駅ビルにワクワクしていたのは本当だ。今日は何か、面白いことに出会えそうな気がした。
ショッピングモールをただひたすらに冷やかしつつ歩く。だって、服を買うためのお金は持って来ていないし、そもそもそこまで服やメイクに興味はない。ネット上の可愛い女の子たちは、みんな別人級のメイクの達人だ。そこまでの熱量を私は見いだせない。
ふらふらと歩いていると、本屋さんから出てきた人にぶつかってしまった。
「あっごめんなさい」
「いや、こちらこそ」
そう言った男の子が落とした袋の中から、漫画が一冊飛び出していた。慌てて拾うと、表紙には筋肉質な男性と同じく筋肉質の男性が、肌を触れ合わせて抱き合う絵が描かれていた。
「・・・・?」
「あっ・・・えっと」
男の子は慌てて私から漫画を奪うと、ごにょごにょと言い訳めいた言葉をこぼし始めた。
「いや、これは、その・・・別に、好きとかそう言うんじゃなくて」
「好きじゃないのに買ったの?ここ古本じゃなくて新刊扱ってる本屋さんなのに?」
「うぐ・・・えっと・・・だから・・・」
なんとなく、彼の事も気になったし、持っていた漫画の事も気になった。
「ねぇ、ちょっと話しない?」
私の申し出に驚いた顔をしていたけど、男の子は、目を泳がせながら、か細い声で“良いよ”と行ってくれた。
ファミレスに入って、ドリンクバーを注文して、彼に話を聞いた。
彼は、自分は“腐男子”なのだと自己紹介してくれた。世の中には、男性同士の色恋を好む男性もいるのだと、熱く語ってくれた。
「アニメとか漫画でも、そう言うの考えるの?」
「うん、そう言うのは二次創作って呼ぶんだけど、俺が買ったのは一次創作ってやつでさ」
彼の話はまるでおとぎ話のようだったけど、普段アニメで見るような世界を、そんな風に見るなんて、想像もしていなかった。もっと、もっと彼のことが、ひいてはその世界の事が知りたいと思うようになっていった。
彼も腐男子的な話ができる相手がいなかったと言い、私が話し相手になるのを心底喜んでくれた。
連絡先を交換して、寝る間も惜しんで彼と連絡を続けた。
いつしか私は、夏のビッグなサイトで自分の書いた漫画を売るようになっていた。
——君色に染められて——
俺より楽しんでんじゃん・・・。




