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子どもたちの未来に、票を。―若き議員の保育改革記−  作者: 小田原 純


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9/20

第9話 やっぱり泣いた保育園最終日

あの緊迫した議会バトルが、また行われていた。

……ここ、保育園なんだけど。


「あの時の熱量と同じくらいに再現して! そうじゃないと与党の狸おやじ議員は倒せないわよ!」

あかり鬼監督の気迫が、もはやスモークすら出そうなレベルで迫ってくる。

俺は必死すぎて、どう熱量を出すかに苦戦中だ。


「進藤党首役は俺だ! パパが世界一かっこいいけど、あんなにかっこいい人を演じるのは俺だ!」

「進藤党首役は譲れません。相手を直接攻撃せずに核心を突く。与党議員が難しい言葉で煙に巻こうとしても、進藤党首は理路整然として分かりやすい。僕の理想です」


れおくんとなおとくんが、まさかの進藤党首めぐって本気の役争奪戦を繰り広げていた。


「そりゃ進藤党首はかっこいいけどさ、増子大我議員役もかっこいいでしょ?」

そう言うと、二人は顔を見合わせて声を揃えた。


「いや、そこは本人出演で」


あ、つまり俺がやれってことか。良かった、評価が低いわけじゃなかった。


「この子たち、どうしても議会を見たいって応援してくれてたんだよ。『たいが先生がんばれー!』って」

真凛先生が教えてくれた。


「でもあんたの党首の戦い方はいいな。相手の攻撃を受け止めてカウンターにするなんて、昔の私の戦法とそっくりでワクワクした」


戦法って……過去、何してたんだろうこの人。写真見せてなんて言ったら怒られる気しかしないので黙っておく。


そして――罰ゲームから始まった保育園での実習も、とうとう今日が最後の日になった。


園庭には子どもたちの笑い声が響き、空気すらまぶしく感じる。


「せんせー! これ見て!」

「せんせー! おにごっこしようよ!」


体力がついたのか、俺も全力で走り回れるようになった。筋肉痛でほぼゾンビだった頃が懐かしい。


お昼前、遊戯室に園児全員が集まる。

最後の挨拶をするときが来た。

もう目が潤んでいる。……まだ泣くのは早い。


「みなさん、たいが先生は今日で最後になります。まだまだみんなと遊びたかった。みんなの笑顔が、いつも元気をくれました。君たちのような宝物を守るために、明日から国会で戦ってきます」


次は保育士の先生方へ顔を向ける。


「先生方、多忙な中、こんな僕を受け入れてくださり本当にありがとうございました。

保育園は“ただの預ける場所”じゃない。子どもを笑顔にするために、毎日工夫してくれる。育児の心強い仲間なんだと、やっと気づけました」


そして――脳裏に浮かぶのは、ご家族の姿だ。


「ご家族の皆さんも、子どものために毎日一生懸命頑張っている。微力でもいい。僕は、皆さんのためにできることは全部やります!」


礼をして顔を上げた瞬間、

「せんせいとまだあそびたい!」

「せんせい、またきてね!」

泣き顔と笑顔が押し寄せてきて、心が揺れる。


そのとき。


「では子どもたちから、大我先生への贈り物です」

安西園長の一言で、園児全員が一斉に絵を差し出してきた。


「せんせい、ありがとう!」

「たいがせんせいだいすき!」

「またあそぼうね!」


画用紙には、俺の似顔絵、園庭で遊ぶ姿、ニュースごっこのカメラを持つ俺……。

全部、全部、宝物すぎる。


胸の奥が熱くなった瞬間――もう耐えられなかった。


「……ありがどう……。俺……みんなのこと大好きだ……」


膝から崩れ落ち、そのまま泣き崩れた。

真凛先生が涙ぐみながら「お疲れさま」と肩を叩く。


子どもたちと目線を合わせながら、一人ひとりとハイタッチしていく。


――この笑顔を、絶対に守りたい。


その決意は、もはや揺るがない。


子どもたちが帰り、静けさが戻った職員室。

荷物をまとめながら、この数週間を思い返す。


泣いて、笑って、怒って、生きている。

その全部がキラキラしていて、この場所は“命の現場”そのものだった。


最初は「政治家の罰ゲーム」だと笑っていた。

でも気づいてしまった。


子どもは勝手に育つなんて、大嘘だ。

親や保育士、周りの大人たちの努力で初めて生きられている。


――子どもの笑顔がある、それだけで奇跡だ。


だからこそ、今の政治のままでいいわけがない。


「子どもの未来を奪う政治なら、ぶち壊してでも変えてやる」

気づけばそう呟いていた。


ここで誓おう。

俺は政治家としても一人の人間としても、あの子たちの「ありがとう」を絶対に裏切らない。

……絶対にだ。


「おい、税金泥棒!」

懐かしい呼び名が響く。


「なーに湿っぽい顔してんだよ。明日から子どもたちのために戦うんだろ。……頼んだよ、増子大我議員!」


真凛先生が背中をバシッと叩き、気合いを注入してくれた。


「いてて……うっす! 俺、みんなのために戦ってきます!」


もう大丈夫。気分はスーパーサイヤ人だ。


――その時、スマホが震えた。


画面には進藤党首の名前。

胸の奥がざわつき、深呼吸する。


通話の向こうから落ち着いた声が聞こえた。


「大我、大事な話だ。……衆議院解散だ」


その一言は重く、冷たく、しかしはっきりと俺の胸に落ちた。


子どもたちの笑顔が、一度ふっと遠ざかる。

でも――俺は拳を握りしめたまま立ち上がる。


胸の奥に刻まれた「ありがとう」が、背中を押す。


「……わかった。俺、やるしかねぇ!」


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