元ヤン女子、児童養護施設で保育士を目指す!?
今回のアナザーストーリーは真凜先生と安西園長です。
過去編となりボリュームが大きくなったので前編と後編に分けます。
子どもたちがお昼寝をしている、午後の静けさに包まれた保育園。
「今日は落ち着いてるわね」と資料整理をしていたとき、
一枚の写真が、はらりと床に落ちた。
「こんな懐かしい写真がまさか出てくるとは思いませんでした」
懐かしい写真だ。中学生の時の私と安西園長と…同じ施設で育った妹分2人。
「本当!そういえば今日が保育士採用試験の結果発表の日かしらね」
「あの2人なら大丈夫ですよ。それに私も安西園長に会わなければ保育士になっていませんでした…」
安西園長と出会ったのは私が中学生の時。
家には車があったからおそらく今日も男がいるんだろう。
「ったく。自分の家なのに帰るのに気を遣うなんて…」
どこで時間をつぶそうかふらついていたら声をかけられた。
「おい、高梨真凛!今日こそお前を倒してこの地域の一番になるぞ!」
めんどくさい奴らに絡まれた。別に私は地域の一番とか興味ないんだけどちょうど暇つぶしにはなりそう…あっという間に勝ってしまった。
しかし、3人のうちの一人がふらっと立ち上がった。
「なんだ、まだやるか?」ともう一度構えなおしたところで警察に見つかり補導された。
「こんな時間まで外にいたら親御さんが心配するでしょ?親御さんに電話してみよう」
「……来ないよ。どうせ男と一緒だよ」
警察官は少し戸惑ったように眉をひそめ、それでも電話をかけてくれた。
しばらくして受話器の向こうから、事務的な声が返ってきた。
「仕事でどうしても抜けられなくて、申し訳ございません」
その後受話器を受け取ると
「あんた、なんで私に迷惑ばっかかけるの!? 元夫は養育費払わなくなったし……もう、あんたなんて知らない!」
電話越しの母の声が途切れたあと、胸の奥に空洞ができた。
“もう知らない”って言葉が、“産まなきゃよかった”に聞こえた。
受話器を置いた後にふと涙がこぼれ落ちてきた。
「親に産むんじゃなかったて言われちゃった。私行くとこないんだけど…どうしたらいい?」
署の入り口に、ひらひらとスカーフを巻いた女性が現れた。
「あら、うちにいらっしゃい」
あのときの光景を、今でも覚えている。
蛍光灯の白い光の中で、彼女だけが少し“あたたかい色”をしていた。
「私は児童指導員の安西です。――安心してね。
生まれなければ良かった子どもなんて、この世に一人もいないのよ」
ふとかけられたその言葉に温もりを感じた。毛布を掛けてもらったような気分だ。
大人なんて自分の意に添わなければ子どもは邪魔な存在だと思っている。
でも――この人の言葉なら、少しだけ信じてみようと思えた。
私はその手を、そっと取った。
少し歩いたところで児童養護施設に到着した。
きょろきょろして見回すと、小さめの学校のようなさっぱりした建物だった。
「ここでは家のように過ごしてもらうのよ。朝ご飯を食べたら学校へ行き、帰ってきたら宿題や好きな遊びをして、晩ご飯を食べて寝る。夜の外出は危ないから、そこは我慢ね」
「…家に帰ってきて…良いの?」「もちろんよ!」
安西先生は言葉をすっと返したが、その目にはどこか心配が宿っていた。
(家に誰かと鉢合わせすることがあったのね。子どもにとって家が安心できない場所だなんて……)
皆でご飯を食べ、案内された部屋で少し休む。
ああ、みんなと囲んで暖かい食事をしたのは何年ぶりだろう。疲れがじんわりと染みてくる。
風呂の時間まで床に伏せていると、強めのノックが聞こえた。ドアをそっと開けると、茶髪のセミロング、黒いマスクの女の子が二人、部屋の前に立っている。
「あんた、新入りだろ? あたしが雅で、隣が麗。ここは私たちが仕切ってるから、覚えとけよ」
「私は真凜。ボスとか興味ないし、好きにやればいい。それより、ボスってことは小さい子の面倒も見るんだろ? 泣いてる子をほっとくなよ」
麗がカッとなって言い返す。
「てめえ、生意気言うんじゃねえよ!」
「うるせえよ。私にかまうな!」
雅と麗は一瞬、言葉につまった。目つきが変わり、すごすごと自室へ戻っていく。
「あいつ、ただ者じゃねえな……」と、小さく漏らす声が聞こえた。
次の日の学校からの帰り道で、雅と麗が数名の男子に囲まれているのを見つけた。
知らないふりもできたけど、足が勝手に動いていた。
「私の妹たちになんか用か? 話なら私が聞いてやる」
その言葉に、男のひとりが眉をひそめて近づいてきた。
チラッと雅と麗の顔を見た瞬間、殴られた跡が見えて――胸の奥で、何かが弾けた。
「……あんたら、私の家族を殴ったんだな」
怒りで、視界がやけに澄んで見える。
まるで時間が止まったようだった。
男が拳を振り上げる。
真凜はその動きを見切り、片腕で受け止めた。
空気が弾けるような音がした。
「……正当防衛、成立だな」
その言葉と同時に、真凜の拳が閃いた。
鋭く、迷いのない一撃。
男はたまらず後ろに弾かれ、尻もちをついた。
他の仲間たちは、一瞬の静寂に凍りついたように立ちすくみ、次の瞬間には蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「私らを家族って……ありがとう!」
「姐さん! 一生ついていきやす!!」
雅も麗も目を輝かせて真凜を見上げていた。
「……あんたら、その“家族”って言葉、任侠映画で覚えたの?」
真凜は苦笑しながら頭をかいた。
もちろん帰ると、みんな顔が腫れてたりして、かなり心配されて叱られた。
でも――あの時、初めて思った。
守りたいと思える誰かがいるのも、悪くない。
続く




