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子どもたちの未来に、票を。―若き議員の保育改革記−  作者: 小田原 純


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10/20

第10話 涙と笑顔で届け!たいが先生の声

与党の重鎮が放った「子育て世代は自己責任だろう」という一言は、あっという間にSNSを駆け巡った。


「自己責任?じゃあ保育園も給付金もなしにしろってこと?」

「時代錯誤すぎる。現場を見たことないんじゃないの?」


怒りと嘲笑のコメントが次々と書き込まれ、トレンドは一晩中その話題で埋め尽くされた。

翌朝にはワイドショーが取り上げ、街頭インタビューで「こんな人に政治を任せられない」と語る若い親の姿が繰り返し映し出された。


与党は火消しに躍起になったが、「少子化対策はやっている」「誤解を招いた発言だ」と釈明すればするほど逆効果。

党内でも保守派と改革派が対立し、ついに首相が緊急会見を開いた。


「国民に信を問うべき時と判断しました。解散総選挙を行います」


テレビ中継でその言葉が流れた瞬間、議場も街もざわめきに包まれる。


その夜、俺のスマホが震えた。画面に浮かんだ名前を見て思わず息をのむ――新藤党首。


「……はい、増子です。」


通話ボタンを押すと、落ち着いた声が響いた。


「君の発言が議会を動かした」


短く、しかし確かな重みをもった言葉だった。


「今度は選挙だ。子育て世代の声を、国全体に訴えていこう。君の言葉を待っている人がいる。」


胸の奥が熱くなる。

あの園児たちの顔が浮かんだ。

泣きながらも笑って「ありがとう」と言ってくれた小さな手。

彼らの声を、今度はもっと大きな場所へ届けなければならない。


孤独な議場の戦いは終わった。

次は――国全体を相手に戦う番だ。


街頭演説が始まると、かつて保育園で出会った園児たちや子育て世代の保護者たちが駆けつけていた。

「たいが先生、がんばれー!」

小さな声援に、胸の奥が熱くなる。大我はマイクを握り直す。


「今、子育て世代は孤独で、不安で、疲れ切っています。私は、その声を議会に届けたいんです!」


その直後、与党候補が壇上に立ち、胸を張って言った。

「経験と実績は我々にあります! 安定した政権運営こそ、未来を守るのです!」


「経験と実績」の連呼に、保護者の眉間にしわが寄る。

「また昔みたいに、自分たちの声を無視されるのかしら……」と、母親の一人が小さくつぶやく。

園児たちはその様子を見て、心配そうに大我の方を見上げる。


その時、群衆の中から小学生が無邪気に問いかけた。

「ねえ、どうしてパパとママは、今も大変そうなの?」


会場が一瞬、静まり返る。前列の園児たちは小さな拳を振り上げ、声を合わせる。

「そうだよ! よく言った!」

「あたしもそう思う!」


ざわめきが広がり、笑いと涙が入り混じった空気が会場を包む。

大我はマイクを握る手に力を込めた。

「子どもの疑問に答えられない政治は、間違っています!」

「私は、子どもたちの未来を守るため、この選挙を戦います!」


割れるような拍手が会場を満たす中、スマホやSNSで瞬く間に映像が拡散された。

《子どもの一言が政治を動かすかもしれない》


だが、炎上はその後すぐにやってきた。

過去の大我の発言が切り抜かれ、SNSに投稿される。


「少子化の原因は陰キャの増加。俺みたいな(笑)」

「政治家で金あるんで一夫多妻で貢献したいっす! 非モテだけど(泣)」

「保育士資格?通信で取りました!代打いつでもOKッス!」


さらに、ネクスト日本党の「裏金疑惑」をでっち上げた記事が出回り、支持率は急落。

保護者たちもスマホを見つめ、眉をひそめる。

「たいが先生、大丈夫かしら……」

「でも、あの子たちのためなら……」


大我はスマホの画面を見つめ、胸の奥が焦燥で締め付けられる。

「俺のせいで、党まで巻き込んでしまった……」


そんな時、選挙特番の出演依頼が届く。

スタジオのライトに照らされ、カメラの前で大我は深呼吸する。

そして、静かに、しかし力強く語り出した。


「確かに昔の自分は痛々しかった。でも、失敗したからこそ保育園で現場を経験し、子どもたちの真実を知ることができました。

今は、子どもたちのために全力で頑張りたい。

そして、人は変われるということも、私の姿を見て知ってほしいと思います」


その言葉はリアルタイムでSNSに投稿され、瞬く間に拡散。

園児たちは画面越しに自分たちの応援が届いたことに目を輝かせ、保護者たちは胸を撫で下ろす。

《政治家は変われる。大我議員の成長に共感》

《失敗を乗り越えた姿に、子育て世代から励ましの声》


翌日、全国紙の政治記者も記事にした。

《街頭演説で子どもが投げかけた素朴な疑問に会場が揺れ、政治家は変わることができると示された》


街頭やスマホ画面で見守る人々の表情が明るくなり、支持率はじわじわと回復。

園児たちも、母親たちも、笑顔で手を振る。

大我は、自分の言葉以上に「子どもの声」が社会を動かす力になることを胸に刻み、再び拳を握りしめた。


選挙結果は、子育て世代からの期待票は確かに伸びたものの、全国規模では与党の壁は厚く、惜しくも数千票差での敗北だった。


静かな事務所で膝を抱える大我。

「声を届けきれなかった……」


だがスマホに届くメッセージやビデオレターが、少しずつ胸を温める。


《たいが先生、ありがとう!》

《また一緒に頑張ろう!》

《先生のおかげでパパとママが元気になったよ!》


画面の中で園児たちは笑顔で手を振りながら語った。

「先生のおかげでパパとママが元気になったよ」

「次は一緒に遊ぼうね!」


その時、スマホが鳴る。画面には新藤党首の名前。

「大我、よくやった。結果はどうであれ、君が子どもたちや保護者の声を届けたことは事実だ。党としての力不足で、君が必要以上に責任を感じることはない。君の体験とそこからの成長は、僕や党にも大きな影響を与えた。本当にありがとう。」


胸にぐっと熱いものがこみ上げる。

「……ありがとうございます。俺、まだできることがある…」


その直後、母からも通知が届いた。

『選挙お疲れさま』


震える指で電話をかける。

「母さん……政治家としては負けた。でも、人として子どもたちを守りたいんだ。これから始めたいことがある……一緒にやってくれない?」


静かな沈黙の後、母の声が笑った。

「もちろんよ。あなたの活動を見てさらに育児に関わりたいと思ったところよ。」


大我は深く息を吸い込む。

政治家としてではなく、育児支援活動家として、子どもたちと保護者、社会をつなぐ道――。

「よし、行こう。俺にできることを、全力で」


膝の上のスマホ画面には、園児たちの笑顔と励ましのメッセージが輝いている。

拳を握りしめ、大我は新たな一歩を踏み出した。

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