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傍観から脱却した彼女は自由に生きる(1)

◎悪役令嬢、ループ、女主人公、乙女ゲーム、転生

◎暴力、流血表現あり

◎誤字脱字、矛盾は友だち

◎地雷配慮しておりません


ひとつでも苦手な項目がありましたらお逃げください





 長い夢を見ている。

 それは五感を伴い、現実感を伴っている。

 夢は終わるところを知らず、ある一定の周期を繰り返している。

 分かるのはそれだけ。

 エレノアに自由はない。

 身動きは取れる。思考も出来る。感情だって表現出来る。

 だが、エレノアの手も足も口も勝手に動くことがある。それは大抵婚約者に関わることで、自由が効かなくなったエレノアはただの傍観者になるしかなかった。

 エレノアはアナスタシス魔法王国を支える侯爵家の娘であった。王室に長年仕え、信頼を得ている家系である。

 王国を支えることはカルディナム家に生まれた者の使命であり、運命でもあった。エレノアは早い段階で第一王子の許婚になり、将来王太子になりやがて国王になる許婚を支えるための王妃教育を幼い頃から受けてきた。

 何が言いたいのかというと『婚約者に関わること』の範囲は恐ろしい程広かったのである。

 王妃教育は厳しく、よってエレノアは人知れず努力をすることとなる。得意な分野は当然、苦手分野など無いように余暇は全て勉学に捧げた。それはつまりエレノアが自由に動ける時間がないことを意味していた。何時だって傍観者になるしかなかったのである。

 夢の1度目は思考と行動が合致していたので迷うことも混乱することもなかった。

 しかし、2度3度と繰り返すうちに行動と思考が乖離し、傍観者としてのエレノアが出来上がっていったのである。

 傍観者であるエレノアは王太子への想いはない。どんなに王妃として相応しくなっても王太子はエレノアをかえりみることはないし、愛する者として見たりもしない。

 彼が選ぶのは何時だって妹のマリシラだ。

 可愛いマリシラ。天使のようなマリシラ。誰が見ても振り返り可憐だと讃えられるマリシラ。

 一方、エレノアは目付きがキツイと言われるだけである。可愛くもなければ美しくもない。着飾って漸く『見れる』状態になると揶揄されることもしばしばあった。

 両親もエレノアよりマリシラを愛してる。そのように見える機会が、山程ある。

 マリシラはと言えば愛されるだけ愛された見返りに優しく気立ての良い娘になっていった。勉学も習い事もそこそこに自由を闊歩していた妹を傍観者になる前のエレノアは憎くて憎くて堪らなかった。

 愛らしい娘が行った行為の前には血の滲むような努力の果てに得た技術など塵芥同然だと嘲笑う周囲のせいでもあった。

 姉妹の仲は成長するに連れ悪くなっていった。一方的にエレノアがマリシラを遠ざけたともいう。

 上流階級の者同士のコネクションを築くために通うも同然の魔法学校に入学してからもそれは変わらなかった。

 王太子はエレノアを見ない。最低限の接触はするが、本当にそれだけ。なのにマリシラが入学した時には率先して世話をやいた。ふたりが共にいる姿を見る度にエレノアは激昂し、抗議した。ふたりを遠ざけようと様々な画策もし、最終的にはマリシラを殺害しようと試みるに至った。

 結局、全ては失敗に終わった。

 聖夜祭の舞踏会でエレノアは公衆の面前で断罪され、婚約を破棄された。その後どうなったかと言えば自棄を起こし魔力を暴走させ、学園の講堂を破壊し真実の愛に結ばれたマリシラと王太子に成敗され塵となって消えるのである。

 そうして、5歳の誕生日に戻り18歳の聖夜祭の舞踏会まで規定通りの行動をし、また塵となって5歳の誕生日に戻るのを繰り返す。

 2度目は全てが憎くくてしかたがなかった。

 両親も、マリシラも、王太子も、その取り巻きたちも、エレノアの味方の振りをしていた連中も、全部、全部。

 全てを蹴散らしてやるのだと決めて動こうとしたのは言うまでもない。なのに、エレノアは王妃になるべく努力をし続けた。身体が、思考の一部が言うことを聞いてくれなかったからだ。

