住居を求めて
「今日中に山まで行って帰って来てはさすがに疲れたな」
「主様、お疲れ様です。こちらお茶になります」
「ありがとう」
サクラを従者にした俺たちは行きと同じで一気に走り抜けて街へと戻ってきた。宿屋へ帰ってきてひとまず休憩をして現状を整理する。
サクラについて知らないことが多過ぎるからな。
「さて、サクラについて聞きたいんだが」
「スリーサイズ以外ならお答えしますよ」
「そ、そんなこと聞かないよ」
「どうかしらね~。あのー・・・ごめんなさい。2度と主のことをバカにしないから、火球を投げてこようとしないでくれる?」
「グレンお兄ちゃん、焼いた方がいいかも」
「ダメだって。サクラは俺の従者で仲間なんだぞ」
「さすがグレンさんは分かってる! スカーレットもあんまり脅さないことね」
「あら、でしたら妾でしたら大丈夫?」
「ラピスもダメー! 2人してなんでこんな好戦的なのよ。鬼種である私より狂暴じゃない。よくあんたは何事も無くいれるわね」
「まぁ、2人はよくしてくれるし何も問題無いぞ」
「慕われてるのね。というよりも、恋かしらね」
サクラはラピスとスカーレットを見て匂わせるように言う。だが、2人とも慌てることなくキッパリと言い放つ。
「主様のことは当然好いていますよ」
「私もグレンお兄ちゃんは好きだよ!」
「2人とも凄いわねー。さて、グレンさん聞きたいことってなんです?」
「ああ、まずサクラの正体だ。なぜあんな場所にいたんだ? 鬼種であるサクラのステータスは高い。それがあそこに逃げるようにいた意味が分からない」
「・・・私の村は5年前に魔王軍によって滅ぼされました。そして、その魔王軍から逃げるようにして放浪していて、着いたのがあの場所だったんです」
「そうか。辛いことを思い出させてしまったな」
「いえ、踏ん切りはついていますし、魔物であれば強者に負けたのであれば仕方のないことです」
「なるほど。更に踏み込んだことを聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「その角折れは村が襲われた時のなのか?」
「はい。私たち鬼種は魔王軍に抵抗したのですが、サイクロプスの軍勢相手では敵わなかったのです。そして、その戦いの時に私の角は折れてしまいました。同族によって逃がされて角が折れるぐらいなら同族と一緒に死んだ方がマシでした」
「そんなことを言うんじゃない!」
「え?」
「その時の惨状を見ていない俺が言えることじゃないが、同族の方々はサクラを逃がすために命を賭しても必死になったんだ。そうして得た命なのに死んだ方がマシなんて言うな! サクラはその人たちのためにも生きなければならない。
そのことを分かっているからこそ、サクラも各地を転々としながら生きてきたんじゃないのか?」
「そうです。私は生きなければいけないんです。けど! もう誰もいないことなんて受け入れられないじゃないですか。誰にも言えることもなく、誰からも必要とされていない。そんな人生なんて辛いだけです!」
「今は俺たちがいるだろ」
涙を流し続けて下を向いていたサクラが顔を上げて俺たちを見る。そうだ。成り行きとはいえ従者となったサクラはもう俺たちの仲間であり家族だ。俺たちがサクラを必要としている。
「うわあああぁぁぁーーー!!」
サクラは溜まっていたものを吐き出すかのように泣き続けた。ラピスが頭を撫でながら落ち着くまでサクラに寄り添う。
しばらくして落ち着きを取り戻して椅子へと座って会話を続ける。
「取り乱してすいませんでした」
「いや、そんな事があったんだから溜めずに吐き出すべきだ。何かあればまた俺たちを頼ればいい」
「ありがとうございます」
「そういえば、サイクロプスの軍勢とか言ってたが、その軍勢のリーダー的なのはサイクロプスヘッドなのか?」
「そうです。魔王軍の中でも精鋭と言われるサイクロプスヘッド相手では流石に鬼種でも勝てませんでした。ですが、いつか必ず復讐します」
「あー・・・そのことなんだが、俺たちが倒したサイクロプスヘッドがもしかしたらそいつかもしれない」
「へ?」
「ラピス、サイクロプスヘッドはそう何体もいるものなのか?」
「いえ、サイクロプスの中で突然変異として生まれた存在がサイクロプスヘッドであり、確認されているのは1体のみだったかと思います。なので、歴戦の猛者となって強かったのです」
「実は、前にサイクロプスの討伐依頼を受けた時にサイクロプスヘッドが出たんだ。そして、スカーレットが倒した」
「は? 嘘でしょ。魔王軍の精鋭であるサイクロプスヘッドをこんな子供が!? いくら竜種でもありえないわよ」
「私は強いんだよ! なんなら戦って試す?」
スカーレット、蒼炎を発動させてサクラを真っ黒こげにしようとしないでくれ。サクラも綺麗な土下座をして平伏してる。
「す、すいませんでしたー! スカーレットさんがそんなにも強いなんて」
「分かってくれたならいいんだよ。サクラお姉ちゃんも私に勝てるぐらい強くなってね」
「お姉ちゃん・・・なんていい響きなんでしょう」
なんか良くない世界へ突入しかけてるのを無理やり戻して話を続ける。
「次のことを聞いていいか?」
「な、何でしょう」
「サクラの村が狙われた理由は分かってるのか?」
