第十五話「震災のピアニスト再演」3
演目:震災のピアニスト
監督・脚本:八重塚羽月
演出:樋坂浩二
キャスト
四方晶子=稗田知枝
佐藤隆之介=樋坂浩二
桂式見=永弥音唯花
担当医師=内藤達也
???=手塚神楽
佐藤隆之介(小学時代)=水原光
制作:演劇クラス一同
*
隆之介
「卒業おめでとう、晶ちゃん。長いようで、あっという間だったね」
晶子
「うん、本当だよね。卒業おめでとう。隆ちゃん」
桜吹雪の舞う体育館の外で、卒業生である私たちは見つめ合う。
私が音楽室の中で弾いていた、パッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように隆ちゃんがやってきて出会った、あの日から二年、お互いピアノ好き同士で意気投合し合ってから仲良くなっていき、思い出は数えきれないくらいいっぱいできた。
晶子
「隆ちゃん、終わっちゃったね」
隆之介
「うん、晶ちゃんの最後の演奏、凄く良かった。次に会う時まで、ずっと覚えてるよ」
卒業生が退場するときに流すピアノ演奏をした私を隆ちゃんは労ってくれた。
卒業証書に入った筒を片手に、私と隆ちゃんは体育館を出て校庭で二人並んで、今日別れることになる校舎の姿を目に焼き付けながら思い出に浸っていました。
私たちは今日で卒業し、もうここに通うこともなくなり、晴れて来年度から中学生になる。
そして、明日には隆ちゃんは音楽留学の為、海外に旅立ってしまう。
別れの時が刻一刻と迫っていました。
前々から私と隆ちゃんの仲の良さとピアノの実力を知っていた在校生や先生方は、私たちのために、卒業式でピアノを弾く機会をくださりました。
二台のピアノを使い、二人で一緒に一つの曲を演奏するピアノデュオ、練習をたくさんした分、本番での緊張も大きかった。
卒業式という一度きりの晴れの舞台で在校生や保護者、先生たちに向けて披露するそれもまた、一生の思い出となりました。
今はそれも終わって、外の空気を吸い熱を冷ましながら、感傷に浸っている真っ最中です。
晶子
「でも、喜んでもらえてよかったね。色んなことがあったけど、今日で最後なんだね、ここに通うのも」
隆之介
「長いようで、あっという間だったね」
私と隆ちゃんは小さい頃からの幼馴染で、お互いピアノが大好きで、一緒にコンクールにも出ました。
桜吹雪に身を寄せながら、少し大人に近づけた気分で時の流れの感傷に浸る。
出会いもあれば、別れもある、そんな当たり前のことを改めて強く感じます。
思い出は本当に数え切れないくらいにたくさんあります、ずっと忘れられないほどたくさん。
隆之介
「晶ちゃんもピアノ続けるんだよ、一緒にまたピアノコンクールに出て、入賞するんだから」
晶子
「うん、頑張るよ。隆ちゃんの方が頑張り屋さんだから、上手になれると思うけど」
新天地でこれからさらにピアノの腕に磨きをかけていくことであろう彼の姿をこの目に刻み込む。この幸せそうな笑顔を見られるのも明日が最後、信じたくない事だけど。
でも、私たちはきっと、お互いにピアノを続けている限り、また会える。
再会して、一緒に笑ってお話しできる日がきっとまたやってくる。
そうして、いつまでも永遠に隆ちゃんのそばにいられると。
――――そう、ずっと信じていました。
隆之介
「晶ちゃんがいてくれたから、ここまで頑張れた。海外に行ってもっと勉強して、頑張りたいって思えた。全部晶ちゃんと出会えたおかげなんだ」
晶子
「うん、ありがとう。私はね、そういう真っすぐな隆ちゃんのことが好きだよ。
だから、ずっと……ずっと、忘れないでいて」
思い出は思い出のまま永遠に変わることなく、私の記憶の中で生き続ける。
隆ちゃんと過ごしてきた日々、眩しかった日、そんな日のこと。
それから、時は瞬く間に過ぎていき、時の流れの中で、約束は置き去りにされていった。
そして、四年間もの間、私たちが再び会うことはなかった。
*
今回の舞台はゴールデンウイークの時よりも観客との距離が近く、舞台上で使える面積も狭い。
実際の演技に大きな支障があるわけではないが、臨機応変にこの雰囲気に出来るだけ早く慣れて対応することができるほど知枝は経験豊富ではなかった。
「はぁ……緊張したぁ……最初のシーンが光との場面だったから、いっぱい練習したおかげでなんとかなってるけど、二回目でも慣れないね」
シーンの切り替えを慌ただしく控えの生徒がしてくれている最中、知枝は緊張と強い照明器具のせいもあり早速汗を滲ませながら、一緒に舞台裏に下がってきた光に話しかけた。
「演技をする上で緊張感もそれなりに大事だから、演技に集中出来てる今なら大丈夫だと思うよ、次のシーンも頑張ろうっ!」
「そうかなぁ……光みたいに落ち着いて演技出来ないけど……」
こうして演技の後すぐに感想を言い合えるだけ上達したと知枝は自分を納得させながら、光の言葉を受け止めた。
緊張したまま最初のシーンが終わり、一度照明が落とされ、慌ただしくシーンが移り変わっていく。
四年後の再会シーンの前には収録済みの浩二が演じる佐藤隆之介のナレーション部分があるので知枝はその間に着替えを済ませて戻る手筈になっていた。
「浩二、久しぶりの主役、頑張って来て」
主役を担当した記憶が遥か過去であることを思い出しながら羽月の言葉に浩二は頷いた。
黒沢研二の代役として主役を演じることになり、脚本にもアレンジが効いている。
一人称が映画版などであった本来の”僕”に変わっているなど、様々な部分で変更がされている。
そういった準備も裏でしていたこともあり、浩二の今日までの準備は多忙そのものだった。
その頑張りをクラスメイトはずっと見ていたこともあり、最後のシーンを追加することにも反対意見は出なかったという経緯が実はあった。
「始まっちまったなぁ……もう、最後まで駆け抜けるしかねぇな」
浩二は自らを奮起させようと苦笑いで言葉を絞り出して、張り詰める空気の中、なんとか演技に望もうとしていた。




