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子どもたちの未来に、票を。―若き議員の保育改革記−  作者: 小田原 純


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18/20

イクメン党首、バズり中。(賛否込み)

今回は新藤党首のお話です。

1話から登場。大我を政治の世界に導いたきっかけの人です。


「前例がないからできない」だと?


そんなセリフを胸を張って言われると、

どうしても口が滑る。


「じゃあいつ前例を作るんだ?

永遠に“できない”って言っとくつもりか?」


若手議員は書類を落とし、廊下に静寂が落ちた。

ベテランたちは、わざとらしい咳払いで空気を誤魔化す。


(この国の大人はどうなってる。

考えて、新しい答えを作るのが大人の役目だろ。

『答えがないから宿題できません』って

子どもと同じじゃないか)


……落ち着け、俺。

深呼吸。


控室に戻り、ネクタイを緩めながら小声で毒を吐く。


「いっそのこと、

議員は成果出したら報酬にしたらどうだ?

多少はやる気出すだろ」


自分で言っておきながら、思わず吹き出した。

政治家が政治家に毒を吐く。

趣味としては悪くないが、寿命は縮む。


と、スマホが震えた。

妻からだ。


『陣痛きた。

あなたの子がもうすぐ会いにくる』


——真っ白になった。


国会という巨大な牢獄の中で、

突然、出口が現れた気がした。


(この子の未来を守るために、俺は政治家になった。

なら今こそ、前例をぶち破る時だ)


ネクタイを締め直し、鏡の中の自分に宣言する。


「育休、取る。

仕事も続ける。

やれるかどうかじゃない。

やるんだ」


秒針が進む音が、

俺の背中を押した。


スマホが震えたあの日から、数日。


今、保育器の中で眠る小さな命を前にして思う。

これまでは“子どもの未来を”と漠然と言ってきた。

だが今は違う。


守る対象は、この腕の中にいる。


(前例?知るか。

この子のために、前例ごと塗り替える)


まずは、自分でできるところから変えた。

委員会と法案関係は出席するが、

それ以外はリモートへ移行。


自宅で子どもを見ながら仕事を続ける形だ。


——そこに、第一の壁。


「新藤さん、夜の会合は参加するだろ?」


ベテラン議員の誘いという名の圧。


「ありがたいですが、妻と子どもが待ってまして」


丁寧に断っても、食い下がる。


「新藤くん、会合も仕事だよ。

子どものことなんて奥さんに任せればいい」


まだ昭和か。


言い返そうとした、その時——


「先生、今は令和ですよ。

我々も考えをアップデートしないといけませんな」


低く響く声。

振り返ると、桜丘市の榊原市長。

隣には彼の孫——なおとくん。


「私は孫と過ごす時間を最優先している。

政治の意味を思い出せるからだよ」


なおとの真っ直ぐな瞳に、ベテラン議員は言葉を失った。


「新藤くん、お昼にしよう。

なおとがどうしても会いたいと言っていてね」


「は、初めまして!

ずっと……会いたかったです!」


小さく震えながら頭を下げるなおと。


「こちらこそ。

未来の日本を支える若者に会えて光栄だ」


ベテラン議員はいそいそと退散。

榊原市長がいたずらっぽく笑う。


「なんならリモートで水谷市長も呼ぼうか?

なおとに、政治の“今”を見せてやりたい」


俺は胸が熱くなった。


(この国は…やっぱり変われる)


有意義な昼食を終え、自宅へ戻る。

生まれたばかりの娘が起きていた。


「お帰り。最近ね、にこってするのよ」


「なに!?その瞬間は必ず見たい!」


贅沢なのだろう。

でも、すべての瞬間に立ち会いたい。


その願いを察したように、

娘はーーにこっ。


「あら、笑った!」


頬が緩む。

この子が俺に、そう言ってくれた気がした。


「父だって、子の成長が嬉しい。

俺は、そういう父親なんだ」


数日後。

温かい家庭とは反対方向へ、世間の空気は想像以上に冷たかった。


『新藤党首、イクメンを免罪符に職務怠慢か!?』


スマホ画面の文字が視界に刺さる。

委員会には出ている。

法案の打ち合わせも続けている。

だが切り取られたのは――


「現地調査への“怠慢”」


任意の視察や、会合という名の深夜飲み。

そこだけを“サボり”に書き換えられていた。


ニュースには、例のベテラン議員。


『税金で働いている立場ですよ?

