二七.ダルカ産業
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません※※
時刻は午前1時半を回っていた。
物流倉庫を後にした健、キリコ、ハヤト、アスカ、有生は、クロエのラボに集合していた。そこには珂糸とハンドウの姿もあった。
クロエは昼間、珂糸と「カリスマジェンジー」の行方を追った先でアースタイガーを見つけ、誘拐を実行したと思われるダルカ産業に辿りついたことを皆に明かした。さらに あ、それから、と言って付け加えた。
「みんなIKGの役員で、公安の南武 珂糸さんはもう知ってるわね。彼もチームに加わることになりました。さっきも言った通り、誘拐されてオークションにかけられる被害者の中に、お友達がいるそうなの。被害者およびお友達の保護を目指して、できるところは協力していきましょうということになりました。」
「でも…それならば、公安が捜索を行った方が、人員も武器装備も整っているのではないですか?」
有生がためらいがちに質問した。
「あぁその人、ドラッグ密売の常連さんらしくて、売人さんに騙されて誘拐されちゃったのよぉ。公安を通すと色々バレちゃうから、私たちのほうで秘密裏に探して欲しいみたい。」
クロエは早口でまくしたてるように言い返した。
珂糸は、突然何もかも明け透けに語り出したクロエを驚いたように見つめ、思わず口を開いた。
「悪いけど私、自分と仲間にだけは嘘つかない、って決めてるの。」
クロエは珂糸に向かって冷ややかに言い放つと、そっぽを向いた。
やがて珂糸は諦めまじりにため息をついた。そこで話題を変えるように、アスカが口を開いた。
「自分の感覚なんですけど、倉庫にいたダルカ産業と先日一美海運を襲撃した組織は、恐らく別だと思います。狙撃のスキルが、段違いだったんで。」
「そうなの。誘拐に使用した携帯電話も捨てずに使ってるし、ダルカ産業の人たちは闇バイトでかき集められた素人、って感じがしたわね。もともとカタギの会社みたいだし、裏稼業については一美海運が仕切る算段だったに違いないわ。急に親玉がいなくなってどう対処したらいいか分からず、右往左往しているってところかしらね。」
「ま、こうなることを見越して一美を襲ったのかもしれないけれど。」
クロエは何かに納得したように頷いた。
「警察の情報によると、先ほどのコンテナからは錠剤型の薬物が見つかったそうです。また死亡していた外国人たちは皆、身元が不明な不法入国者だったようです。」
ハンドウがタブレットを操作しながら報告を読み上げた。
「…あれは薬物の取引現場だったんですね。」有生は健とアスカを交互に見た。
「結局、社長どんのメモにあった情報は人身売買とは関係なかったですか…。とんだ無駄足になってしめ申し訳なか。」
キリコが独り言のようにつぶやくと、隣にいた健がキリコ、と小さく声を掛けた。キリコは顔を上げ健を見つめた。
「掴んだ手掛かりが必ずしも望んだ情報につながるとは限らない。気にするな。」
健は無表情ではあったが、穏やかな声でキリコをなぐさめていた。
キリコは笑顔になり、「はい!」と小さく答え、頷いた。健を見つめていたハヤトもつられて頷いた。
「とにかく、次のチャンスは海上で被害者たちの受け渡しが行われるというオークションしかないわね…。」
クロエは珂糸を見つめた。
「オークションは、ダークウェブ上で行われると思われます。公安にダークウェブの監視を専門としている者がいますので、その者の協力を仰ぎましょう。信用できる人間です。」
珂糸はクロエの視線に答えるように言葉を発した。
「あら、そう。そっちでやってくださるなら、こちらとしても助かるわぁ。それじゃあ、何とかして潜入できるようにみんなで作戦を練っておきますから、今日はもう解散にしましょ。お疲れ様。」
クロエは早々に会議を切り上げた。
―
「健さん」
キリコに呼び止められ、健は足を止めた。
「ダルカ産業におったアースタイガーちゅう人は、英語を喋っちょったそうやが…」
「あん夜、一美海運のクルーズ船を襲うた犯人は英語でもなく、東南アジアの言語に似たアクセントもしておらんかったです。」
健は無表情のままキリコの話を聞いていた。
「ヨーロッパのような…ちゅうかロシア語んようなアクセントやった気がすっとじゃが、一つだけ、聞き取れた言葉がありもした。」
「タリヴァ、タラヴァ?…そげん風に聞けたとじゃが…、ヨーロッパの言語で、こいに似た言葉はあいもすか?」
「…それだけでは、分からないな。」
健はキリコの澄んだ瞳を見つめ、短く返答した。
「…そうですか。あいがとぐゎした。」
またしても手掛かりにならず、キリコはがっかりした様子で一礼し、再び歩き出した。
(あん場におったとが健さんやったら、もっと手がかりがつかめたやろうんに…)
肩を落として立ち去っていくキリコの後ろ姿を、健はしばらく見送っていた。
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