第十四話「魔法使いの疾走」1
修学旅行二日目の夜。
消灯時間を過ぎ、京都散策に繰り出した疲れもあったのか、演劇クラスの生徒達はすぐに眠りに落ちて、スヤスヤと静かな眠りについていた。
リバイバル公演前日ということもあり、消灯時間ギリギリまで追加のシーンの演じ方についての打ち合わせや本読みに追われることになった。
只でさえ、ゴールデンウイークの時とは勝手が違う旅館内での舞台公演で準備も大変という事情もあり、明日はクラス単位での京都観光とリハーサルとで分かれるようで、私は当然リハーサル中心に予定が組まれている。
(静かな夜なのに……やっぱり何かあるなぁ……この旅館)
私は不穏な気配を未だ感じ、不安を拭えずにいた。
それが今すぐ対処しないといけないほどの危険な存在かは分からないが、この修学旅行に水を差しているのは事実だった。
(警戒心も薄れて、記憶の収集には丁度いい夜なんだけど、私もちょっと疲れて来たかも……そういう気分になれないわね)
隣で無防備に眠る姿を見ながら思う、記憶を集めてアリスのアーカイブスを強固にするのは魔女の役割の一つだ。
それは情報の精度を高めるためにビッグデータを必要とするAIプログラムとまるっきり同じ構造であるけど、無作為に収集すればよいというわけでもない。
かき集められるだけ集めていく作業を繰り返せば、ガッカリするくらいの誰のためにもならないドジっ子が生成されてしまう。
それでは意味がないから、より有用なものを収集する必要がある、魔女はそのために繰り出されているといっても過言ではない。
私自身が必要と不必要の判断までをしているわけじゃないけど、この学園の生徒が持つ記憶であればそれなりに有用なサンプルとなるだろう。
もはや、余程の事情通しか知りえない”機械仕掛けの神”を信仰するのは酔狂なものだけど、それ故に人による自浄作用が必要不可欠言える。
私が夢の研究を続けてきたことが役に立つなら、それを行使しない理由もなかった。
瞳を開き、修学旅行特有の静かな夜に少し感傷的になりながら唯花さんの寝顔を見る。なんだろう……こんなに綺麗な顔立ちをした女性がバーチャルアイドルをしていることが勿体無いくらいに思える。将来的には生身でドラマ出演するなんてこともあるかもしれないが、それも楽しみに思えてくる。
でも、私は唯花さんの中を何一つ見れない、強い抵抗を受けているのを未だに感じる。それが私に対する警戒心や対抗心であるか考えても分からないけど、黒いモヤがかかったようで、魔力を込めて少し強く干渉しようとすると鋭い痛みを伴って抵抗される。
それは、明らかに”ファイアウォール”を唯花さん自身が常時展開していると思わざるおえないものだった。
(……唯花さんあなたは一体……おばあちゃんとも会っていたって聞いたし、ミステリアスね)
ミステリアスと一言でまとめてしまったことに酷く語彙力のなさを実感させられてしまうが、魅力的なところがたくさんある唯花さんについては不思議に思う事ばかりだった。
布団を被り、枕に頭を乗せながらゴロンと反対方向を向き、千歳さんの寝顔を観賞する。
(あぁ……イイ……たまらない……なんという心惹かれる美少女なのでしょう……)
変態チックな感想を抱きながら、ジロジロと寝顔を眺める。
もしも光の彼女でなかったら搔っ攫いたいくらいの可愛い寝顔を浮かべる千歳さん。
小顔な上に顔立ちも整っていて、選手としての実力も当然だがフィギュアスケーターとしての人気の高さも伺える魅力を容姿にも備えている。
スケートの大会映像は光と一緒によく見るが、もう舐め回したくなるくらい細く綺麗な足が伸びる姿は絶景そのものだ。
(修学旅行だし……少しくらい抱きついて、千歳さんの柔肌をこの身で味わっても罰が当たらないのではないか……?)
自分が男だったら変態認定され縄で拘束されかねない願望を浮かべながら私は明日も忙しいことを思い出し、ゆっくりとやましい感情を自粛して目を閉じた。




