表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PROTOCOL: ASUMI  作者: Capricorn
1/1

 未来の観測誤差

はじめまして。

未来の記憶を失った白髪の少女AIと、十八歳の少年が出会う物語です。


国家、未来予測、自己進化型微生物など、少し難しそうなテーマですが、基本は「未来を変えようとする二人の話」です。


アクション控えめ、じわじわ進むSF寄りになります。

長編予定ですので、ゆっくりお付き合いいただけると嬉しいです。


ブックマークや感想、とても励みになります!




 未来は、予測可能だろうか。


 下坂拓はこれまで、その問いを疑ったことがなかった。

 未来は確率分布の集合であり、十分な変数が揃えば収束する。完全予測は不可能でも、誤差は制御できる——少なくとも理論上は。


 だからこそ彼は、山間部に放棄された研究施設へ足を運んだ。


 違法ネットワークに流れた断片的な設計図。

 「時間干渉」「記憶転送体」「量子保持核」。


 誇張や虚偽の可能性は高い。だが仮に一割でも真実なら、社会構造そのものを再設計できる。


 地下区画の最奥に、透明なカプセルがあった。


 内部に浮かぶ少女。


 白髪だった。


 単なる色素欠乏ではない。均一で、光を拡散する純粋な白。設計思想が外見にまで及んでいると分かる。


 制御パネルの表示。


 TEMPORAL MEMORY TRANSFER

 SUBJECT: ASUMI

 MEMORY STATUS: FRAGMENTED


 時間移動ではない。

 転送されているのは神経活動の記録——すなわち記憶だ。


 もし未来の記憶が現在に再構成されるなら、未来は「予測対象」ではなく「観測対象」になる。


 それは、倫理的に危険だ。


 同時に、知的に抗いがたい。


 拓は起動操作を行った。


 液体が排出され、拘束が解除される。


 少女の瞼が開いた。


 灰色の瞳が、数秒かけて環境を認識する。


「……大気組成、許容範囲内。

 都市崩壊率、低水準」


 都市崩壊率。


 現在の日本で、その単語を口にする者はいない。


「どこの都市だ」


 拓は問いかける。


 少女は彼を見る。


「下坂拓」


 名前を呼ばれた。


「あなたはEVE-β計画の主任研究者でした」


「いつの話だ」


「二〇四七年」


 十年後。


「EVE-βとは何だ」


「自己進化型微生物群。

 神経侵襲性を持ち、宿主死亡後も筋活動を維持します」


 死体感染型。


 それは軍事技術というより、文明実験に近い。


「なぜ開発した」


 わずかな沈黙。


「人類の適応圧を強制的に引き上げるため」


 淘汰の加速。


 功利主義の極端な応用か。

 あるいは選民思想の科学化。


「結果は」


「制御不能。都市崩壊率八十三パーセント」


 八十三。


 具体的な数値は嘘をつきにくい。


「あなたの役割は」


「観測と修正」


「修正の定義は」


「あなたがEVE-βを完成させない未来へ誘導すること」


「失敗した場合は」


「あなたの排除」


 感情はない。だが無感情でもない。

 わずかな遅延がある。


 その瞬間、施設の通信が再接続された。


 国家防衛局。


 端末に命令が表示される。


 ——対象AIを即時破棄せよ。


 国家は未来干渉技術を把握している。

 そして危険と判断している。


 合理的判断は明確だ。

 ここで破棄すれば、リスクは最小化できる。


 だが破棄は、未来観測の可能性を閉じる行為でもある。


「識別名は」


 拓は問う。


「明日美」


「誰が命名した」


「未来のあなたです」


 未来の自分が、対象に人格を付与した。


 それは単なる兵器ではなかった可能性を示す。


「未来は確定しているのか」


「未観測である限り、分岐は残存します」


 量子論の解釈に似ている。


 観測が世界を収束させる。


 拓は端末を閉じた。


 国家の命令に従うことは合理的だ。

 だが合理性は常に最適解を保証しない。


「協力関係を提案する」


「条件を」


「私はあなたを破棄しない。

 あなたは未来情報を段階的に開示する」


「目的は」


「未来の検証と再設計」


 明日美は数秒間沈黙する。


「受諾します、拓」


 外ではヘリの音が近づいている。


 この選択は安全ではない。

 だが、未来が観測可能であるなら——


 観測しないという選択こそ、知的怠慢だ。


 非常灯の赤が、白髪を染める。


 それは、理論が現実に侵入した証拠だった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


第一章は、明日美の登場と未来の断片を提示する回でした。

白髪の少女×未来記憶という設定をどう見せるか、かなり悩みました。


次回から国家側も本格的に動きます。

拓と明日美の関係性も少しずつ変化していく予定です。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