第24話 最終準備:授業の形を整える日
実習まで残り一週間。
大学のキャンパスは新年度の活気に満ちていたが、
湊の心は静かに波立っていた。
「……いよいよだな」
図書館の自習室。
湊は机いっぱいにノート、プリント、参考書を広げていた。
春休みに歩いた鎌倉の記録も、
教授と作った授業案も、
すべてここにある。
「まずは……模擬授業だ」
湊はパソコンを開き、スライドを映した。
地形の図、谷戸の写真、段葛の遠近法、
市場の風景、文学館の展示――
春休みの“歩いた記憶”が画面に並ぶ。
「導入は……これでいこう」
湊はスライドの最初に、
“鎌倉は知っているつもりの街?”
という問いを置いた。
生徒の“当たり前”を揺さぶるための一言。
春休みに自分が揺さぶられたように。
次に板書案を確認する。
――――――――――
【第1時:地形の鎌倉】
・谷戸
・切通し
・湾の形
・なぜ鎌倉は都になれたのか
――――――――――
「ここは……テンポよく進めたいな」
湊は声に出して説明の練習をした。
自分の言葉で語ると、
春休みに歩いた景色が自然と蘇ってくる。
「次は……生活の層」
市場の写真を見ながら、
湊は春休みに感じた“匂い”や“音”を思い出した。
「ここは……生徒に“今の鎌倉”を感じてもらいたい」
そして文化の層。
「文学館……ここは絶対に外せない」
作家たちが見た鎌倉の風景。
湊が歩いた鎌倉と重なる視点。
それを生徒に渡したい。
そのとき、スマホが震えた。
母校の佐藤先生からだった。
――「準備、進んでるか?
相沢の授業、楽しみにしてるぞ。」――
湊は深く息を吸った。
「……よし。大丈夫だ」
不安はある。
でも、それ以上に、
“伝えたい”という気持ちが強かった。
湊はプリントを印刷し、
ワークシートを整え、
板書案をもう一度見直した。
「これで……いける」
窓の外では、桜が満開に近づいていた。
春休みの冒険で得た視点が、
いま“授業”という形になろうとしている。
湊はノートを閉じ、静かに立ち上がった。
「実習……楽しんでこよう」
その言葉は、
自分自身へのエールでもあった。




