その後 2.先輩
その日、仕事終わり、再び匠と顔を合わせていた。立ち寄ったのは大人の雰囲気漂うバーだ。静かに語り合うのには丁度いい。誘ったのは匠だった。数日後、日本を立つらしい。その前に飲もうとあったのだ。
「で、どうしてあんなマネを?」
すでに事の次第は薫から聞いていた。島まで虎太郎についていって、余計なお節介を焼いたと言う。
「あんなって、ことはないだろ? あいつの恋が成就するように、ちょっと手を貸しただけだって」
「──乱暴なやり方だ。あの後、お前らのキスシーンを見た薫をなだめるのにどれだけ大変だったか…。全部、話したからな?」
「ああ。奴の俺を見る目が厳しかったからな? 許さないって顔にかいてあってさ。かわいいよな? ああいうの。それに虎太郎もやられたのか?」
「薫はもともと人目を惹く子だったからな。人を惹きつける力がある。うちの連中はみんなそうだが。それを、虎太郎が好きになるなというのが、無理だろう」
「あーあ。もっと早く手を打っとけばな…」
「だったら。あんなこと、すべきじゃなかったな。今更だが。いい薬になっただろう?」
「…俺も若かったんだって。今だってそう、年食ってるわけじゃないが…」
「後悔さきに立たず。今後は気をつけることだ」
「ま、あのガキで虎太郎が満足できればいいけどな。上手く行かなきゃ、俺がまた助けてやるさ」
「余計なお世話だ。それに、薫はああ見えてかなりしっかりしている。病んだのだって、妙に生真面目なところがあったからだ。だが、今は虎太郎がいる。うまくフォローしてくれるだろう。俺としては、今後も末永く、薫の面倒を見て欲しいと思っている」
「…会社の為にか?」
「それもあるが。──あの時、ろくに助けられなかったからな。虎太郎にも幸せを感じて欲しいだけだ」
「虎太郎を利用しているくせに、よく言う」
「…そのつもりでいたが──結局、やめた。虎太郎がどれだけ、薫を思っていたか知ったからな。うちの会社としては、当分の間、伏せてもらうことになるが。それが必要なくなる時代も来るかもしれないしな」
「向こうに渡れば、少しは生きるのに楽になるだろうに」
「それも、薫と虎太郎に任せる。…いずれそうなるとしても、今じゃない。それに、今はまだそんな先まで考えていられないだろうしな」
「アイドル業界は大変だな?」
「仕事ばかりじゃないさ。虎太郎との生活に、今は必死だ。必死というか──楽しくて仕方ないってところだな…」
「若いってのは、いいね」
「だな」
互いに顔を見合わせて、苦笑する。カランと、グラスの氷が音を立てた。
ー了ー