いかがなものかと』


(あんたの“仕事”の定義、昭和で止まってる)


続いて街の声。


『子どもの顔すら見れないのに、議員だけ育休なんてズルい』


胸がちり、と痛む。

責めたいのではなく、苦しんでいる声だ。


「国民の悲痛な声…か。

…堪えるものがあるな」


(俺だって――この時間を得るまで

ずっと会えなかった)


スマホが鳴った。

画面には『増子 大我』。


「新藤さん、大丈夫ですか?ニュース見て…!」


かつての仲間の声が温かい。


「政治家でパパは、難しいようだ」


声が弱った自覚が、余計に苦い。

そのとき――


「やめないでください!

あなたは唯一、本気で子育て世代を守れる政治家です!」


真っ直ぐな叫びが鼓膜を撃った。


「だが、国民が否定した」


「違います!

“変わる痛み”に悲鳴を上げてるだけです。

あなたを必要とする家族は何万人もいます!」


涙が落ちる。

腕のなか、娘の寝息がやさしく響く。


「ありがとう、大我」


娘を抱き、囁く。


「パパは諦めない。

君が生きやすい日本にする。絶対にだ」


「そうだ、新藤さん。案があります。後でメールします!」


自信満々な声が嬉しい。


──翌週。


「皆様こんにちは!増子大我です!今日は豪華ですよ!

桜丘市の“じいじ市長”榊原市長!

子育て熱血・水谷市長!

そしてパパ議員!新藤党首です!」


(じいじ市長…?)

紹介は雑だが、視聴者は爆増した。

“発信には発信”――大我の言う通りだ。


榊原市長は言う。


「孫たちと過ごして、私も気づかされたことがあります。

子どもたちが健やかに育つためには、“家庭だけ”でも、“学校だけ”でも足りない。

地域全体で支える環境が必要だと。

そこで桜丘市では、三世代が自然につながれるイベントを積極的に展開します。

シニア世代の経験と技を子どもたちへ、子どもたちの活力をシニアの元気へ。

それが交流と支え合いを生み、子育ての孤立も防ぐ。

子どもを大切にすることは、市の未来を大切にすることです。

その未来づくりを、行政も“当事者”として担っていきます。」


水谷市長も続く。


「うちは18歳までの医療費無償化を進めています。

無料施設の開放もね。

するとどうなったと思います?」


大我が身を乗り出す。


「……出生率、上がったんですよね?」


「そうですわ!

実際、働き盛りの世代がどんどん移り住んできています。

子どもを大切にするということは、

その地域の未来を丸ごと守ることですからな!」


榊原市長もうんうんとうなずく。


「子育てを甘えと言わせない社会にしなきゃいけない。

そのためには自治体も、国も、同じ方向を見ないと」


未来を語る声が力強い。

俺も覚悟を決めて口を開く。


「育休を取れる議会にします。

リモート出席も実現させる。

政治は“家族の幸せ”を守るためにある」


「素晴らしい!」

二人の市長から即答の賛同。


SNSにも声が溢れた。


「新藤党首ありがとう!」

「子育ての味方が国会にいた!」


少しずつ。

だが確実に風が変わる。


(日本は――変われる)


画面の向こうの大我が、誇らしげに頷いた。

こんな頼もしい味方がいるなら――


私は政治家として子どもたちの未来を守る。

必ず。

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