次なるクエスト
「お、Aランクのクエストがあるな。クエスト対象はアンデット?」
俺、スカーレット、サクラはラピスに5人の使用人たちを任せて冒険者ギルドへと来ていた。最近ではサイクロプスを大量に討伐したことで注目されるようになっており、視線が痛い。
Aランク以上のクエストは、高難易度ではあるもののクエストとして分類されるような対象があまりいないことから、なかなかクエストが貼り出されることはない。本来であれば高難易度クエストを受ける人材もなかなかいなくてクエストが溜まってしまうものらしいのだが、王都なだけあってか消化はしっかりされているようだ。
ふと思ったけど、他の街の高難易度クエストって消化されてるのかな。まぁ、そこは追々聞いてみるか。余ってるようなら受けてお金稼ぎしたいし。
「うわ~・・・最悪な魔物が対象ですね」
「サクラお姉ちゃん知ってるの?」
「うん。アンデットは腐った見た目で臭いしでマジで最悪なの。あと、数が異常に多いのと死んでる相手だから恐怖も感じなくて、手足が無くなっても突っ込んでくるのよ。
本当に最悪の相手よ。・・・それを受けるんです?」
「他にクエストが無いし仕方ないだろ。内容的にもかなり緊急を要するような内容ぽいし」
俺はクエストの貼り紙を持って受付へと向かう。貼り紙を見た受付嬢は安堵したかのように胸をなでおろしていた。
「ありがとうございます」
「えっと・・・何がでしょう」
「あ、すいません。実はこのクエストはかなり緊急性が高いクエストだったのですが、受けれる人がなかなかいなかったのです。ギルドとしても困っていたのですが、グレン様たちであれば問題ありません! それどころか余裕なのでかなり安心しました!」
「そ、そうですか。そんなに緊急なのですか?」
「はい。アンデットはクエストランク的にはCかBぐらいなのです。ですが、今回のクエストではアンデットが大量に発生してしまい、街を1つ壊滅させているという情報を得ています」
「は? かなりヤバくないですか?」
「かなりヤバいです。しかも厄介なのが、アンデットは殺した人間もアンデットにしてしまうのです」
「つまり、街1つ分のアンデットがいると」
「そうなります。数で約1万以上・・・」
「いやー、それはSランクのクエストになるのでは?」
「私もそう思うのですが、10万以上でないとSランク相当にはならないと決まっているようでして、Sランククエストに設定出来ないんですよ。
オーレリアさんも変えれないか冒険者ギルドの本部へ掛け合ったようですが、ダメでした」
「そうですか。分かりました。では、改めてクエストを受けます」
「ありがとうございます! アンデットのクエスト達成報告は素材を必要としないため、討伐後はそのまま報告してもらえれば大丈夫です。報告を受けた後、現地へ確認して報酬を受け渡しということになります」
「あら、グレンにスカーレットちゃんと・・・また増えてるわね」
2階からオーレリアさんが下りてきた。オーレリアさんが知らないサクラの紹介をすると、とんでもない種族をまた従者にしたわねと言われた。まぁ、ゲームでも有名な種族ばかりが従者になっていってると俺も思ってるよ。
「それで、あなた達がアンデットのクエストを受けてくれるのね」
「ええ、Aランクのクエストがこれぐらいしかなかったので」
「そうねー・・・そのクエストはあなた達であれば余裕でしょう。そのクエストを終えたら一度顔出してちょうだい。実は周りの街々では高難易度クエストが溜まってるからお願いしたいのよね」
「やっぱりですか」
「薄々勘づいてはいたみたいね。そういえば、私の愛しいラピスはどうしてるの?」
いつからオーレリアさんの愛しいラピスになったのだろうか。
「家を購入して使用人を従者として雇ったので、その人たちへの教育をしています」
「使用人を雇った? 雇用の案内は出ていなかったように思ったけど」
「奴隷を雇いました」
「なるほどね。グレンなら処遇などは問題無いだろうから安心ではあるけど、あまり国の闇には突っ込まないことね。まぁ、イリアスが監視しているだろうから大丈夫だと思うけど」
「え? 王女の名前がどうして出てくるんです?」
「あ、言ってなかったわね。もうバラしてもいいと言われていたのだけれど、イリアスはこの国の姫であり暗部の長なのよ」
衝撃の事実を知らされる。まさかあの姫様が国裏の組織である暗部の長だったなんて。その衝撃の事実を告げるとオーレリアさんは自室へと戻って行った。
「まだまだ知らないことが多いな。さて、クエストの場所へ向かうか」
「南の森を抜けて街を2つほど越えたところにある場所がアンデットの発生地点なんですよね?」
「そうだ。その集団が北上していて、街を1つ壊滅させたのが2日前だ。もう1つの街も避難命令は出ているが、1つの街が全て避難するには時間がない。
だからこそ急がないといけない。AGI値は全員が高いし全力で走れば一気に着けるだろ」
「グレンお兄ちゃん、私もしかしたら2人を連れて一気に移動できるかも」
「へ? どういうことだ?」
「とりあえず、ここだと無理だから平原に行こう」
