【スピンオフ・恋愛編】Ⅱ.懇親イベント
*スピンオフは恋愛ストーリーのみ、アクションはありません。(本編の続きはスピンオフ・恋愛編のあとに順次掲載していく予定です)*
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません
東京から約2,000キロ離れたそこは、四方をエメラルドグリーンの海に囲まれた自然豊かな無人島だった。
愛脳警護が所有する10人乗りクルーザーが桟橋に停泊すると、サングラスをかけたクロエが黒メッシュのタンクトップにサーモンピンクのハーフパンツ、足元には麻のスリッポンの装いでスロープから降りて来た。
桟橋の奥から、手を振りながら駆け寄って来る男性の姿があった。男性が着る黒いTシャツには会社のロゴが大きく印刷されていた。
「IKGさんですね、イベントオーガナイザーの道端です。今年もご参加いただきありがとうございます!」
道端と名乗った男性は丁寧にクロエに頭を下げた。クロエも「お世話になりますー。」とお辞儀をした。
続いてクルーザーからは、白い砂浜の景色に目を輝かせる凛と、凛の車いすを押す昌磨、それから皆の荷物を持った永栖 青空(通称スカイ)がワオー、と感動の声を上げながら下りて来た。
毎年夏になると、大手武器メーカー主催による懇親イベントが彼らの管理する無人島で開催されていた。そしてそこには愛脳警護を始め、プライベートミリタリーカンパニーや、自衛隊員(あくまでプライベートとして自腹で参加する)が招待を受けていた。
イベントの内容とは、無人島で電子機器を一切持たずに4日間自給自足のサバイバルを行いながら、島内に点在しているお宝を見つける、という趣旨のものだった。ちなみにそのお宝はどれも豪華賞品となっていた。
参加者は主催者である武器メーカーが製造している「サバイバルキット」を使用し、使用感やレビューをフィードバックするのが通例となっていた。そのサバイバルキットは、全国の自治体から各家庭に無料で配布される政府公認のアイテムとなっている。
なお同行した役員たちは宝探しには参加せず、別に用意されたラグジュアリーなゲストハウスでもてなしを受けつつ、連日のように食事会を開催していた。
つまりは、親睦という名のもとに、実際は参加企業間の情報交換と武器メーカーのPRを目的としているものだった。また中には優秀な社員に目をつけ、こっそりヘッドハンティングを試みる企業もいた。
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「わたし、50インチテレビ欲しいんですよねー。」
「俺は、温泉旅行。もし見つけたらさ、古辻ちゃん、一緒に行かない?」
「ええー、どうしようかなぁー。アスカ先輩も一緒だったら、いいですけどー。」
名前を呼ばれ、宇良野 アスカは窓の外から船内へ視線を戻した。
「えなに?」アスカが聞き返すと、後輩の古辻アリーは上目遣いにアスカを見つめた。
「アスカ先輩は、お宝、なにが欲しいですかー?」
「あー…」アスカはしばらく考えたのち、「うまい食材。」と答えた。同僚はだめだ、話にならねぇ、と言って笑った。
「間もなく到着します。」
アスカら自衛隊員を送迎していた船の操縦士が声を掛けた。
—
この年の懇親会イベントには全部で5つの団体、そのうちサバイバル宝探しゲームへは20名ほどが参加することになった。
見つけた宝は個人に与えられるため、サバイバルも基本的にはソロで行うルールとなっていた、にもかかわらず、参加者の間では「どの団体が一番多く宝を見つけたか」、にこだわる雰囲気が漂っており、知らず知らずのうちに企業間対決のような様相を呈していた。
サバイバル参加者たちは携帯などの電子機器を本部へ預けた後、砂浜に集合した。そこで道端が説明を始めた。
「この島は南北に5キロ、東西に6キロ、外周は約20キロメートルほどあります。島の中心には森林地帯と溶岩で出来た岩山がありまして、麓には温泉も出ていますので、サバイバルの合間に、ぜひご利用ください。」
「また魚介類を除き、体長20センチ以上の動物は狩猟禁止でお願いします。ノヤギ、シカ、ノネコ、たまにイノシシもいます。それらも殺したりはしないでください。」
この説明を聞き、はい、と手を挙げた者がいた。凛だった。道端はなんでしょう、と尋ねた。
「見た所、野生化したイグアナがいるようなのですが、それは、食してもよろしいでしょうか?」
一瞬でその場がざわついた。やだぁームリ、という声や笑い声がまじって聞こえた。
やがて質問の主が車いすに乗っている女性、しかもサバイバル参加者だということに皆が気付くと、ざわめく声はやがて音量を潜め、ひそひそと凛について何か別のことを話し始めた。
「あーはい、外来種なので、問題ありません。」道端は真面目に答えた。続けて
「お怪我をされたりなど、非常の時はいつでも本部までお越しください。またリタイアをご希望の方も、ご遠慮なくお申し出ください。」と言いながら、それとなく凛を見た。
「それでは、当社のサバイバルキットをお受け取りになられた方から、ゲームスタートとさせていただきます。どうぞお気をつけて、いってらっしゃいませ!」
道端が勢いよく言うと、サバイバルキットの入ったリュックサックを受け取った参加者たちは一斉に島の中心部に向かって走り出した。
砂浜には、凛、クロエ、昌磨、スカイが残っていた。
「さーて、私は本部で社交辞令してるから、どうかくれぐれも凛のことよろしくね。」クロエが言うと、スカイはもちろんです、と笑い、昌磨も頷いた。
「二人とも、宝探しに行ってくれてて大丈夫だよー」凛は明るく言った。
凛がイベントに参加した目的は、宝探しではなく自然観察(と言う名の島遊び)だった。そのため拠点を決めて、あとは動ける範囲で観察を行えれば、凛にとっては十分満足だった。
ちなみに凛がこのイベントへの参加を熱望したため、クロエと昌磨、そしてキャンプ好きのスカイが付き添いとして同行することになった。この懇親イベントは4人にとって初めての参加でもあった。
「よし、凛ちゃんよ、行きますか。」昌磨はそう言って車いすを押し始めた。凛はお願いします!とハイテンションで答えた。
凛の車いすは、車輪がオフロード用に改造されていた。
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