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第7話 議会への架け橋

「大我先生、相談があるんだ。どう相手に伝えるのが良いか悩んでいて…。」

れおくんが俺に相談に来た…

珍しく神妙な面持ちだな。


「俺でよかったら聞くよ!どうしたの?」

「実は…プリキュアって実在しないみたいなんだ!」

…あー、これは子どもにとっての重要案件というか、避けられぬとこだよな。


あれ?でもプリキュアって女児向けだよな。

「れおくん、プリキュア好きなんだね。あれ、面白いよね。」


先生知ってるんだ!ってびっくり顔をしているがれおくんはそのまま話し続ける。

「それが同じ組のお姫様たちがいるかいないかで言い争いをしていて…俺は彼女たちにはかわいく笑っていてほしいから。」

お父さんの教育の賜物なのかもうこの年で女の子の事を姫呼びとは、れおくん恐ろしい子…


でもその問題、どう解決すればと悩んでいたところ…

「それならTikTokなどのSNSに出ている"プリキュア コスプレ"で調べると近いものは出ますよ。」

なおとくんが珍しくれおくんに助言をした。


しかし、どうして政治一筋!って感じのなおとくんがアニメを…

「そんなのあるんだ!コスプレ…でもこんなの本物じゃない!とか逆に悲しまないかな?」

「大丈夫ですよ!大体のコスプレイヤーというのは作品のリスペクトが高いので、原作を忠実に再現しています。」

「分かった!じゃあ、お姫様たちに伝えてみるよ!なおとありがとうな!」


5歳児の会話だったか、今の?

「なおとくん、そんなのも知ってるなんて物知りだね。」


なおとくんは照れながらも笑みを浮かべる。

「おじいさまが保育園で一緒に遊んでから、人の話を聞くことが大事だって言ってくれたんです。遊びも、勉強も、政治も、ぜんぶそこから始まるって。」

なおとくん、いい意味で子どもらしくなってきたな。市長にとってもいい経験になったんだろう。


子どもたちと親たちが、この短い間に変わっていく姿を幾度も目の当たりにした。

保育園は、子どもだけじゃなく大人の心までも育ててくれる場所なんだ。


俺自身も、ここに来てから前よりは変われたと思う。

もうすぐ議会が控えている。

だからこそ、この経験を絶対に糧にして、園に関わるすべての人のために行動しなければならない。


――でも、そのために俺は何をすべきなんだ?


ふと耳に届いたのは、保護者たちのため息まじりの言葉だった。

「本当はもっと伝えたいことがあるけど……どうせ変わらないから。」

「言っても無駄だし、誰も聞いてくれないでしょ。」


胸の奥がざわついた。

そうだ、声をあげても届かない――それが一番の絶望なんだ。

でも俺なら、議会で直接その声を届けられる。


次の瞬間には、園長先生のもとへ足を運んでいた。


「園長先生。保護者の皆さんから直接、声を集める場を作れませんか?」

思わず熱を帯びた声が出ていた。

「僕は今度の議会で必ず届けます。絶対、無駄にはしませんから。」


園長先生は目を丸くしたまま、しばらく黙っていた。

「でも……皆さん忙しいですし、あまり重たい雰囲気になっても……」


そのためらいはもっともだ。だが、俺は引かなかった。

「だからこそです。どうかお願いします。子どもたちのために、親たちの本音を聞かせてください!」


一瞬の沈黙。

やがて、園長先生は小さくため息をつき、苦笑するようにうなずいた。

「……分かりました。増子先生がそこまで言うなら。」


胸の奥で、何かが熱く燃え上がるのを感じた。

よし、あとは――人を集めるだけだ。


保護者会を開くと決まったものの、ここからが勝負だった。

参加してもらわなければ、声は集まらない。


俺は一人ひとりに直接声をかけて回った。


夜勤明けで疲れた顔をして迎えに来た玲央名さんに、思い切って切り出す。

「あなたの現場の声が必要なんです。夜の仕事と子育てをどう両立しているのか、僕には想像しきれない部分がある。ぜひ聞かせてください!」


一瞬驚いたように目を見開いた玲央名さんは、ふっと笑った。

「……増子先生、本気ですね。分かりました。僕の声が皆様のお役に立てるなら喜んで。」


次に向かったのは、あかりちゃんのお母さん。

今日はマネージャーさんでなくお母さんだ。チャンスかもしれない!

「あかりちゃんの未来のためにも、ぜひ一緒に声をあげてほしいんです!」


あかりちゃんのお母さんは一瞬驚いた顔をした。

女優としての仮面を外したように目を伏せ、やがて小さくうなずいた。

「……私行くわ。あかりの母親は私だもの。」

その言葉に、母としての決意がにじんでいた。


さらに、かつて誤解から対立し、今は和解したりくの両親にも声をかける。

「二人が経験したこと、ぜひ皆に共有してほしいんです。あの時の勇気が、他の人の力になるはずだから…」


夫妻は見つめ合い、少し照れくさそうに笑ってうなずいた。


こうして一人、また一人と参加の意志を見せてくれる。

「どうせ言っても変わらない」

そんな空気は少しずつ、「もしかしたら届くかもしれない」へと変わっていった。


 会議室に集まった保護者たちを前に、俺は深く一礼した。

「本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございます。僕は、この場で出た声を必ず議会に届けたいと思っています。どうか、この保育園のことだけでなく、育児や働き方で困っていること、悩んでいること、何でも教えてください。」


