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2.幼なじみとの約束


 家に戻ると、スーツ姿の父さんがテーブルでテレビを眺めていた。


「ん?こまりちゃんは?」


「すぐ来るよ」


 そう答え、父さんの向かいに座る。程なくして玄関の扉がガチャリと開き「おはようございます」と、こまりが入ってくる。


 こまりと母さんを交え、四人で朝食を食べ始めた。


 僕の家の毎朝の光景。


 物心がついた事から、僕とこまりは多くの時間を共有したきた。


 こまりの家は片親で、お母さんは仕事で家を留守にしている事が多かったため、同じ歳の子供がいるウチが面倒をみるようになったようだ。


 特に朝食は、学校の時間との折り合いもあり、僕の家で済ませる事が主になっている。


 普通の家なら迷惑を考えたりするだろうけど、こまりのお母さんと僕の母さんは仲良く、その辺りは気兼ねなくという事で話がついているようだ。 


 僕の方もこまりのお母さんに遊びへ連れていってもらった事が何度もあるし、あちらの家で過ごした時間も多い。


 運動会や入学式の写真は大抵、千藤家と一緒に写っている。家族に近しい間柄と言っても過言ではないだろう。


「行ってきます」


 朝食を食べ終え、こまりと家を出た。


「それじゃあ、また」


「うん。それじゃあ」


 ずっと同じ道を歩き続けてきた僕達。


 それがまさか高校にまで続いているとは思っていなかったけど、別々の道を歩いていく事も、想像はしていなかった。


「あっ、ちょっと待って」


 離れ際、僕はふと気になってこまりを呼び止める。


「ほら。リボン、くしゃくしゃ」


 彼女の胸元へ手を伸ばし、リボンの形を整えると、こまりは「や、約束っ!」と、大きく後ろへ飛び退いた。


「あっ、ごめん。癖で」


 高校への進学が決まった時、僕、君崎きみさきたすくと、千藤こまりは、ある約束を交わした。


「高校に入ったら、お互い、幼なじみのような行動はつつしむようにしましょ」


「幼なじみっぽいって?」


「うまくは言えないのだけれど、普通の高校生の男女らしくというか。ほら、私達って歳が同じ分、ひょっとしたら普通の兄弟よりも長い時間を一緒に過ごしてきているじゃない?」


「あー、うん。まぁ」


「それが嫌だってわけではないんだけど、その事でかわれたり、セットみたいに扱われたりしてきたわけで。だから一度ね、そういうのがない生活を送ってみたくなったというか……。私も、たー君に頼ってばかりはいられないし、幼なじみのままじゃ、私達の関係だって……」


「関係?」


「ううん。とにかく、どうかしら?」


「いいよ。こまりがそうしたいなら」


「そう。じゃあ、約束ね」


「うん。約束」


 以来。朝、家を出たところで、僕とこまりの幼なじみは解消される。


 今まで通りに彼女を起こしにいき、一緒に朝食を食べるのは、両親を心配させないための例外という事らしい。


 どちらにせよ寝起きの悪いこまりは1人で起きられないから、僕は同じ行動を辿る事になるのだろうけど。


 基本的に僕達の約束。幼なじみっぽい行動か否かの判断は、こまりが基準となっているので、僕として判然としないところが多い。


 一緒に家を出るけど、一緒に学校に通うのは駄目。だけど同じ学校の生徒なのだから、同じ道を進み、同じ電車に乗るのは問題はない、という取り決めも、こまりの判断によるものだ。


 仕方ないから、僕は彼女と適度な距離を置き、その後ろを歩いていく事にしている。


 駅にたどり着き、前を行くこまりが、改札にICカードをかざした。


 しかしうまく反応しなかったのか、改札が開かない。


 こまりが少し焦った様子で再びカードをかざすも、改札の扉は動かないまま。


 どうしたのだろう。


 彼女のカードは定期券であるため、残高不足という事もないはずなのに。


 声をかけようと1歩踏み出したところで、留まる。


 ここで声をかけてしまっては、約束を破る事になるかもしれないし、彼女の努力を無駄にしてしまうかもしれない。


 高校進学が決まってから入学式までの間、こまりは何度も練習をして、1人で電車に乗り、高校まで通う事ができるようになった。


 できれば、自分の力で解決させてあげたいところだけど。


 後ろに人が並んでいき、どんどん焦っていくこまりを見て、歯がゆさが募る。


 何気なくこまりと一緒に買った自分のICカードに目をやると、そういう事かと気がつく。


 僕達が持っているのは3ヶ月分の定期券。


 入学して約1ヶ月。こまりと僕は電車に乗る練習をするため、それより以前からこの定期券を使っていた。


 単純に、その期限が切れたというだけの話だ。


 しかし、これをどうやってこまりに伝えようか。


 見たところ駅に僕らと同じ制服を着ている人間はいない。それでもここで直接に話しかけるのは、約束を破る事になってしまうかもしれない。


 彼女に声をかける事なく、定期券が切れている事を気づかせるには。


 考えた末、僕はこまりの隣の改札へ歩を進めた。


 改札へカードをかざすと、こまりと同じく扉が開かない。


「ああ。期限が切れているのか」


 口にしてチラリと橫へ目をやると、こまりはハッとした表情。


「販売機のところでチャージしないとなぁ」


 わざとらしく口にして改札を離れると、彼女がこそこそと後ろを着いてくる。


 あとは後ろにいる彼女が真似できるように、ゆっくりと販売機を操作するだけだ。




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