???(EP3前編~Clover destiny~完~)1
真奈ちゃんの無事を見届けた私は病院を出る途中で稗田さんと話した。
そこで聞いた話は信じがたいものでいっぱいだったが、心当たりのある私は稗田さんの話しを否定することが出来なかった。
でも……言葉を受け止めるのは重く、ショックはあまりに大きかった。真奈ちゃんが倒れた原因が私のせいだなんて。
とても信じたくはなかったけど、本当に真奈ちゃんの身体を治してしまった稗田さんの言葉を否定するのは難しかった。
重苦しい心境のまま病院を出て、帰り道を私は沈んだ気持ちのまま歩く。途中までは逃げるように走っていたけど、段々とその気力も失った。
胃がキリキリと痛むような感覚までして気分も悪くなっていく中、私はゆっくり歩いて帰るしかなくなっていた。
力が抜けてしまい、足元を見ながらトボトボと歩く。
六月の朝の日差しは、徹夜した身体には痛いくらいに毒だった。
タクシーを使いたいくらい苦しい気分だったけど、私は何とか我慢して歩いていると、家の近くにあるいつもの公園まで辿り着いた。
視線を動かすと入口に見知らぬ緑色の髪をした、十歳くらいの少年がそこに立っている。
今の時代、緑色に髪を染めることくらい珍しいことじゃないけど、気になることはそれだけではなかった。
私の方を睨んでいるようにじっと鋭い視線を送り見ていたのだ。
知り合いではないので、早く通り過ぎようとした私へ、独り言のような声が聞こえた。
「君が治療してあげればよかったのに……」
距離があったのに、はっきりその声は脳髄まで響いた。
聞いたことのない中性的な少年の声。
私に話しかけてきていると分かる挑発的な態度にも聞こえる声を聞いた私は、少年の方に向き直り、一歩二歩と近づき、返答した。
「誰? 私に何か用かしら? 徹夜して疲れてるから、早く帰らないといけないんだけど」
私の方へ視線を向けて少年は離さない、気味が悪くなってきて私は疲れもあり声色は恐ろしいくらいに冷たく、口調もきつくなった。
「僕はタナトス、アリスと対を成す存在だよ」
意味の分からない自己紹介だった。
タナトス? アリス? 童話の世界から紛れ込んだとでもいうのだろうか。
私が反応に困っていると、少年はさらに言葉を続けた。
「ただ、君のことを見ていられなくてね。
酷い話しじゃないか、君も、彼も、彼女も。
こんなに傷つけあって、ボロボロになって、本当に人間は何がしたいんだい?」
「何が可笑しいのよ、初対面なのに私の事情を貴方が知ってるわけないじゃない」
「知ってるよ、ずっと聞こえていたから。
世の中便利になったものだよ」
何が可笑しいのか、クスクスと笑いながら少年は言う。
一層近寄りがたい雰囲気だった。
「ハッキングして盗聴でもしてたって言うの?
子どもだからって、悪戯が過ぎるんじゃない?」
「僕が何故知ってるかなんていいじゃないか……方法論に意味はないよ。
テクノロジーの進歩の裏にある魔術も同時に発展を遂げていたとしても、ほとんどの人間は信じはしないだろう。
ただ、僕は興味があっただけだよ。
どうして君が、魔法使いの力を行使せずに、苦しんでる大切な子どもを助けようとしなかったのか」
「私が魔法使い? 何を言ってるのよ……」
稗田さんは自分のことを魔法使いとして呼んでいたけど、それが何を指すのかはよく分かっていない、ましてや自分と関係のあることなんて考えもしてこなかった。
でも……何、記憶の奥から火の玉ようなものが灯り、言霊が聞こえるようだった。
「もう忘れちゃったの? 簡単に人の恩を忘れる人だね。
助けてもらったじゃない、普通はもう助からない状況で、助かるために力を与えてもらった。
救世主から魔女の力を使ってもらって、君は魔法使いとして覚醒を果たした。
だから火だるまにならずに、あの絶体絶命の状況から逃れられたんだろう?」
何かを思い出しそうな、そんな予感が少年の語る言葉から追憶される。
現実感のない言葉の数々が火花を散らすように私の脳内を刺激する。
それは、私の中でパズルのピースのように浮かび上がり、封じ込めた記憶を正しく配列させようと頭を働かせる。
「何を……一体……あれは……」
疑問が浮かび上がった時点で、納得のいくところまで知りたいと反射的に思ってしまう。
いや、それは一度封じ込めた記憶だと、徐々にその事に私は気付き始めた。
あれは……そう……私があの状況下で生還したのは奇跡そのものだった。
そして……その奇跡へと向かわせた力の所在は……。