 張りつめた空気が流れる中、最初に口を開いたのは玲央名さんだった。

「……僕は夜、ホストの仕事をしています。幸い、両親が息子を見てくれるので働きに出られるんですが、同じように夜間に働かざるを得ない親御さんも多い。けれど、その生活に合う保育の選択肢は限られている。保育士さんの負担を考えると簡単じゃないとは分かってるんですが……夜間中学みたいに、親がキャリアを諦めなくていい仕組みができないだろうか、と考えてしまいます。」


 次に手を挙げたのは、あかりちゃんの母親だった。

「私はシングルで、どうしても無理な時はマネージャーや実家の母に頼っています。でも……昔と今とでは子育ても働き方も違うから、母に気軽に全部を相談するのは難しい。保育士の先生方に直接頼りすぎるのも申し訳なくて。だからこそ、保育園とは別に、気軽に相談できる場があればとずっと思っていました。」


 なおとくんの母親も続いた。

「……私の父も、この園で増子先生にお世話になりました。父は子育てにあまり関わらなかった世代の人間です。今も、その考え方が根強い家庭は多いと思います。家の中で母親だけが抱え込む状況は、まだまだなくなっていない。社会全体で意識を変えていけたらと思います。」


 りくくんの両親は顔を見合わせてから、母親が口を開いた。

「うちは夫が協力的なので助かっています。でも……実際には、子どもの熱で早退すると、例え職場の人間関係や雰囲気が良くてもその穴を埋めるプレッシャーがものすごくて。女性の中にはキャリアを諦めざるを得ない人も少なくない。育児と仕事を両立できる仕組みがもっとあればと願っています。」


 その言葉に、静かにうなずいたのは、たつきくんの母親だった。

「私はシングルで、同じ保育士として働いています。現場側の立場から言うと……正直、先生方の負担は大きいです。書類や雑務が増えて、本来子どもに向き合える時間が削られることもある。保育や教育に集中できる職場づくりをしてもらえたらと心から思います。」


 次々に出る言葉は、どれも切実で、現実を生き抜く人の声だった。

俺はペンを握る手に自然と力がこもっているのを感じた。

――SNSでアンチとしてぶつけられた罵声の裏には、こうした“本当の生活”があったんだ。


「……皆さん、率直なご意見を本当にありがとうございます。」

俺は会場を見渡し、一人ひとりと目を合わせるようにして言った。

「この声を、必ず政治に届けます。全身全霊をかけて、子どもたちと、ここにいる全ての方のために行動します!」


 その言葉に、保護者たちの表情は少し和らいだ。

開催して良かった――心の底からそう思えた瞬間だった。


 大我の言葉に拍手が広がり、会は締めくくられるかと思ったとき――園長がそっと手を挙げた。

「私からも一言よろしいでしょうか」


 会場が静まり返る。園長は一人ひとりの保護者を見渡しながら、穏やかに言葉を紡いだ。

「私は今回、この会を承諾して本当に良かったと感じています。親御さんたちの顔を見て、率直な意見を伺える場は、子どもたちの居場所を良くするために欠かせないものです。先生たちも忙しいからと遠慮する必要はありません。どうかためらわずに相談してください。子どもたちの笑顔を守る仲間として、改めてよろしくお願いいたします。」


 会場の空気が温かくなる。保護者たちの表情に「自分は一人じゃないんだ」という安心感が広がっていくのが見えた。


 続けて、真凛先生が深く頭を下げた。

「人手不足で至らない部分があり、ご迷惑をおかけしてしまっていること、本当に申し訳ありません。休職している先生は、子どもたちのために頑張りすぎて、休養が必要になりました。これが現状です。私も含めて保育士はみんな、子どもたちが大好きで真剣に向き合っています。もちろん育児の相談は、先ほど園長が言ったように遠慮なく相談してください。ただ――私たちはサイボーグではなく人間です。ですので、保護者の方から人格や努力を否定されるような言い方をされると、とても傷つきます。子どもたちに全力で向き合うためにも、互いに敬意をもって話し合える場であってほしいのです。そのことを少しでもご理解いただければ嬉しいです。」


 会場が静まり返る。保護者たちが真剛な表情でうなずき、空気がピンと張りつめる中、あかりの母がふっと柔らかい笑みを浮かべ、真凛先生を見つめた。

「……はい、分かりました。私も子どもたちと先生方のために、敬意をもって話します。」と、少し肩の力が抜けた声で答える。


 その表情に、会場全体が少しほっとした空気に包まれた。保護者と保育士の信頼の橋が、ゆっくりと架けられていく瞬間だった。


 子どもたちと親たちの姿を、この短い間で幾度も目の当たりにした。保育園は、子どもの成長が育まれる大切な場だ。

 俺も、前よりは少し変われたと思う。もうすぐ議会が控えている。


 ――この経験を、絶対に糧にしなければ。園に関わる全ての人のために、行動しなければ!

 今ここで聞いた声は、議会に届けなければ意味がない。子どもたちの笑顔も、保護者や先生たちの本音も、全部背負って、政治の場で戦うんだ。


 胸に決意がしっかりと根付き、自然と拳が握りしめられる。俺は、保育園で学んだ全てを、次の一歩に変えていく覚悟だった。

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