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傍観から脱却した彼女は自由に生きる(5)


 メルヴェーユ・ビダンという人物がいる。

 アナスタシス魔法王国はもとより、世界に名を轟かす『魔女』である。

 不老不死の体現者にして魔法の達人であり、薬師としての腕も確かだと言われる。

 正確な年齢は不明であるが千年前の記録に名が刻まれてることから千年以上は生きていることが推察される。

 千年前と言えば魔法大戦があった頃である。世界を巻き込む大戦の生き残りは当然ながら少なく、よって彼女の存在はそれだけでも『貴重』であった。

 青い髪、青い瞳、褐色の肌、青を基調とした化粧。口紅や爪紅ですら青を用いるが、服装に関しては自由なところがあった。男装をすることもあれば、艶めかしい身体を惜しむことなく強調したドレスを纏うこともある。

 服装も自由だが、行動も自由だ。

 数多の世界を渡り歩き、よって己が創作物として扱われることがあるのも知っている。愉快不快でいうなら愉快な方で、時にはそれらを愛でてにんまりと笑うこともある。

 勘も悪くはない。

 異世界からやってきた者の判別はもちろん、前世とやらを思い出した人物や何者かに憑依されてる人物も一目でわかる。それはつまりのところ、『死に戻り』の人間も判別ことを意味していた。

 

「ウチの息子がちょいと変わり者でして」


 住処のひとつに送られた手紙は時節の挨拶から始まり直ぐに本題に入った。

 送り主はシグルド・マーシナル。出会った頃は見習い騎士であったが、巡り巡って今は司書をしてるという。

 妻子にも恵まれたが、妻は産後の肥立ちが悪く他界し、今は愛息子と共に魔法王国の重鎮であるカルディナム家に仕えてる────そう風の噂で聞いていた。

 シグルドは才能があった若者だ。事件がなければ部隊長は勿論のこと、騎士団長にもなれる可能性があった。

 だが、魔物討伐の任務の際に謀に巻き込まれ、致命傷に近い傷を負ったのである。事の顛末は気持ちいいものではなく、一命を取り留めたシグルドは後遺症が残った為に騎士を引退するに至った。

 シグルドと妻のハコベが出会ったのはシグルドが騎士を引退したあとである。夫妻が結ばれるまでにも様々なことがあったが、手紙を読み進めるに連れ思い出に浸る状況ではないことに気付いた。

 シグルドの息子の名はカイルというらしい。現在4歳で、母親によく似た子だという。シグルドがカイルの異変に気付いたのは早く、最初は面白がっていたが日を追うに連れ危機感も募り始めていると手紙には書かれてあった。


「息子は体の発達より頭の発達がすこぶる早く、2歳半の時点で書庫にある小難しい本に興味を示しました。最初は本の図柄が気に入ったんだろうと思ってましたが、読んでたのは挿絵も装飾もない本だったんです。それを、当たり前のように息子は読んでます」


 それだけならまだいい。問題はシグルドの目を盗んで魔法書を読み出し、魔法を独学で学び始めてることだった。


「早い段階で魔法が使えることは悪くないと思うのです。しかし、独学では短所への対処が疎かになりがちです。

 今のうちに良い師を迎えるべきではと考え、手紙を出した次第です」


 要約するとカイルの師匠になってくれ、というのである。

 それはいっかな構わなかった。問題はどうやってカルディナムの家に取り次ぎ、極々自然にカイルの師となるよう動くかである。

 メルヴェーユとカルディナムには縁があるが、それは先代のハルク・カルディナムまでの話だ。現当主とは繋がりはない。ハルクの墓参りを理由に屋敷に押しかけるか、と思案したのはメルヴェーユとしては自然なことであった。

