表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/32

1.僕の幼なじみ


 舞台上にあがった彼女に、体育館の中がざわめいたのを感じた。


「桜の花が咲き、新たな命が芽吹く、このような素晴らしい日に、清栄せいえい高校の一員となれた事を心から嬉しく思います」


 清らかな声。凛とした姿で新入生代表の挨拶をする黒い髪の女子生徒。


 多くの人の目を惹く端正な顔立ちは、美しさと愛らしさを兼ね備え、流れる黒髪は絹糸のように艶やか。


 服の上からでも分かるメリハリのある体は、男女ともに憧れを抱くものだろう。 


 入学試験1位。頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗を地でいく僕の幼なじみ、千藤せんどうこまりの代表挨拶は、同窓の友たちに、強い印象を与えた事に違いなかった。


*


「これでよしと」


 母と共に朝食の準備を終えると、僕は隣の家に向かう。


 昔から続く、僕の日課。


 玄関を開き、階段を上った。


『こまり』と書かれたプレートが下がる扉をノックし、5秒数えてから扉を開く。


「こまり?」


 彼女に1度呼び掛けてから、窓まで進んでカーテンを開くと、射し込んだ朝の日差しが部屋を照らした。


 床一面に転がるごみ袋。ベッドの足元にはくしゃくしゃの制服。


「もうこんなに散らかして……」


 僕は息を吐き、彼女を包み込む布団をそっと捲った。


 穏やかに眠る彼女の顔が露になる。


 輝く白い肌。長い睫毛。艶やかな黒髪がサラサラと頬を滑り落ちていく。


「ん、んん……」


 こよりは眩しそうに身をよじると、枕へ顔を埋める。


「ほら。朝だよ。こまり」


 僕は彼女の肩を揺する。


「朝だよ。起きて」


 根気よく呼び掛け続けると、彼女はゆっくりと体を起こした。


「……おはよ」


 ボサボサの髪。目を閉じたまま言う。


「うん」


 彼女は半分眠ったまま「ん……」と、アゴをあげ、こちらへ胸をつきだす。


 僕は彼女のパジャマのボタンに手をかけた。


 きっと、あの新入生代表の挨拶を聞いた人達には、こんな姿の彼女は想像もできないだろう。


 そう。


 僕の幼なじみはなにもできない。


 僕は1つ。2つと、ボタンを外していく。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 3つ目に手をかけたところで、こまりは突然大声を上げた。


「な、なに普通に脱がそうとしてるのよ!?」


 顔を真っ赤にし、胸元を隠して僕に言う。


「どうしたの急に?いつもそうやってきたじゃん」


「中学生まではね!もう高校生なんだから!」


「まだ1ヶ月だけどね」


「約束、でしょ!」と怒鳴られ、僕は少し悩んでから腕を下ろし、制服を渡す。


「シワになっちゃうから、ちゃんとハンガーにかけた方がいいよ」


「わ、分かってるわよ」


「じゃあ僕、先戻ってるけど、二度寝しないようにね。ほら、髪もボサボサ。よだれも拭かなきゃ。鍵もちゃんとかけて出てくるんだよ」


「うう……」と唸る彼女に背を向け、僕は部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