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魔法使いと繋がる世界EP3~Clover destiny & World end archive~  作者: shiori


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第十四話「魔法使いの疾走」4

「―――本当にいたのね、会いたくなかったけど、これだけの悪しき気配を漂わせる怨霊を放置しては置けないわね」


 私がここにやってきたことを認識しさらに機嫌を悪くしたのか、耳障りな女の呻き声がさらに強く大浴場に響き渡る。


 敵として認識されてしまった以上、もう逃げることは出来ない。

 ファイアウォールを掛けていることで物音も外部には漏れず、誰もこの異常な現場に気付くことはないが、出来ることなら関わりたくない相手には違いなかった。



「人にあんな変な……いやらしい夢を見させておいて、ただじゃおかないわよ!!

 

 抵抗するかと思いますが、出来るだけ早く成仏させて差しあげます。


 それでは、ご覚悟のほどお願いします」



 死刑執行を告げるように、黒い影に向かって最後通告を送る。

 既に正常な人の意志を持たない死者となった怨霊(おんりょう)は正体を見せずにただひたすらに呻き声を上げ、私のことを侵略者と言いたげに嫌悪感を抱くほどに壊れたスピーカーの如く声を響かせる。


 ファイアウォールを便利に活用できること、こうして悪鬼となり果てた怨霊の姿が視えること、それこそが一般人が知る由もない魔法使いが重宝される大きな要因でもある。


 この大浴場がお札まで張られ封鎖されているところを見るとこの怨霊は相当悪さを繰り返してきたのだろう。私にやってきたようにこのまま夢喰いを続け、より凶暴なゴーストになっては取り返しがつかない。


 誰もこれまでこの悪霊を成仏させられなかったのは残念ではあるが、私がどうにかするしかない。


 私は祈りを捧げるように黄泉(よみ)の門を開き、悪霊を異界送りしようとする。

 女将だろうか……上品な着物を着た姿の女性が黒い影の中から禍々しい姿をゆっくりと現す。


 あれが本体であることに間違いない、私は右手に魔力を込め真っ直ぐに手を伸ばし、そのまま成仏させようと黄泉の門へと引きずり込む。

 

 だが、それに抵抗した女将の幽霊はそのまま”ゴースト”へと変異し、黒い影の中から禍々しい血管の浮き出た触手を伸ばし、凄い勢いで私の方に襲い掛かってきた。


「使われてない浴場があるなって最初は思っていたけど、そうなの、ここであなたは手首を切って、温泉の中で自殺したのね」


 フラッシュバックするように怨霊の記憶が映像となって脳内に届いてくる。

 不幸のなれの果てとして”ゴースト”となったそれが女将の過去だった。


、強い死の臭いを浴び続けながら、私は魔法使いとして行使する本格的な超能力の一端を解放し、風を軽く身体に纏わせて天井にぶつからないようにジャンプして迫りくる触手を素早い動作で躱した。

 だが、回避しながら私が導き出した言葉にゴーストは嘆きの怒号を上げ、続きざまに触手を伸ばし襲い掛かる。



「ゴーストとの”初陣”がこんな形で巡ってくるなんて。


 私も運命に愛されていますね。


 いいですよ、お望み通り、送って差し上げますよ。


 あなたの気が済むように、私の魔法使いの力を解放して」



 私は自らの自信を示すように不敵な笑みを浮かべ、次々と触手をこちらに向けてくるゴーストに告げた。


 私自身、隠された”人類の敵”について、祖母が戦闘しているところを間近で見たわけではないが、その脅威については聞かれていた。だからこそ、この日が来ることはずっと前から覚悟してきた。


 だから、今になってこれまでの過去を振り返ってみれば、むしろ初陣が今になって訪れたのは遅すぎるくらいだろう。それほどに”ゴースト”は人類にとって無視のできない外敵だった。


 私は長い魔法使いの訓練の日々を糧に叫びを上げながら向かってくるゴーストの攻撃を次々と退け、軽快に大浴場を飛び回り、圧倒的速度で躱していく。


 触手の動きに合わせるように風を起こし、蝶々のように舞い、触手の容赦ない連続攻撃を繰り返し回避する。


 思ったよりも殺意のある真っ直ぐな攻撃は、この決して広くはない大浴場の中でも、むしろ今の私には回避しやすかった。



 ふわりふわりと自由自在に風を巻き起こし触手での攻撃を回避しながら、私は敵の動きが止まるのを待ちながら次の手を考える。

 


 今回現れたのは、ほとんど自分の意志を持たない怨念となった下位種のゴースト。さらに特異な能力を持ち合わせている上位種の存在も確認されている中、下位種に苦戦するわけにはいかない。



「―――意外にしつこいのね、でもっ!!!!!」



 そして、ゴーストの動きが鈍ったと同時に、私は己の持てる魔力を解放し、ゴーストへと立ち向かう。


 風を自由自在に使役し、その鋭い暴風を刃物のように使い、切り刻むイメージをそのままに、迫りくる触手をいとも簡単に切断する。


 切断された触手からは、視界の加減かは分からないが気味の悪いくらい大量の紫色の血液がどばどばと溢れ、動きを静止させた。


 肉塊となった触手を前に女の顔が憎悪に歪み、さらに触手を繰り出して私を襲ってくるが、その追撃に私は臆することなく、想定内の動きであることを認識し、次々と同じ要領で触手を切断させ、機能を停止させていく。



「さて、そろそろその攻撃も見飽きてしまったので、ここで閉幕といたしましょうかっ!!!」



 迫りくる触手を一掃したことを確認し、鞘から日本刀を勢いよく引き抜き、一閃を決めるイメージでゴーストを捉えようと接近していくと、そのまま私は魔力を銀色に光り輝く刀に意識を集中させる。



「―――人が、安心して眠るためには!!!!


 はぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!」



 ――—そして、変わり果てた女将を捉えた次の瞬間。



 周囲を包む光の粒が眩いばかりになまくらのはずだった日本刀に光を与え、奇跡の如く黄金色に輝かせると、そのまま両手で握り、おおきく振りかぶって勢いよく正体を現したゴーストへと向けて縦に一閃を放った。


 ゴーストは抵抗する隙もなく眩い光に包まれ、黒いモヤもろとも完全に消滅し、追撃の必要もなく一撃でもって祓う結果となった。

 

 怒号のような甲高い悲鳴を上げながらゴーストを消滅させると、魔力の消費が激しかったのもあり、光はあっという間に消え去って、風も止まった。


「風で斬るだけでもよかったけど、意外と役に立ったわね」


 本来、物理的干渉で退治しようとしても効果がないゴーストに対して、こうした物理的な武具を手に戦う必要は厳密にはないが、イメージ通りに格好よく決まったこともあり、私は満足した。


 私の魔法使いとしての特性である風を起こす能力は、私のメインウエポンであり、同時に鳥のように自由に飛び回り、素早い移動で回避することが出来る、基本的な私の戦闘方法である。


 ナイフのように動植物やゴーストを切り刻むことのできるこの風を巻き起こす私の能力は長年訓練を繰り返しながら鍛えてきた超能力だ。下位種のゴーストであれば、馬鹿みたいに油断して焦らなければそこまで苦戦することはないと、お婆様からも言われてきた。


 なお、最後に繰り出した攻撃については黙秘を貫くが、これも修行と魔力特性の賜物である。


 隠された人類の外敵、ゴーストとの初陣を終えた私は激しい運動の後のように疲労を抱えながら大浴場の出て。ファイアウォールの展開を終えると、建物に被害がないことを確認し、東館にある客室に戻って一日を終えた。

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