 事態が変わったのはカルディナム家の長女エレノアが王妃候補の勉強の強化合宿で数ヶ月単位で別荘地に行くという報せを受けた時だった。

 行き先は避暑地として有名な地域である。

 とはいえ向かう時期はオフシーズンであるので遊べる要素はあまりない。勉強漬けにするつもりだとシグルドはエレノアの心身を案じていた。

 カイルは相変わらず人目を忍んで魔法を使っているらしい。魔力暴走をしないよう魔力制御が施されたブローチを身に着けさせてるがそれにも限界があるとシグルドは見ている。

 シグルドは息子の聡明さや力の強さを不気味がってはいない。ただ、息子の力で息子自身が害されるのではと危惧してるに過ぎない。

 となれば、メルヴェーユも手立てを考えるばかりでも駄目だろう。運がいいことに、その別荘地はハルクの墓がある。墓参りにかこつけて別荘を訪ねても問題はあるまい。


「ボクも別荘に出向くから」


 そう手紙にはしたためて使い魔を送った。

 エレノア一行が別荘に来るまであと2日あまり。

 メルヴェーユはひと足早く行動を起こし、隠居したハルクの妻に事の次第を報告しエレノアとカイルの師匠になることを承諾させた。現当主を蔑ろにする行いだが、現在のカルディナム侯爵はあまり良い噂を聞かない。ハルクの妻にもまだいくつかの権限は残っている。それを利用させてもらうことにした。


「シノンはマリシラばかりを可愛がってます。エレノアには勉強ばかりさせて…………。メイドの話では食事や身に付けるものにも差を出してるようなのです」

「ふむ…………教育虐待というやつかな」

「そう取られても仕方のないことをしています。パダーマ、エレノアを助けてくださいませんか」

「勿論、君等の可愛い孫だもの。ボクに否やはないよ」


 本筋はカイルであるのは胸に秘め、メルヴェーユは別荘に行く口実を整えたのだった。

 他にもお膳立てをいくつかして気分良く夜の町を滑空する。

 箒に乗るのは魔女の伝統行為である。実のところ箒は無くても飛べるのだが、様式美というのは何時でも大事である。

 とはいえずっと空を飛んでいるのも疲れてくる。適当なところで休憩しようと街の一角にある屋根に降り立って夜食を取ろうとした時だった。

 使い魔も兼ねてる箒がぴょこんと飛び跳ねある方向に行ってしまったのである。


「おやおや」


 カルパスを片手にワインを飲もうと思ったのにと嘆く間もなく窓辺にいた女の子と目が合う。

 目付きはキツイが、愛らしい女の子だった。

 同時に視えたものがあってこれは危ういとも思い、接触して様子をうかがうことにした。

 建物をいくつか飛び越え、窓辺に座る。

 そうして挨拶をすると女の子は臆することなくメルヴェーユに挨拶を返した。


「あなたが良ければ、お話してくださる? スミシー夫人」

「おやおや」

 

 『スミシー夫人』とは名が分からぬ妙齢以上の女性に使う名称である。中流以上の家庭なら習うことだが、齢5つかそこらの子どもが使うのはなかなかお目にかからないことだった。


「なるほど、君は随分良い生まれのようだ。

 ボクみたいな『魔女』とは大違いだ」

「魔女? 冒険者ではないの?」

「冒険者もやってたことはあるけどねえ」


 もうかれこれ500年は前の話である。世にいう『魔王退治』に駆り出され仕方なく資格を取ったのだ。今も有効かは皆目見当がつかないでいる。


「今はほとんど引退したも同然だよ。

 ボクは今も昔も『魔女』だ。薬と魔法と占いで生きている」

「なんだか難しい話な気がしてきたわ…………」


 女の子が唇を尖らせて眉間に皺を寄せる。メルヴェーユはそっと女の子の頭を撫でた。


「そんな小難しい話ではないよ。生き方の何処に重きを置いてるかというだけの話さ。

 ボクは魔女以外にはなれない。君には沢山の可能性がある。それだけのこと」

「私には可能性があるの?」

「勿論。可能性は何時だってあるよ。そこに至れるかどうかは別の話だがね」

「じゃあ、今までは至れなかったということかしら………」

「なにかあったのかい?」


 確信を持って聞いてみるが女の子は言い繕うように「いえ、こちらの話」と言って誤魔化すように続けて言った。


「そうだ。自己紹介をしてもよろしくて?