 それは3度目にも続き、4度目にも続いた。

 5度目にもなれば最早諦めの境地である。

 傍観者のエレノアは頭から爪先まで顛末を暗記していたが、抗うことは出来ないまま5度目を迎えた。

 5度目の舞踏会、相対する両者、激闘の果ての敗北。

 塵と消える己の身体を見つめ、笑みが溢れた。

 そう、何時もなら恨み言を吐くはずなのに、エレノアはその時『自由』になった。


「やっと、終わる───」

「お姉様………………?」


 笑うエレノアにマリシラが名を呼んだ。

 だから、エレノアが最期に見たのは王太子ではなくマリシラだった。これも初めてのことだった。


「可愛いマリシラ、どうか、幸せに────」


 あなたこそが彼の隣りに相応しいのだから。

 そこまでは言い切れなかったけれど、本心はそうだった。

 そうして迎えた6度目を迎える最中、音が聞こえた。


『ヘイト蓄積が規定値を超えました。これよりルート解放となります』


 なんのことかは意味が分からなかった。




◎◎◎◎◎


「エレノアお嬢様、朝ですよ」


 メイドの声と共に意識が浮上する。

 起き上がり「おはよう、ナシル」と声を掛けると褐色の肌のメイドは驚いたように目を丸くさせた。


「お嬢様、今、私の名前を…………?」

「名前を呼ぶことは可笑しい?」

「いいえ、いいえ。そんなこと。

 おはようございます、エレノアお嬢様」


 ナシルはエレノアが乳飲み子の頃からの世話役であるが、1度目の時は名を呼ぶことはほとんどなかった。2度目も同じである。3度目も4度目も幼少期の頃に名は呼んでなかったし、名を呼ぶにしても八つ当たりをする時だけで、こんなに穏やかなやり取りはしてこなかった。

 だからだろうか、何処か嬉しそうに笑っているナシルにエレノアはホッとした。

 同時に何時もより自由が効くなと思いつつナシルに手伝って貰いながら着替えをし、食事をする部屋に行く。

 部屋には既に両親とマリシラがおり、談笑しながら食事をしていた。


「おはようございます、お父様、お母様、マリシラ」


 部屋に入り声を掛けると途端に部屋の空気が変わった。

 にこやかだった両親から表情がなくなり興味がなさそうにエレノアに「おはよう」と返事をする程度だった。マリシラだけが笑って「おねえさま、おはようございます!」と元気よく返事をくれた。


「おはよう、マリシラ。

 一番美味しかったのはなあに?」

「スープが美味しかったわ!」

「そうなの。それは期待してしまうわね」


 両親はエレノアとマリシラが話すのをよく思っていない。

 不細工が移るとでも思ってるのだろう。そんなことになるわけがないのに、馬鹿な連中だ。

 エレノアとマリシラには格差がある。

 それはあらゆる面に言えていて、食事内容にも言えていた。上流階級にいる者としての身なりや所作を身に着けさせる為に料理の数こそ平均的だが、中身がエレノアのほうが貧相なのである。まだ幼いマリシラは内容に差があるとは理解出来ないので堂々と行われてる差別である。

 エレノアに与えられたスープは具のないものだった。透明で白湯を出されたかと思ったが飲んでみれば塩味を感じたので白湯というより塩水を温めたものだといえる。

 パン派焼き立てだが形が悪く、その他の料理も量が少なかったり焦げていたりと他人が見れば眉をひそめるものだった。

 これが誕生日の朝食なのである。なかなか洒落が効いている。

 何時もなら食事を終えたあとは足が自室へと向いて自習を始める。

 が、食事を終え食後の紅茶を飲んでもいっかな身体が勝手に動く気配はなく、エレノアは普段より長い時間を部屋で過ごした。

 立ち上がり、部屋を出る。2歩、3歩と歩いて立ち止まり、また2歩、3歩と歩いては立ち止まる。


「お嬢様、何処かお具合が悪いのですか?」


 ナシルが心配そうに問いかけてくる。

 エレノアは「大丈夫よ」と笑って再び歩き出した。


「ねえ、ナシル。部屋に戻らず書庫に行ってもいいかしら」

「書庫ですか? お嬢様向けの本はそんなにないと思いますが…………」

「ちょっと背伸びがしてみたいの」


 茶目っ気があるように言えばナシルは再び目を丸くさせ、我に返ると破顔した。


「綺麗な装丁の本も御座います。目の保養にもってこいですよ」

「そうなの? 楽しみだわ」


 言って、エレノアは書庫へと足を向けた。



◎◎◎◎◎



◎◎登場人物◎◎



◎エレノア・カルディナム◎

・所謂悪役令嬢。

・5度のループの後、6度目で『自由に』身動きが取れるようになる

・度重なるループにより家族や王太子への信頼度は素寒貧状態になっている。

・自由になったので好き勝手生きることに決めた。取り敢えず王妃候補は妹に押し付ける気満々である



◎マリシラ・カルディナム◎

・乙女ゲーム()主人公。

・姉の激烈ないじめに耐えながらも真実の愛()を育んだ猛者

・性格は優しくおおらか。鈍感ともいう。


 

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