第十七話「終点の先なんて在りはしないなら」3
「あっ、もうこんな時間、先輩あたし店閉めないと……」
営業中にも関わらず話し込んでしまい、すっかり閉店時刻になっていた。
「今日は私も手伝うから、前の看板片付けて来るわね」
「そんな悪いですよ……あたしの仕事なのに」
「いいのよ、たまには先輩面させてよ、それに、この後も舞とは話したいから、早くクローズ作業終わらせちゃいましょ」
実質店を任されている状態の舞にはこの後店を閉める仕事がある。掃除は他の子がしてくれたとしても、翌日の引き継ぎ業務や売り上げ処理、在庫の確認と発注に至るまで、ここで挙げればキリがないほど業務はある。
仕事に慣れてきたとはいえそれを店長夫婦に任せることなく率先して舞は少しでも引き受けてやっているのだ、ここは手伝ってあげるのが先輩の務めだろう。
舞とクローズ業務をしていると、上の階から店長の奥さんが姿を現した。
「あら、元気な声が聞こえると思ったらゆいちゃんが来てたのね」
温和な性格でいつも微笑みかけてくれる優しい奥さん。
私のことを”ゆいちゃん”と呼び、親し気に接してくれる。
身体が弱かったり、子育てをしていたりして段々店舗の方には顔を出さなくなったが、お客さんからも不動の人気があって、本当はいてくれるだけで助かる存在なのよね。
「こんばんは、なかなか来れなくてすみません」
「いいのよ、その分舞ちゃんが頑張ってくれるから。
働きに来なくたって、子どもをあやしに来てくれるだけでも私は大歓迎よ」
旦那さんである店長は物静かだが、それを支える奥さんはこういう性格だ。
私たちも面倒見のいいこの人がいるおかげで最初の頃、不安もなく気軽に相談ができて、仕事を続けるが出来た。
「陽子さんも、お子さんが可愛くて仕方ないって感じですね。本当に良かったです」
「これはゆいちゃんと舞ちゃんがいてくれたからよ。
二人がいなかったら、お店休業しないといけなかったわ」
創作料理店”ファミリア”を経営する店長夫婦、奥さんが櫻井陽子さん、旦那さんが櫻井哲二さんだ。
可愛い制服が評判のこのお店だがチェーン店というわけではなく、個人営業で、二人でこのお店を作ってきたといってもいい。
アルバイトで雇っている学生もいるが、手伝えることにも限度があるのが現実だ。
私がアルバイト第一号で、アルバイトの中では一番の先輩にあたる。
きっかけは社会経験がしたいことと昔からこのお店が好きで利用していたことによるものが大きい。
陽子さんが元々、私のお母さんと同じ凛翔学園の演劇部だったことがきっかけで長い付き合いがあった、昔から仲の良い友達関係だったのだ。
私はそういう親同士のつながりの中で、お誕生日パーティーをしてくれたり、昔からよくしてもらってる、そういう恩義を返したいと思ったのもある。
お母さんも、この”ファミリア”で時々学業に支障がない程度に手伝うくらいならとアルバイトをするのを許してくれた。
入ってみると私のために陽子さんの制服のアレンジしたものを用意してくれるまではお母さんも想定していなかったようで、そこで冗談交じりの言い争いはあったけど、それももう過去の話しとなった。
陽子さんはお母さんと同い年、子どもはまだ一歳を迎えていない赤ちゃんで、出産が近づいてからは無理せず仕事を休まなければならない状況だった。
そういう状況の中で一番尽力して、お店を営業し続けられるよう頑張ってきたのが舞だった。私は出来るだけ協力したけど、舞ほどの時間が取れず、情熱は注げなかった。
それで舞が留年することになったことは、陽子さんも心を痛めてるようだが、感謝を伝える事の方が関係を続ける上ではいいと思っているみたいだった。
現に産まれた赤ちゃんは可愛いし、それを見て幸せそうにしている二人を見るのは、私にとっても舞にとっても幸せなことなのだ。
私は真奈ちゃんが産まれた時のことを思い出して、懐かしい気持ちと温かい気持ちになれた。浩二は弟の方が欲しかったみたいだけど、私は妹が出来たような気分で嬉しかった記憶が残っている。
本当の家族のように面倒をみるようになったのは、浩二の両親が亡くなってからだけど、私は真奈ちゃんと一緒にいられて、本当によかったと思う。




