第25話 教育実習初日:校門の前で
実習開始の前週金曜日。
湊は母校の職員室で、佐藤先生と向かい合っていた。
「相沢、準備はどうだ?」
「はい……授業案は固まりました。
地形、生活、文化の三つの層で……」
湊が説明すると、佐藤先生は静かにうなずいた。
「いい視点だ。
鎌倉は“知識”より“見方”が大事だからな。
生徒に『どう見るか』を渡せれば、それで十分だ」
その言葉は、春休みの冒険で何度も感じたことと重なった。
「ただし――」
佐藤先生は少し笑った。
「初日は緊張するぞ。
でもな、緊張してるってことは“本気”ってことだ。
それを忘れるな」
湊は深くうなずいた。
「……はい。頑張ります」
こうして、実習前の最終確認は終わった。
――そして、実習初日。
朝の空気は少し冷たく、春の匂いが混じっていた。
湊は母校へ向かう道を歩いていたが、
胸の奥がざわざわして落ち着かない。
通学路には、生徒たちが歩いている。
笑い声、部活のバッグ、友達同士の会話。
その姿を見た瞬間、湊の心臓が跳ねた。
「……本当に、俺が教えるのか」
急に不安が押し寄せる。
春休みに歩いた鎌倉の景色も、
授業案も、
教授の助言も、
すべてが遠く感じられた。
足が止まりそうになる。
「……大丈夫。やれる」
湊は小さくつぶやいた。
春休みの冒険で得た視点。
歩いた道、見た景色、聞いた声。
それらは確かに自分の中にある。
深呼吸をして、背筋を伸ばす。
「よし……行こう」
校門が見えてきた。
懐かしい鉄の門。
朝日を受けて、少しだけ光っている。
湊は一歩、また一歩と近づき――
校門の前で立ち止まった。
ここから先は、
“学ぶ側”ではなく、
“教える側”の世界。
湊は拳を軽く握り、気合いを入れた。
「……行きます」
そうつぶやき、
湊は校門をくぐった。




