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アーティフィシャル・2nd・ライフ  作者: ジョウ
第Ⅰ章

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六.河本 有生

※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません※※

 クロエはラボの作業台にキリコを寝かせ、幾つかコードをつないでバイタルをチェックしていた。そこにはハヤトとハンドウもいた。


「あ、ほらぁーあんた、左足の甲を骨折しかけてるじゃないのよー。」

 クロエはモニターを見つめながら溜息をついた。


「…クロさん、皆さん、心配かけてすまんやった。頭では、やれそうじゃち思うちょったとじゃが…」

キリコは申し訳なさそうに謝った。


「まだ脳が身体と同期しきってないのよ。無理すると身体壊れるからやめてくれる?()()死んじゃうわよ。」

クロエがそう言うと、キリコは仰向けの体勢で天井を見つめながら答えた。

「人はみな最後はけ()ん。けんまで、世んため人んために(ない)出来(でく)っかじゃ。」


 ハヤトはいかにもキリコらしいセリフだ、と思い笑顔になった。

クロエはかっこいいじゃないのよとつぶやいてから、「ま、次死んだときは、今度こそあたしがあんたをとびきりいい女に戻してあげるから安心しなさい。」とキリコに言った。キリコはこんままでよかよ、と言って笑った。


「…そいにしても、あの(けん)ちゅう人は早すぎて動きが見えんやったなあ。」キリコがつぶやいた。

「ああ、健ね。あの子はエージェントクラスだからね。ランク上の成績優秀者なのよ。」

それを聞いたハヤトはまた健の姿を思い出し、急に心臓がどきどきしてきた。



 あれから、キリコの噂は瞬く間に社内中を駆け巡り、その日のうちに皆がキリコの存在を知るところとなった。


 社員たちは脳機能修復により雇用された者たちのことを「二周目」の人と呼んでいた。

 愛脳警護では社員がクラス分けされており、護衛や警備を専門に行う体術訓練を積んだ者を「マーシャル」、非戦闘の専門職、情報処理や科学・医療班などに就くものを「スペシャリスト」、マーシャルとスペシャリストを兼ね備えた指揮官候補や諜報要員を「エージェント」と呼称していた。(ただし通常は「社員」と一括りにされていることが多い。)いずれの職務も試験を受ければ誰でも目指すことができた。


 なお、「二周目」の者たちにはエージェントクラスを目指すことがすでにプログラミングされていたため、他の社員たちも二周目は必然的に自分たちのリーダーになる人間だと認識していた。ちなみに、社員たちはキリコのことを「二周目の(かん)な美女」と噂していた。


「エージェント。へえー、大したもんじゃなあ…」キリコは感嘆の声を漏らした。


「ところで、あたいの身体(ごて)(わっ)ぜか動きやすかったのは何故じゃんそか。柔軟性が()けみたいです。」

キリコは試合中、入らないだろうと思っていた角度に攻撃の手が届いたことに驚き、のちに身体が柔らかいからだ、ということに気がついた。


「それは前の()()()がヨガでもやって柔軟性を維持してたからじゃないかしら。あ、あんたもよ、ハヤト。」


 クロエがそう言ってハヤトを見ると、ハヤトは頬を赤らめたまま、クロエを見つめ返した。

「あんたの前の人格がだいぶ鍛えてたみたいだから、ハヤトの身体はすごくタフにできてるの。だから、一カ月くらい戦闘訓練はダメだけど、ジムで筋トレするくらいだったら大丈夫だから、続けておきなさい。」

クロエのアドバイスを受け、ハヤトは何度も小刻みにうなずいた。


 コンコンコン、と誰かがラボのドアをノックした。「はいどうぞー」とクロエが言うと「失礼します」と言って背の低い女性が入ってきた。


「あら、有生(ゆい)じゃない、どうしたの?」クロエが尋ねると、ハンドウが口を開いた。


海豚(いるか)さんのご提案により、キリコさんへは女性のエージェントにしばらくお付添いただき、(いろ)要員としての手ほどきを受けてはどうかということでしたので、河本さんにお越しいただきました。」


 有生は作業台の上にいるキリコを見ると、噂どおり「想像を超えてくる」美女だ、と真っ先に思った。

河本(かわもと) 有生(ゆい)と申します。キリコさんにしばらくの間付かせていただきます。よろしくお願いいたします。」有生は頭を下げた。

 クロエは無表情で「ふーん、そう。」と言った。

 キリコは作業台から上体を起こし、「そうやったか、わざわざあいがとごわす。なにとぞよろしゅうたのみあげもす。」と頭を下げ返した。


「ところで、色要員とは、ないんこっと?」キリコが尋ねた。

「色仕掛け要員ってこと。あんた、見た目が派手だから、素質あるのよ。」クロエはそう答えると、「そうだ有生、この子に、ついでに標準語も教えてあげてくれる?」と有生に向かって言った。

「うん、わかった。」有生は笑顔で答えた。

「あ、あと、女らしさってやつもね。こう見えてこの子、中身は男だから。」クロエはさらに言い足した。

「え?」

有生は、こんな綺麗な人に、これ以上どんな女らしさが必要だっていうんだろう、と一瞬戸惑った。


「あとは…あ、じゃあ、ハヤトには私が手ほどきしてあげようかしら。」

 クロエがそう言うとハヤトは嬉しそうに笑ったが、ハンドウと有生は何かを言おうとしたのか口を半開きにしたまま、固まっていた。

「そいがよかやろう!良かったな、ハヤト!」キリコが笑った。



 翌日、ハヤトは髪の毛を金髪にして出勤してきた。


アーティフィシャル・2nd・ライフ©2025 ジョウ

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