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魔法使いと繋がる世界EP3~Clover destiny & World end archive~  作者: shiori


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第十六話「想いを繋ぐ告白」4

???

「佐藤隆之介君へ、今日は晶子にどうしてもと頼み込まれたので、晶子から渡された手紙を読ませていただきます」


 カメラ目線だった制服姿の晶ちゃんが発声を始めた隣の少女の方を向きながら笑顔で頷いている。


隆之介

「晶ちゃんがこんなに笑顔を浮かべて……この子のことを信頼してるんだな……」


 緊張はしていたが、殺伐とした様子ではなく、悲しい様子でもないので、少し安心した気持ちで僕はタブレット端末を手に微笑ましく見ることが出来た。


「手紙を読み上げる前に、佐藤君はあたしのこと覚えてるかな?


 あたしはそうね……隣の晶子みたいに魅力的な女じゃなかったから佐藤君は覚えてないかもしれないけど、5年生と6年生の時に同じクラスメイトだった夕凪梢(ゆうなぎこずえ)よ。


 晶子とあたしが再会したのは震災の影響で晶子がこっちの高校に転入してきたからだけど。

 

 聞けば聞くほど驚かされる事ばっかりよ。

 ドラマで聞くような浮かれた話ばっかりで……震災の話しを深刻そうに説明されるよりはずっといいけどね。


 そういうわけで、晶子がこうして元気に高校に来ているのも佐藤君のおかげかもしれないから、あたしなりに力になってあげようと思ったの。


 だから、内容に目を通しただけで、恥ずかしいラブレターだけど、今日は読んであげるわ。晶子の頼みだからね。

 

 それじゃあ、これ以上長くなっても仕方ないから読むわね」


 友達想いであることがはっきりと分かる雰囲気で夕凪梢(ゆうなぎこずえ)は、声を出せない晶子の代役を引き受け、手紙の朗読を始めた。



「親愛なる隆ちゃんへ、私の気持ちを言葉にして届けたいと思います。


 声を届けられない私の代わりに、お友達の梢ちゃんに読んでもらいます。


 梢ちゃんの方が上手に私の気持ちを届けられると思ったので頼みました。


 どうか、最後まで聞いてください。



 最初に、会いに来てくれてありがとう。


 再会して今までのこと、全部偽りなく幸せな毎日でした。


 こんなタイミングで私に会いに来てくれたこと、会話するのが不自由な私に優しく接してくれたこと、大切にしてくれたこと、感謝でいっぱいです。


 

 でも、一つだけ本題の前にどうしても言いたいことがあります。


 醜い私を見せてしまうけど、我慢して聞いてください。



 私はね、ずっと我慢してきたんだよ。


 再会する日を夢見て、四年間もの間、隆ちゃんと会える日を待っていたんだよ。


 来る日も来る日も、今日のように暑い日も、雨の日も、風の強い日も、雪の日も、孤独な気持ちを背負って来たんだ。


 隆ちゃん以外を好きにならないように、惹かれることのないように、出来るだけ異性を見ないようにして、深く関わらないようにして隆ちゃんのことを信じて待っていたんだよ。


 長かったんだ……。本当にね。


 誰かを傷つけるのも、自分が傷つくのも怖いし嫌だから、出来るだけ人を遠ざけて、人付き合いをする代わりにピアノとばかり向き合って、そうして生きて来たんだよ。


 きっと、隆ちゃんもそういう風に、私と同じように一生懸命に会いたい気持ちを我慢しながら生きているって信じて。


 あなたのピアノは、時々でも日本にいても聞くことが出来たから。

 

 それを支えに、ずっと想い続けながら生きて来たんだよ」



 僕のいないところでも、一人寂しく、パッヘルベルのカノンを弾き続ける、晶ちゃんの姿が頭に浮かんだ。

 

 それは、とても物悲しく、切なくて、僕の心にもしっかりと突き刺さる感傷となって残った。



梢 

「でも、そういう気持ちも一緒にいられるようになって、忘れられたよ。


 雪が溶けるように、辛かった日々の記憶も、幸せな思い出で溶かしていってくれたよ。


 だから、もう大丈夫だけど、そういう気持ちで生きて来たってことは覚えていてください。



 ―――それじゃあ、隆ちゃんがあの日、言ってくれた提案への返事をします



 私は、やっぱり日本に残るよ。一緒にウィーンで暮らすことは出来ないです。


 でも、心が苦しいのは私も同じです。


 だって、隆ちゃんが一緒に暮らしたいって言ってくれたことは本当に嬉しかったから


 だけどね、私はまだ、やり残していることがたくさんあるから。


 私は悲惨な震災から生き残った人たちにピアノを通じて勇気を与えながら、亡くなってしまった人たちが安心して天に昇っていける世界にしたいの。


 それが大人になっていくってことだと思うから。

 きっと、お母さんなら、私にピアノを教えてくれたお母さんだって、そうするって思うから。みんなに勇気を与えようと、ピアノを弾き続けるだろうって思うし、そうであってほしいって、やっぱり思っちゃうから。


 だから、私にとってカッコよくて尊敬してきた、お母さんがいない代わりに、私は一生懸命、これからもここで弾き続けるよ。



 ――—私、そのためだったら声が戻らなくたっていい、後悔したりしないよ。



 だって、私のピアノの音はこれからも変わらないから。


 ピアノの演奏を通じて、私の気持ちを伝えられるから十分だよ。


 だからごめんね、隆ちゃんが私の声を取り戻そうと手伝ってくれるのは嬉しいけど、今はまだ一緒にはいられない。



 だから、隆ちゃんは世界的に有名なピアニストになる夢を私の分も叶えてください。


 隆ちゃんにはそれが出来るって信じてるか。


 私だって寂しい、ずっと傍にいて欲しいよ……。


 でも、今はお互い、できることをしよう?


 私には、私にしか出来ないことがある。演奏の依頼をしてくれている人もいる。だから、まだ隆ちゃんとは一緒にいられない。



 長くなっちゃったけど、これが私の答えです。

 この気持ち、受け取ってもらえると嬉しいかな。

 

 最後に、私はね、被災した人たちに傘を差してあげたいの。

 雨に濡れて、心が沈んでしまった人たちに向けて。

 

 自分が幸せであればいいだけじゃなくて、幸せを分けてあげられる人になりたい。


 そして、いつか、隆ちゃんや、式見先生、お世話になってきた人たちにも、”太陽のように明るく照らしてあげられる人になりたい”


 そういう私になっていこうと思います」



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