 私、エレノア・カルディナムといいます」

「カルディナム! じゃあ君はハルク・カルディナムのお孫さんかな?」

「お祖父様をご存知なの?」

「ご存知もご存知! ハルクのやんちゃ坊主には随分手を焼いたものさ!」


 別荘で会うつもりだったのにとんだ僥倖が飛び込んできた。それを表に出すことなく、メルヴェーユはハルクの昔話をいくつかしてやるとエレノアは楽しそうに話を聞いていた。内に秘める苦悩など何処にもないというように、だ。

 これはなかなか拗れてると思いつつ、メルヴェーユは話を続けた。


「カルディナムの記録にも残ってる筈だよ。

 ハルク・カルディナム、12歳、夏。メルヴェーユ・ビダンの元に弟子入り、とね」

「メルヴェーユ・ビダン?! あなた、メルヴェーユ・ビダンなの!?」


 当然といえば当然の反応にメルヴェーユは器用に片方の眉を吊り上げて「なんだい、疑うのかい?」と言ってやる。ついでに距離を詰めて耳打ちで「君、『死に戻り』を経験してるだろう」と言ってやるとエレノアは目をこれでもかと見開いて一歩退いた。


「死に、戻り…………?」

「死んで、ある地点に戻る。だから『死に戻り』。ループ現象の一種だね。経験者は魔力によく似たオーラを纏ってるんだ。青色のね。自覚症状はあるかな?」


 問い掛けるとエレノアは胸に手を寄せながら小さく頷いた。それから後ろを振り返り何かを確認すると「此処から連れ出してくださる?」と言ってきたので手を取って箒にまたがり空へと向かっていった。


「ここなら大丈夫かな」

「空を飛んだの、初めてだわ………!」

 

 キラキラと目を輝かせるエレノアにメルヴェーユは自然と笑みが溢れる。が、エレノアは直ぐに真面目な表情になって「実は………」と自身に起こってることを聞かせてくれた。

 エレノアは通算で6度『死に戻り』を経験していた。

 そのうち5度(正確には4度かもしれない)は身体が勝手に動くような状態で意識とは真逆のことをすることもよくあったそうだ。結末は何時も同じで18歳の聖夜祭の舞踏会で魔力を暴走させ化け物となり、妹と王太子、その取り巻きにより退治され塵芥となって消えるというものである。

 そして、消えたかと思えば5歳の頃まで戻りまた同じ行動を繰り返すという状況だったという。


「けれど、今回は私の好きなように考えられるし、動けるんです。5回目の最期も少し自由に動けましたけど…………」

「ふむ。5回目と6回目で何かの切り替わりがあったんだろうか。なにか心当たりはあるかい?」

「いえ……。あっ、そういえば」

「なんだい」

「5回目の最期消える時か6回目に巻き戻る時かまでは定かではないのですけど、不思議な声が聞こえました。

 『ルート解放』って」

「ルート解放………」

「はい。確かにそう聞こえました」


 ルート解放というと遊戯的な要素が感じられる。

 これは創作物と現実がリンクしてるということか。一番面倒なパターンである。

 

「新しい道が拓けたということかもね。だから、君は自由に動ける」

「でも、結末は変わらない気がします」

「おや、悲観的だね」

「だって、5回も同じ目に遭ってるんですもの。今更違う結末を望んだって疲れるだけです。

 だったら、今までやったことないことを沢山やって散ったほうが私の為です」

「自棄になってるようにしか聞こえないのだよなあ」


 違う結末を望まないあたり摩耗が酷い。

 これはついでの気分で取り組んではいけないやつだと理解してメルヴェーユはエレノアの目を見た。


「君は未来を望んでいい。ボクが新しい未来を用意しよう」

「無理をなさらなくてもいいのよ?」

「おや、ボクが誰か知ってのその言葉かい?」

「大魔女だって出来ないことはあるでしょう?」

「そりゃあ、あるけどね。君に新しい未来を与えるのは出来ると思うよ」

「……………………縋るだけなのは嫌なのですが」

「じゃあ、二人三脚でやっていこう。

 あっ、でも、もうひとり面倒を見るから三人四脚か」

「もうひとり?」

「カイル・マーシナル」

「カイルもご存知なの?」

「父親のシグルドとは知己でね。息子が早熟すぎると相談されてたのさ」

「そう! そうなの! カイルってば4歳なのにすっごく難しい本を読めるし、中級魔法だって使えるのよ!」

「中級魔法?」


 メルヴェーユの言葉にエレノアは興奮気味で頷く。

 これはシグルドの手紙にはなかった内容だ。魔力制御の道具を使っても中級魔法が使えるなら、保有する魔力は相当なものになる。


「これは貴重な証言が聞けた。ありがとう、エレノア嬢」

「礼にはおよびませんわ。カイルをどうか、正しく導いてくださいまし」

「やるだけのことはやらせてもらうよ。君にもね」

「私はついでで結構です」


 素気なく言われてしまったのが面白くて、声を上げて笑ってしまった。



 

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