「いえ、急に襲撃されて理由も言わずに虐殺してきたので・・・。ただ、ここには目的の物は無かったと言っていたのは覚えています」
「目的の物か。何か魔王軍で動こうとしているのかもか」
「魔王軍が? ありえないですよ」
「何でだ?」
「魔王軍の強さ的に人間を相手にする必要がないからです。魔王軍がゾウだとするなら人間はアリのようなものです。中には例外的な存在もいますが、基本的には人間に対して何かをわざわざしようと思わないですよ」
「確かにな。七大魔王がそれぞれアカツキさんほどの強さを有しているのなら冒険者でもSランク以上でなければ対処出来ないもんな」
「ア、アカツキーーー!?」
「急に大声を出すなよ。隣の部屋に迷惑だろ」
「す、すいません。ですが、魔王アカツキに出会って何で無事なんですか?」
「何でって言われても・・・。俺は勇者なんだが、その勇者召喚の儀について異議申し立てをしに来たみたいなんだ。アカツキさん自身も元は勇者で、自身のような不幸な勇者をこれ以上召喚して欲しくないみたいだった」
「へぇー・・・グレンさんとアカツキも勇者だったんですね。って、勇者!?」
「大声を出すなって」
「大声も出ますよ! まさか私が従う主が勇者とは思わなかったんですもん。しかも、魔王の中でも冷徹として恐れられるアカツキが元は勇者だったなんて。信じられないです」
膝から崩れ落ちるサクラ。魔物の中でも勇者ってのは特別な存在なんだな。
とんでもない人の従者になったと今更になって事の重大さに気付いたサクラは次にワナワナ震えだす。感情表現が豊かで面白いな。
「まぁ、落ち着けって。サクラには聞きたいことも聞けたし最後に相談があるんだ」
「相談?」
「ああ。スカーレットとラピスには言っていたが、一軒家を買おうかと思ってるんだ。サクラはどう思う?」
「私に聞かれても・・・。正直、嬉しいです。今までまともな衣食住が無かったので。けど、私なんかが一緒に住んでもいいんですか?」
「何言ってるんだよ。俺の従者だから良いに決まってる。宿屋での生活も悪くは無いが、部屋も手狭になってきたのと、やっぱりプライベートなことを考えると一軒家が欲しいよな」
「プライベートなこと? あぁ~・・・私は何も知りません」
「サクラ・・・という訳で今日はレストで夕食を食べて明日にでも不動産に行こう。場所は分からないが、ギルドで聞けば分かるだろ」
そうして、レストに4人で向かって夕食を食べる。女性の従者がまた増えたため、ガリアさんと常連さんにからかわれた。だが、野郎ばかりのお店に女性が来たことで一気に店の雰囲気が良くなる。
にしても、以前よりも遥かに客が増えたな。ギルドに卸してる肉も料理として好評みたいで良かった。そうして、楽しい時間も過ぎて夜が明ける。
「すいません。家を買いたいんですが、どこに行けばいいですかね?」
「おぉー! さすがはAランク冒険者ですね。家の購入でしたら商業ギルドで行えますよ」
「ありがとうございます」
やっぱり高ランクの冒険者は稼ぎが凄いんだな。冒険者ギルドの受付の人に家の購入を話したら納得って顔してたし。
「家の購入ですね。少々お待ちください」
「グレンお兄ちゃん、どれぐらいの大きさの家を買うの?」
「どうだろうなー。今のお金でどれぐらいの家が買えるのか分からないんだよな。けど、将来的なことを考えたら大きめの家がいいよな」
「それはどうしてです?」
「従者が今後も増えるからな。今の人数を考慮した家だと狭くなる可能性が高い」
「なるほど。私はてっきり子供が産まれることも想定しているのかと思いました」
「サクラは本当にバカだな」
「ば、バカとは何ですか!?」
「お待たせしました。従者の方々と仲がいいんですね」
商業ギルドの受付嬢が地図を持って再び現れる。俺たちの会話の様子を見ていたのか微笑みながらであった。
「ええ。最高の従者です」
「とても良いことですね。さて、家の購入なのですが、区画がいくつか分かれております。その中でランク付けがされており、上位の区画であればあるほど土地だけでかなりの値段となります」
「なるほど。ちなみに一番高いところだといくらになるんですか?」
「グレン様ですと、この区画が選べる中で一番高いところになりますね。値段で金貨1000枚です」
あれ? 俺の手持ちの金貨で買えるな。まぁ、土地代だけで1億円って考えたら普通に高いんだけど。
「ん? この区画の方が高そうですけど、ここは無理なんですか?」
「こちらは貴族階級の方のみとなっております。残念ながらグレン様では選ぶことが出来ないのです」
なるほどね。貴族専用の土地ってことか。確かに城から近く周りは住宅街となっていて住みやすそうな場所だ。だけど、貴族と一緒なんて買えるとしても嫌だな。
「予算はどれぐらいを想定しているのでしょうか?」
「うーん・・・少し手持ちに残しておくことを考えると金貨2500枚ぐらいですかね。希望的に難しい予算ならクエストを受けて稼いできますけど」
「そういえばAランク冒険者でしたね。通りで貴族クラスの予算をお持ちですね」
受付嬢と世間話をしながら家について話し合いを進める。3人の従者も自分たちが住む家になるということで様々な意見を出してくる。こういうやり取りも楽しいもんだな