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子どもたちの未来に、票を。―若き議員の保育改革記−  作者: 小田原 純


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第4話 夜のカウンセラー、親の優しさを語る

―親の優しさは、自己犠牲ではなく“自分を満たす勇気”だった。


和解の余韻が残る夕暮れの園庭は、どこか柔らかい色に染まっていた。

遠くから聞こえる子どもたちの笑い声が、薄い風に乗って揺れる。


「話がしたい」と言われ、俺は玲央名さんと木製ベンチに並んで腰を下ろした。

目の前では、れおくんが砂場で熱心に家を作っている。


「不謹慎ですが、れおが自分の非を認めて謝れたのを見て、成長したなって噛みしめてしまいました」


さっきまでピリピリしていたはずなのに、玲央名さんは穏やかに笑っていた。


「……亡くなった妻も、見たら喜んだでしょうね」


彼の目に、一瞬だけ影が落ちる。

どう返せばいいか分からず、慎重に言葉を選ぶ。


「れおくんもりくくんも、自分から謝ってましたよね。立派です。本当に誤解が解けてよかった……ママさんも喜んでると思います」


玲央名さんは驚いたように俺を見たが、すぐにふっと笑った。


「大我先生、ありがとうございます。喧嘩も誤解も、根っこには“想い”があるんですよね。ぶつかるのは、それだけ大切だから」


その声には、積み重ねた経験の深さがあった。


「……想いがすれ違って、争いになる」


「ええ。でも昔の僕は“伝わるはず”と勝手に思ってました。それはただの期待だったのに」


夕空を見上げる横顔に、亡き妻への想いがにじむ。


「先生。実は僕、妻が先立って、れおが二歳までは心理カウンセラーだったんですよ」


「カウンセラーだったんですか!?」


意外すぎた。……まあ、俺だって配信者→議員→保育士という迷走ルートなんだが。


「でも、悩んでる人ほど“ちゃんとしなきゃ”って自分を繕うんです。弱さを見せられない。それが壁でした」


確かに。“大丈夫です”の裏に、どれだけの痛みが隠れてるか。


「妻も明るくて太陽みたいな人でした。『大丈夫』って言ってた。でも、無理してたのかもしれません」


「……そんなこと、ないと思います」


本当は「大変だったんじゃないですか」と言いたかった。

でも、その言葉はどちらも傷つける気がして、飲み込んだ。


「鬱や適応障害って、頑張る人ほどなりやすいんです。感情に蓋をしてしまうから」


その言葉を聞いた俺の脳裏には幼い頃の俺と母の姿が浮かび上がった。母は当時誰かに弱音とか話はできたのだろうか…


「そんな時、昔の相談者が訪ねてきて。“優しく寄り添うホストクラブを作りたい”って誘ってくれたんです」


“夜のカウンセラー”か。すごく納得できる。


「視点を変えたら、れおが寝てる間に働ける。起きてる時間を全部れおのために使える。ホストになって、僕は人生でいちばん息がしやすくなりました」


玲央名さんは、誇らしげに微笑む。


「あるお客様に言われたんです。“玲央名さんには、だめなところも話せる”って。それが嬉しくて」


「偏見を持っていて……すみません」


「いえ、普通だと思いますよ」


そして、柔らかな声で続けた。


「僕、思うんです。まず自分のグラスを満たさなきゃ、人に優しくできない。シャンパンタワーってあるでしょう? 上のグラスが満たされなきゃ、下にこぼれない」


――例えにシャンパンを持ち出すあたり、やっぱりホストだ。


「“ホストジョーク”だと思いましたね? 心理学でも“シャンパンタワーの法則”って言うんですよ」


……読まれてるな。心まで。


「親も完璧じゃない。だけど世間が“親だからしっかりしろ”と言うから、自己犠牲で頑張りすぎてしまう。でも、自分を大切にすることが、子どもに優しくする一歩になる」


そして、静かに願うように言った。


「全国のお父さんお母さん、本当によく頑張ってます。いつか、そんな人が一息つけて、また立ち上がれる場所を作りたいんです」


胸の奥がじんと温かくなる。


「政治の力で……子どもたちの未来はよくなると思いますか?」


少しの沈黙の後、彼はまっすぐに答えた。


「思いますよ。あなたが信じて進むなら。その時は僕にも手伝わせてください」


目の奥がじんと熱くなる。

……さすが、夜のカウンセラーだ。


「……ありがとうございます。力を貸してください」


「もちろん。“息抜き場”を作るときは、ぜひアドバイザーとして呼んでくださいね」


夕焼けが肩を照らし、胸の奥に小さな希望が芽を出す。


その種を、育てていきたい。


「パパー見てー! 砂でこれ作った!」


小さな手の中には、砂で作った家。


「俺と真凛先生が結婚したら建てる一軒家! パパと二世帯住宅で住めるように広い家だからな!」


れおくん、安定の求婚スタイル。


「……れお。パパも一緒に住みたいって言ってくれる優しい子に育ってくれて、ありがとう。大好きだよ」


玲央名さんは涙をそっとぬぐった。


保育園を後にして手をつなぐ親子の背中は、夕日の光に包まれて静かに輝いていた。

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