スカーレットに連れて行かれるまま街からすぐ出た平原に行く。街の入り口にいる衛兵は何事なんだろうとこっちを見てる中、スカーレットの背中から竜の翼が生える。
「は!? スカーレット、それどうしたんだ?」
「んー・・・なんか竜に変身出来そうなんだよね。竜に変身したらみんなを乗せて一気に行けるでしょ?」
「スカーレットちゃんが竜種だとは知っていましたが、竜になれるなんて。まぁ、人の姿だけになってる竜というのもいないと言えばいなかったですが」
「サクラは竜種を知ってるのか?」
「偶然見たことがある程度ですね。竜種と対峙すれば一気に焼き殺されてますよ」
「いや、恐ろし過ぎだろ」
「グレンお兄ちゃん、服を持ってて」
突然、スカーレットは服を脱いで全裸になってしまう。衛兵達も美少女が急に全裸になるもんだから驚きを隠せない。いや、俺も驚いているけども。
サクラは全裸になったスカーレットを隠すようにするが、スカーレットが光に包まれてしまう。そして、次の瞬間には巨大な真紅の竜がそこに現れる。
「やったー! 本当に竜になれた! 出来そうだと思ってたけど、本当になれるとは思わなかった!」
「ステータスに特に変化は無い。スキルの真なる竜の子というのが、もしかしたら複合スキルでいろいろなことが出来る感じなのか?」
「貴様ら! その竜は何者だ!」
「やば。スカーレット、俺とサクラを乗せて一気に飛び立つぞ!」
「分かった!」
衛兵達が急に現れた巨大な竜と周りにいた俺たちに詰め寄ってきたが、俺たちは背中に乗って一気に飛び立った。
おー! 空の旅は快適だな。これは気持ちがいい。
こんなのん気なことを当時は考えていたが、後に王都では大騒ぎになっており、ギルドマスターと王様からお叱りを受けることになるとは、この時の俺は知らなかった。
「どう? グレンお兄ちゃん達、大丈夫そう?」
「ああ、大丈夫だぞ。むしろ空の旅は快適だ」
「はい。私も空を飛べる日が来るとは思いませんでした。ありがとう、スカーレットちゃん」
「えへへ、みんなに喜んでもらえて嬉しい」
飛び始めて1時間ほど経った時、サクラがアンデットの集団を発見した。ちょうど下に見えるけど、本当にあの集団がアンデットなのか?
「えーっと、聞いてた話だと約1万だったよな」
「そのはずですね。けど、あの数は・・・」
「どう見ても数倍はいる感じだな」
約1万とは思えない数のアンデットが次なる街へ大挙として押し寄せようとしていた。あの数で街に到着したら壊滅は必至だな。さて、どうやって一気に倒したものか。
「グレンお兄ちゃん、私から攻撃するねー!」
「え? スカーレット?」
スカーレットは口を大きく開けると、そこから灼熱の火球を放った。真下に放たれた火球はアンデットを倒しつつ地面に当たって爆発する。その威力は凄まじく、一気に1000体近いアンデットが倒されている。
「凄いな。俺たちも負けてられない。スカーレット、俺たちを地面に降ろしたら空中で今みたいに火球で攻撃し続けてくれ」
「分かった! グレンお兄ちゃん達も気を付けてね」
「えぇー!? 私も地上で戦うんですか? このままスカーレットちゃんの背中に乗ったままアンデットを倒せばいいじゃないですかー」
「何楽しようとしてるんだよ」
「いや、だって、アンデットとは戦いたくないと言いますか何と言いますか」
「ふぅーん? だったら、今度からはサクラが大好きなトンカツは無しになるけどいいんだな?」
「なっ!? そんな酷いことを言わないで下さいよ~!!」
サクラが泣きながら俺の足へとすがりついてくる。働かざる者食うべからず。従者にしてからの1ヶ月近く何もしてないんだから、こういう時ぐらい働けー!
「うぅ~・・・私のトンカツが人質にされるなんて。これもそれもアンデットがいけないんですよ? 私が戦わないといけないのは全てアンデットのせいなんですよ?
許されないですよね?」
「さ、サクラ?」
「サクラお姉ちゃん怖い」
顔は笑ってるのに目が笑ってないんだが。
「鬼を怒らせるとどうなるのか・・・教えてあげますよ」
サクラの怒りに呼応するかのように魔力が噴き出す。そして、その魔力が鬼の面を形作ると、それを手に取って顔に被る。
真っ赤な鬼の面を被ったサクラは雄叫びを上げるとアンデット達へ一直線に向かい、手に持った刀で一刀両断にしていく。元は人間の体のアンデットを簡単に斬っていく様子は美しさすらも感じると同時に狂人さを感じる。
あれがバーサーカー・・・狂戦士のスキルか。
「あのサクラでも数が多過ぎるから俺も魔法で戦うか」
「グレンお兄ちゃん頑張ってね」
周囲の四元素は・・・何だこれ。真っ黒な精霊しかいない。真っ黒な精霊は不気味な顔をしており、ケタケタと笑いながら空中を彷徨い続けている。
「黒い精霊?」
俺が言葉を発した瞬間、精霊たちは一斉にこちらを向く。これはヤバイ。何か分からないが、得体の知れない恐怖を感じる。だが、どうすることも―――
『見ぃつけた。四元素の精霊だけでなく、僕たち闇の精霊も使役出来る人間。嬉しいな。やっと光の精霊に自慢できるよ』
俺の体は闇の精霊達に飲み込まれてしまった。