第3話 疑問を持つと街が変わる
翌日。
湊は、昨日の散歩で撮った写真を見返しながら、なんとも言えない高揚感を抱えていた。
石垣、祠、切通しの名残。
どれも、子どもの頃から見慣れていたはずのものだ。
なのに、昨日はまるで“初めて出会った”ように感じた。
「……疑問を持つだけで、こんなに景色が変わるんだな」
湊は思わずつぶやいた。
教授の言葉が、また胸の奥で響く。
――空気は、意識しないと見えない。
その通りだった。
鎌倉はずっとそこにあったのに、湊は“見ていなかった”のだ。
湊は再び外に出た。
今日は、昨日とは違う道を歩いてみようと思った。
家を出てすぐの角を曲がると、細い坂道が続いている。
昔は友達と自転車で駆け下りた坂だ。
その途中に、古い石碑が立っていることに気づいた。
「……あれ、こんなのあったっけ?」
近づいてみると、文字は風化して読みにくい。
けれど、かすかに「○○塚」と刻まれているように見えた。
「塚……?」
湊はスマホで写真を撮った。
調べれば何か分かるかもしれない。
坂を下りきると、小さな川が流れている。
普段はただの“用水路”だと思っていたが、今日は違って見えた。
川幅が不自然に広い。
両側の石垣も古い。
そして、川沿いの道が妙に曲がっている。
「……昔はもっと大きな川だったのかな」
湊は川の流れを見つめながら、ふと祖父の言葉を思い出した。
――昔はこの辺、もっと水が多かったんだよ。
そのときは何気なく聞き流したが、今なら分かる。
地形そのものが、歴史の痕跡なのだ。
湊は川沿いを歩きながら、周囲を観察した。
すると、古い石橋が目に入った。
「……これ、鎌倉時代の名残じゃないよな?」
自分で言って、自分で笑ってしまう。
でも、そう思ってしまうほど、昨日から世界が変わって見える。
橋の欄干には、風雨に削られた模様が残っていた。
誰が、いつ、何のために作ったのか。
考えるだけで胸が高鳴る。
湊はメモアプリを開き、今日の気づきを書き込んだ。
・石碑「○○塚」?
・川幅が広い → 昔の地形?
・古い石橋の由来
・川沿いの道の曲がり方が不自然
書き終えると、湊は深呼吸した。
「……昨日より、もっと面白い」
疑問を持つと、街が変わる。
ただ歩くだけで、鎌倉が“謎の宝庫”に見えてくる。
湊は空を見上げた。
雲の切れ間から差し込む光が、川面に反射してきらめいている。
「よし……次は、ちゃんと調べよう」
湊は決めた。
散歩で生まれた疑問を、そのままにしておくのはもったいない。
次は、図書館の郷土資料室に行こう。
歩きながら、湊は思った。
――鎌倉は、知っているつもりで一番知らない街なのかもしれない。
その気づきが、湊の胸を熱くした。
春休みは、まだ始まってもいない。
なのに、もう“冒険”は始まっていた。




